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プレスリリースって何ですか?

 私は先日、自作で賞をいただいた。
「ブルーブラックのきせき」を他サイトのコンテストにエントリーしたところ、栄えある第1回の大賞となったのだ。

 LINEで、その連絡をもらった。初めてそれを読んだ時には、目が泳いでしまって、頭に入らなかった。今、何か『大賞』とか『あかつき草子さん』とかいう字を目にした。おまけに『賞金を振り込むので、銀行口座を書き込んで、いついつまでに返送してください』とあったような。新手の詐欺だろうか、と疑ってしまった。落ち着いて読み返し、娘にも確認してもらった。
「これって、受賞したって書いてあるんだよね?」
「そうだよ! やったやん! おめでとう!」
 やっと、理解した。それほどまでに、私は賞に縁遠いのだ。

 正式に発表され、選評を読む。
「読後は、1本の映画を観たような感慨深さがある」
 おおおお! 描写を丁寧にしてきた甲斐があった。
 何が嬉しいって、「あなたの書き方でいいんですよ」と認めてもらえたことだ。喜びが湧いて来た。
 友だちや職場の人にも話すと、驚き、次には我が事のように喜んでくれた。

 実はこの作品は、2年前に書いたものだ。
 地元の文学館で「小説ゼミ」を受講し、「物にストーリーをつける」という課題で書いた。作品集にも載せている。
 それで、事後承諾になってしまったが、文学館に連絡した。
 すると、それは、喜ばしいことなので、プレスリリースしましょうという話になった。(それって、何ですか? と質問したんだけどね)

 そして、地元2紙の取材を受けた。
 1紙目の記者さんは「なつき」も読んでくれていて、私のバックボーンを知りたがった。2時間、話をした。普段読む新聞の記事は、簡潔にまとめられている。けれどその裏で、これ程時間をかけて取材しているのだとわかった。
 つくづく記者とは、好奇心と他者に対する興味が無いと勤まらない職業だと実感した。

 2紙目は、女性の記者さんだった。
 「ブルーブラック」の感想を聞かせてくれた。
 あの作品は、最後にヒロイン六花の心情を万年筆が語っている。もともと、あの場面がモチーフとしてあった。それを成立させるために1万字の本文を書いたと言っても過言ではない。
「待ち合わせには行ってみたものの、実際に目の前に現れると、もう一杯一杯になってしまって、どうしていいかわからず、逃げ出してしまったんですよね」
 そうです。そうです。やっぱり女性だと、わかってもらえるのだと思った。そして、あの「独り言」で念押しされ、それを万年筆が語っているという視点がおもしろいと言ってくださった。

 質問され、私の中で漠然としていたことが、くっきりと浮彫りになった。
 私は、「ミニマム作家」だ。何の変哲もない日常の中で感じたことを題材に、書いている。昨日と同じ今日はない。同じ人間もいない。そこに光を当てたいと思う。
 私の作品を読んだ人が、自分と照らし合わせて、思い出を振り返ったり、生活を見直す。そういう事のきっかけになってくれたらいい。
 そして、自分と引き合わせてもらうためには、私の描写にリアルさが無ければダメだと思うのだ。

 人にとっては、小さな記事の一つだろう。私が受賞したこともそうだ。
 けれど私は、これがターニングポイントになると、確信している。

「ブルーブラックのきせき」
https://estar.jp/novels/25371508

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