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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-6

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第1レース 第5組 アタシのたいせつなものたち

第1レース 第6組 高校最後の行事

「谷川俊平です。よろしくお願いします☆」
 次の日の放課後、ひよりの席に連れて行くと、すぐに明るい声でそう言って笑う谷川。
 綾は内心ひやひやしながら、ひよりの様子を見守る。
 少し緊張した面持ちに見えるが、いつもどおり、ほんわりとした笑顔を返すひより。
「水谷ひよりです。よろしく、お願いします」
 落ち着かないように目を伏せ、髪留めに触れる。
 元々引っ込み思案で人見知りだから、このくらいのリアクションならば、想定内ではあるのだけれど、昨日巴から聞いた話が頭をよぎるせいで、綾だけは気が気ではない。
「オレ、料理できないけど、物運びとかならいくらでも手伝うから」
「……あ、はい。ありがとう、ございます」
 谷川の言葉にこくりと頷き、そのままだんまり。
 不思議そうに見下ろしていたが、ひよりの顔を覗き込むように谷川が身を乗り出す。
「カフェやるって瀬能から聞いたけど」
 突然のことにびっくりしたのか、ひよりがびくりとして少しだけ体を後ろに引いた。
「あ、驚かしちゃった? ごめん」
 その様子に、すぐに元の距離に戻る谷川。見ていられなくなって綾が口を開く。
「コンセプトカフェにしたいんだけど、何をテーマにするかがまだ決まってないのよね、ひより」
「あ、う、うん。そうなんです」
「コンセプトカフェ……?」
「メイド喫茶とかそういうの」
「メイド?!」
「例で言っただけ」
「なるほどなぁ。でも、そんなに凝るつもりでいるなら、やっぱ、人足らなくね?」
「んー、なので、谷川も友達で暇そうなのいたら紹介してくれると嬉しいのよね」
「はっはっはっ」
「なに?」
「自慢じゃねーけど、オレ、友達は少ないぜ」
 とてもむかつくどや顔で言われたので、綾はぴきっと頬を引きつらせた。
 ひよりが2人のやり取りを見守るように見上げていたが、綾の様子から察してすぐに口を開いた。
「ふふ。わたしも、あんまり友達いないからなぁ。どうしようね」
 谷川を見上げてニコニコ笑うので、つられたように谷川もニッカシ笑ってみせる。
 谷川俊平は、細原和斗引換券と考えることにしよう。彼なら人脈を持っている。綾は冷めた思考で心中つぶやく。
「……アタシはバスケ部メンバーに当たってみるね。あと、巴、手伝ってもいいって」
「須藤さんが……?」
 綾の言葉にひよりが解せないように首をかしげる。そんなにかしげるほどのことだろうか。
「トモエって?」
「アタシの友達。A組」
「ふーん」
 聞いておいて興味なさそうな返しをしてくる。なんなんだ、こいつは。
 谷川は少し考えるように天井を見上げている。
「同級生じゃなくてもいいの?」
「? ええ」
 綾はその意図を図りかねて戸惑いながら頷く。
「気が向いたら、ちょっと声は掛けてみるよ」
 その言葉に、ひよりが少し寂しそうに谷川を見上げた。
 自分の胃が持つか不安になってきた。
「水谷さんは」
「はい」
「出したいメニューとかないの? それをメインにできるテーマを合わせていくのがいい気がするけど」
「出したいメニュー」
「これが得意! みたいな」
「ああ。ちょっと、考えてみます」
「ひより、レパートリー多いから」
「ひとまず作ってみたくなって試しちゃうだけだから……」
「オレ、もう1個役に立てそうなの思いついた」
「え?」
「味見係。甘いもん、いくらでも食べられるから」
 得意げに笑って、お腹をさすってみせる。ひよりが思い出したように、鞄を開けた。
「クッキーありますけど、どうですか?」
 チャック付きのクリアバッグを取り出し、開けて2人に差し出してみせる。
 赤いジャムやチョコチップが真ん中に乗った可愛らしい形のクッキーだ。
「これも作ったの?」
「あ、はい。ようやく、いい食感に仕上がって」
「へぇ。いただきまーす」
 興味津々顔でクッキーをつまむとすぐに口に含む。
 ひよりが綾のほうに袋の口を向けてきたので、ありがと、という言葉と一緒にクッキーをつまみ頬張る。サクサクと隣で咀嚼音。
「……あれ」
「どうか、しました?」
「ん。あ、なんでも。美味い」
「よかった」
「軽い食感でクセになるね」
「よかったら、もうひとつどうですか?」
「いいの? じゃ、次はチョコチップのほうを」
 ルンルンで手を伸ばす谷川に、ひよりもようやく緊張が解けてきたのか、ニコニコと微笑みを返している。
「ひより、またあとで教えて」
 綾の声に、ひよりが嬉しそうに目を細めた。
「あ、うん。結構、この食感出すの大変だったから、すんなりは難しいかもしれないけど」
「うん。アサが好きそうだから一応頑張ってみるよ」
「あ、もう1袋あるからよかったら」
「いいの?」
「元々、綾ちゃんに食べてもらおうと思って持ってきたものだから」
「ありがと」
 そっと差し出された可愛い小袋を受け取り、笑顔を返す。
 谷川はその様子は気にすることもなく、「これ、ホントいくらでもいける」と楽しそうに呟いていた。

::::::::::::::::::::::::

「夏休み前にもう少し詰めときたいし、またミーティング付き合ってもらってもいい?」
 軽く話した内容をノートにまとめているひよりを横目に、綾は谷川に尋ねた。
 金曜が終業式なので、すぐ夏休みになってしまう。
 欲を言えば、もう少し人を集めておきたい。
「あー……、明日は病院があるから明後日かな。終業式だけど」
「病院……?」
「ちょっとね」
 綾の言葉をするっとかわすように素っ気なく答え、谷川はすぐに普段のへらついた表情に戻った。
 ノートをまとめ終わってペンをしまってから、ひよりが微笑んだ。
「わたしはいつでもだいじょうぶだよ。ユキちゃんにも伝えておくね」
 ユキは料理同好会の唯一の1年だ。
「そう? じゃ、明後日ね。谷川、細原にも声かけてもらっていい?」
「あいよ」
 その場でスマホを取り出していじり出す谷川。
 細原との連絡は谷川に任せてしまったほうがよさそうだ。
「……あんまり多くなっても仕方ないからなぁ。顔合わせは夏休み明けでいいかな、ひより」
 巴はたぶん来ないだろうし。という言葉が頭を過ぎる。
「いいけど……。本当にただお手伝いしてもらうだけになっちゃうけど、それでいいのかな」
「うん……そうなんだけど、ねぇ」
「……一応、聞いてみてもらってもいいかな。申し訳ないし」
「そうだね。……わかった」
「ごめんね。そもそも、人集めはわたしの仕事なのに」
 綾の考えていることを見透かしでもするように、申し訳なさそうに目を細めるひより。それに対してはすぐに首を横に振り返した。
 終業式の日といえば、彼女たちはソッコー帰宅して遊びに行くというので相場が決まっているのだ。
 自分はバスケ部だったから、基本的に終業式の日も部活があったので、一緒に遊んだことはないのだけれど。
 鞄に筆記用具をしまい終え、ひよりが立ち上がる。
「そろそろ、帰ろっか。楽しかったね、今日。少し考えもまとまった気がするし」
「そう? ならよかった」
 楽しかったのは別の理由だろーというのは野暮なので言わない。
「……もうこんな時間か。あ、カズ、少し遅れると思うけどOKだって」
「ホント? 谷川、確認ありがと」
「んにゃ別にこれくらいは。混ぜてもらうんだしね」
 綾の言葉に朗らかな笑みを返すと、フットワーク軽く自席に戻り、ひょいっとリュックサックを背負ってこちらに歩いてくる谷川。
「水谷さん、今日はご馳走様でした」
「ううん、これからどんどん味見頼むと思うから。こちらこそ、ありがとう、ございました」
 気恥ずかしそうに、それでも、なんとか谷川に対して言葉を返し、頭を下げるひより。
「じゃ、また明日」
「さよなら」
「谷川、バイバイ」
 白い歯を見せて、ひらひらと手を振りながら、廊下に出ていく谷川。
 それを見送ってから、綾も自分の席に置いておいたバッグを取りに行く。
 机の中に入れたままのものがないか確認してから、バッグを肩にかけて振り返ると、まだひよりは廊下を見つめていた。
 どうしたもんかなぁ。気付いているって話したほうがいいんだろうか。
「ひより、人見知りするから心配だったけど、大丈夫そう?」
「え? ……あ、うん。へーきだよ。それに……今回はそうも言ってられないっていうか」
 綾の声でひよりがこちらを向き、申し訳なさそうに目を細める。
「綾ちゃん、あんまり、わたしのことばっかり構わなくて、だいじょうぶだからね?」
「何が? アタシはやりたいからやってんのよ?」
「……そう、なんだろうけど」
「何?」
「ううん、なんでも」
 ひよりは俯きがちに首を横に振ると、机の上に置いておいた鞄を持ち上げた。
「このままだと、ユキちゃんの代が心配だし……頑張らないとね」
 言い聞かせるようにぽつりと呟くひより。
 綾は歩み寄りながらその言葉を受け、うーんと唸った。
 その声でひよりの視線がこちらに向く。
「それもあるんだけどさ」
 可愛らしい目をまん丸にしてこちらを見てくるので、綾は微笑みを返す。
「一緒に行事ごとやるのなんて、これで最後じゃん、きっと」
「綾ちゃん……」
「だから、アタシはやりたいからやってんの。ひより、もう、アタシに対してだけはそんなこと言わないでね」
 綾の言葉に、ひよりがこくりと頷いた。

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