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青春小説「STAR LIGHT DASH!!」1-10

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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」

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第1レース 第9組 ちょっぴりビターなソーダ水

第1レース 第10組 Yours

『あいつ、そんなに器用な奴じゃないから。ゆーかちゃんから話しかけてやりなよ』
 5月のゴールデンウィーク。たまたま、犬の散歩の際にすれ違った彼女にそう声を掛けた。
 見守ろうと決めていたが、さすがに1カ月の進展なしに痺れを切らしてのことだった。
 器用じゃないのは、この少女だって一緒だというのに。
『カズくんはいいよね』
『え?』
『これから先、何があったって、シュンの傍にいられるんだから』
『……それはどういう?』
『ホント、あたし、そういう意味ではカズくん嫌い』
 はっきり言われて思わず苦笑を漏らすと、それが不快だったのか、邑香が唇を尖らせた。
『今のシュンはあたしのこと、必要としてないよ』
『必要じゃないと話しかけちゃダメなの?』
『……ホント、カズくん嫌い』

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「遅くなってごめん」
 終業式の後片付けなどの雑務処理がようやく終わって、和斗は3-Cの教室に戻った。
 廊下側の机を6つ寄せて、話し合いのスペースを作っているメンバー。
 俊平、ひより、綾……1人見慣れない眼鏡をかけた女子生徒――ネームプレートを見ると、”紗田 雪”と書かれている――。
 廊下側から見て奥の席には綾と紗田。その向かい側にひより。1席空けて俊平の並びで座っていた。和斗は少し迷ったが、俊平とひよりの間の空いている席に腰かけた。
「今、どういう状況?」
 慣れた調子で状況確認すると、それに対して、綾が慣れた調子で返してくる。
「夏休み中にやっておいたほうがいいことを整理してたところ」
「コツコツやらないと色々大変そうだもんね」
「そうなの」
「コンセプトカフェだっけ? テーマは決まったの?」
「そこは、細原が来てから多数決にしようかって話してたの」
「ああ、案は出てるんだね」
 すっとひよりから差し出されたメモ書きに目を通す。
 ゴーストカフェ。執事喫茶。和装喫茶。
 ゴースト。
「ふっ」
 和斗はその4文字に思わず吹き出しそうになる。それをじろりと睨んでくる俊平。
「ふーん。執事喫茶って言っても、こいつのガタイのスーツ用意するの、めちゃくちゃ大変だからもう決まったようなもんじゃん」
 和斗が朗らかな声で言うと、俊平がとても嫌そうな顔をした。このご様子、他の女子たちは気付いているのだろうか。
「えー、でも、私は綾先輩の執事姿見てみたいです」
 紗田が反論するように声を上げる。
 なるほど。確かに需要はあるだろう。親友としては、俊平が嫌がっているものに転がるような采配はしないであげたいところではある。
「けど、面白そうなんだよなぁ」
 なんとなくもたげてしまう嗜虐心。
「コンセプトカフェってなると、衣装関連で色々コストかかりそうだよね。裁縫得意なメンバーは集められそうなの?」
「一応、ここ2人はできるよ」
 綾が女子を指して頷いてみせる。
「アタシは得意ではないけど、最低ラインの戦力にはなれるんじゃないかな」
「へぇ……3人とも、器用なんだね」
 感心して笑顔を返すと、正面に座っている紗田が照れたように俯いた。
「裏方と、当日フロアに出るメンバーの数をある程度見積もったほうがいいと思うよ。それに合わせて、おれも声掛けるからさ」
「ああ、確かにそうね」
「今のところ、何人くらい手伝ってくれそうなの?」
「アタシ周りで5人くらい。全員女子」
「私の友達で当日手が空いている子が3人ほど、手伝ってもいいって言ってくれています」
 綾と紗田がそれぞれ回答してくれる。
「じゃ、あと最低でも5人いればなんとかなりそうかな。できれば、交代制にしたいしね」
 両隣の2人がほとんど声を発していない気がするのは気のせいだろうか。
「男手が足りないんだよね。さすがに、谷川に全部任せるわけにいかないし」
「そうだね。それに、せっかくのカフェなら、男女並んだほうが風情もあると思うよ」
 話している内容をひよりが黙々とメモしている。
 元々、この子は前に出るタイプの子でもないから適任なのだろうけれど、綾の話ではひよりが主役だったのではなかっただろうか。
「水谷さん」
「は、はい」
「水谷さんは、どれやりたいの?」
 右隣に優しく問いかけると、ひよりは慌ててペンを置いて、こちらを見た。
 いつも俯いているから分かりにくいけれど、可愛らしい顔立ちをした子だ。
「あ、あの、わたしは、ゴーストカフェが……」
「へぇ。理由とかある?」
「10月はハロウィンの空気もあるし、お菓子も、可愛いのが作りやすいので」
 楽しそうに目を細めて話してくれた。こんな風に笑う子だったのか、と思わず感心してしまう。
 ひよりの言葉を聞いて、はぁ、と左隣からため息が漏れるのが聞こえた。
「ゴーストカフェでいいじゃん。水谷さんがやりたいなら確定だろ」
 些か投げやりにも聞こえそうな俊平の言葉。
 けれど、ひよりの心には届いたらしい。俊平のほうに視線をやって、少し嬉しそうに頬をほころばせたように見えた。
「瀬能の男装が見たいなら、そういうのを着てもらえばいいだけだし」
「えー、アタシ、裏方やる気満々なんだけど」
「……それは無理があるんじゃない?」
 俊平の提案に対する綾の不満そうな声に、和斗は苦笑する。どう考えても前線要員だろう。
「ひより先輩がやりたいって言うなら、それがいちばんです」
 先程まで執事喫茶を推していた紗田も、ひよりのあまりに楽しそうな話し方にほだされたのか、はっきりとそう言い切った。
「ゴーストカフェで確定、ですね。みなさん、ありがとうございます」
 ひよりが仰々しく頭を下げ、メモ書きのゴーストカフェの横に花丸を赤ペンで書いた。
「先輩たちは受験もありますし、大変そうな作業は私に振っていただいて大丈夫ですから」
 紗田の真面目な声。
「まぁ、そのために、夏休み前から色々動いてるわけだし、大丈夫よ。装飾や衣装作成は始められるところから始めちゃお」
 綾がのんびりとそう言い、その後に「デザイン周り強い人いないなぁ」と悩ましそうに呟く。
「看板作成とかは直前だよね。置いておくスペース的に」
「そうね。生地は買わないまでも、どういう衣装作るかとかは決めちゃいたいなぁ。ね、ひより?」
「え、あ、そ、そうだね……」
「時間も時間だし、今日のところはこのへんにしない? 続きは、グループチャットで。瀬能さん、グループ作ってもらっていい?」
 時計を見ると、今日の下校時刻が迫っていたので、和斗はそう促した。
 おそらく、この場で全員のアカウントを把握しているのは綾だけだろう。
「テーマは決まったし、レシピの案はひよりとユキに任せるわね」
「うん」
「もちろんです! 楽しみだなぁ」
「買い出しとか必要なら声かけてね。オレ、そのくらいしか力になれそうにないし」
 居心地悪そうにほとんど言葉を発していなかったのはそのせいか。
「谷川、装飾作りお願いしていい? 全体イメージできたら、何が必要か送るからさ」
「え、あ、了解。あれか? 輪っかとか花とかそういうの?」
「……ゴーストカフェでなんで輪っかや花になるのよ。ゴースト系の装飾よ」
「えっ?!」
 裏返りそうな声を上げる俊平に、和斗は隣で吹き出しそうになるのを堪える。
「なに?」
「いーや、なんでも。了解」
 怪訝な表情の綾に、平静を装って回答する俊平。絶対誤魔化しきれていない。
「細原、人集めお願いしていい? 残りは男子がいいんだけど」
「もちろん」
「……じゃ、今日はこのへんで。みなさん、ありがとうございました」
「「「「お疲れ様でした!」」」」」
 それぞれ席を立つと、借りていた机を元の位置にガタガタと戻していく。
「あんたたち、そろそろ、帰んなよー」
 ちょうど見回りに来ていたのか、車道先生が教室に顔を出した。
「今帰るところでーす」
「あ、俊平じゃん。なに? 何の集まり?」
「文化祭の打ち合わせっす」
「へぇ。何やるの?」
「カフェです」
「ほー、楽しそうじゃーん」
 俊平の屈託のない調子に、車道先生も同じくらい屈託なく返している。ノリが合うのだろうか。
「ユキ、ひより、せっかくだから何か食べて帰ろ」
 後ろでそんな声。教師のいる場でなかなか大胆だ。
「みんな、気を付けて帰りなさいよー」
 おそらく、聞こえないふりをしてくれた車道先生は、そのまま見回りに戻っていった。
「舞ちゃん、ばいばーい」
 慣れた様子で綾が手を振り、2人を連れて教室を出て行く。
「帰るか」
 俊平は大きく伸びをすると、リュックを背負って和斗に促してきた。
「お前、大丈夫か?」
 自席の鞄を取りに行きながら、それだけ問う。
「おどかされる側じゃないなら大丈夫なんじゃねーの?」
 興味もなさそうに素っ気ない口調でそう返してくる。
「自分から譲ってしまったしなぁ」
「本当にやりたいことがある子に譲るのは当然じゃねーか」
 ああ、そうだ。お前はそういう男だった。
「そうだな。せいぜい、恥をかかないように頑張れよ」
「……うるせー」
 不機嫌そうに返してくる親友に、和斗はただくすりと笑いをこぼした。

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第1レース 第11組 Beside you


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