連載小説「STAR LIGHT DASH!!」2-10
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連載小説「STAR LIGHT DASH!!」
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第2レース 第9組 Step by Step
第2レース 第10組 青春星夜
『くーちゃんが優しいからって甘えてますよね?』
舞のカノジョ・遠野清香(とおのさやか)は可愛らしい人だが、時々とても手厳しいことを言う。
はじめは遠慮していたのか控えめに拓海からの要求に応えていたが、ちょっとやりすぎたようで(と言うと、たぶん、彼女は怒るだろう)、それ以降は極力無難にピアノを弾いてくれればいい、というスタンスで接するようにしていた。
容姿は一般的に言うところのふんわり癒し系――初めて見た時、可愛い人だなと感じた――。けれど、中身が割とめんどくさいタイプだ。
蠍座だったっけ。心の中でそんなことを考えながら、彼女の声を聴く。良い音だ。
何も言い返してこない拓海に対し、彼女は笑顔ながらも明らかにいらっとしているのがわかった。
『もったいないから』
『え?』
『さやかさんはいい音といい”彩”を持っているから、あまり怒らないほうが素敵ですよ』
『……はぁ』
拓海の言葉に毒気が抜けたように彼女は息を吐き出し、頭を抱える。
『なんで、くーちゃんは変なのに好かれるの』
隠すつもりもないボリュームでそう言い、ゆるゆるウェーブのかかった色素薄めの髪を掻き上げる。
別にこちらは何も頼んでいないのだけれど。そんなことを言ったらまた彼女が淀んだ音に包まれるのが分かったので、拓海はさすがにそれ以上は何も言わなかった。
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舞と知り合ったのは2年ほど前。
音楽仲間の二ノ宮賢吾が、こんな辺鄙な街に突然彼女を連れて訪ねてきたのがきっかけだった。
音楽知識は全くない。朗らかで風見鶏スタイルの美人。会った時感じた印象はそんなものだ。
当時の彼女は院生だった。現在教師として仕事はしているが、彼女自身は専攻の学問をもう少し勉強したいらしい。空き待ちをするために選んだのが学校教諭とのこと。教職免許もついでに取っていたからとはいえ、このご時世、かなり物好きなことだ。
『今、音楽療法の勉強をしていて……あたし、音楽関係はからっきしなので、誰かいい人いないか、賢吾さんに聞いたら、あなたの名前が挙がったんです』
『はぁ』
『この子とは地元が一緒でさ。弟が同級生でよく世話になってるんだよね』
8割の本当に、2割の嘘が混じっているのはよく”見えて”いたけれど、害もなさそうだし、まぁいいかと引き受けた。
人にはあまり興味がない。自分のやりたいことの邪魔さえしないのなら問題はないだろう。
そう考えてのことだったが、まさか、近くの高校に赴任してくるとは。めぐりあわせもここまで来ると恐ろしいものがある。
:::::::::::::::::::
夕方、舞に連絡したら、「いいよ」と回答があったので、車で学校付近まで迎えに来た。
「え? 藤さん、やってくれるの?」
車を発進させてすぐに、どうしても伝えたかった話題を出したら、舞は意外そうに言った。
「藤さんのお友達2人も」
「……えぇ、何があったの。拓海、あんた、たまに手段選ばないから……」
「なに、その語弊のある言い方」
あまりの舞の言いように、拓海は唇を尖らせる。
「聖へレスの定演なんて、やってもやらなくても一緒よ」
「……ずいぶんな言いようだなぁ」
「教える側にしかなれない人たちに、本当の才能は見つけられない」
拓海はウィンカーをONにし、ハンドルを右に傾ける。
「いつものとこでいい?」
「ああ、うん。おなかすいたなぁ」
思うところはあるだろうに、舞は何も言ってこない。たまに、彼女のこういうところがよくわからない。”彩が見えにくい”のも、彼女の性質なのだろうか。
「学校側には話は通しておくようだろうなぁ……」
「別にいいんじゃない?」
「聖へレスとかお堅いイメージしかないな。OK出るかな」
「金曜に藤さんに声掛けたのは舞でしょうに」
「あの時は思い付き半分だったからね。断られると踏んでたし。でもまぁ……うん、拓海が何かしでかしそうとも思ってたな……」
「今日藤さんたちに会ったのはただの偶然よ?」
「そうだねぇ。でも、絶対、千載一遇のチャンスって思ったであろう拓海も目に浮かぶんだよねぇ」
――よくわかってらっしゃる。それは否定しない。
「まぁいっか。拓海嬉しそうだし」
「え?」
「あたしのこと誘う程度にはルンルンなわけでしょ?」
見透かしたようにそう言って、嬉しそうに笑うと、舞はこちらを見ずに窓の外に視線をやる。
『くーちゃんが優しいからって甘えてますよね?』
確かに、気は許してしまっているのだろう。さやかに言われたことがなんとなく過ぎって、一人頷いてしまう。
「高校には明日話通しておくから。校内で練習したいならスケジュール決めて連絡ちょーだいね」
「ええ。ありがとう」
しかし、後夜祭にわざわざ学外の人間を巻き込もうとするなど、舞の大胆な行動には恐れ入る。
「うちの高校、2年に1度しか文化祭やらないからさ。紹介した2人は2年生だけど、最初で最後の高校の文化祭なんだよね」
舞の真面目な声。
「だから、よろしくね」
「……先生だなぁ」
「拓海も一緒に青春しちゃおうよ」
照れくさかったのか、ふざけた調子でそう言い加える舞。
川沿いに差し掛かると、反射材を腕に巻いて走っている人の背中が視界に入ってきた。
「あれー? 俊平かな」
「え、ほぼ影だけど」
目聡い舞に若干引きながら拓海は苦笑を漏らす。
「おうちがどのへんか知らないけど、元気ね」
彼のイメージに合うので違和感なく受け入れてそう呟くと、舞が窓を開けたので、仕方なくウィンカーをONにして、路肩に停める。
追い越してしまったので、彼が走ってくるまで少しだけ待った。
サイドミラーにランニングスタイルの俊平が映る。
「俊平!」
舞が呼び止めると、俊平がスピードを緩めて止まった。
タオルで汗を拭い、朗らかに白い歯を見せて笑う。本当に屈託のない人物だ。
「こんばんわ!」
元気な挨拶。
「おつかれさま。俊平、トレーニングOK出たのって、ついこないだでしょ。そんなハイペースで走って大丈夫なの?」
「先生たちとはちゃんと話してるから大丈夫っす」
「……そう。熱心なのはいいことだけど、無茶しないでね?」
「舞先生、たまに母さんみたいなこと言うよね」
「はぁ?」
「冗談。だいじょーぶだってば!」
へらへらと軽薄に笑い、親指を立てて問題ないことをアピールしてくる。
2人のやり取りを見ているだけだったが、俊平が思い出したように拓海に視線を寄越した。
「ナオコちゃん、月代さんとバンドやることにしたって聞きました!」
朗らかな笑顔。たまに眩しく感じる。拓海は頷き返して、口を開いた。
「谷川くんは怒るかと思った」
「え?」
「金曜、むちゃくちゃなことにこの子を巻き込むなってオーラが凄かったから」
「……そりゃ」
ポリポリと腕を掻く俊平。
「あの時の2人の提案はむちゃくちゃだったし、ナオコちゃんのペースを考えてあげてなかったから」
思い出すようにそう言って、首に手を添え、空を見上げる。そして、また屈託のない笑顔。
「ナオコちゃんがやりたいんだったら、オレは何も言うことないですよ」
「保護者だ」
「保護者」
舞と拓海の声がハモる。
「はぁ? オレ、あの子と3つしか違わないですから。保護者とかやめてくださいよ」
「7つしか違わないのに母さん扱いされたあたしの立場」
舞の言葉に拓海が吹き出す。
俊平は困ったように目を細めたが、スルーするように視線を動かし、もう一度こちらを見てきた。真面目な眼差し。
「ナオコちゃんは頑張り屋さんで真っ直ぐな子なので、よろしくお願いします」
「「保護者」」
「だーから、違うっちゅーに!」
2人のハモリにすかさず突っ込んでくる。それがおかしくて2人は笑う。
「やるからにはちゃんとやる、が信条だから安心して」
「じゃ、オレ、まだ走るんで。おやすみなさい」
拓海の返答に満足したのか、笑顔で頷くとそう言って手を振り、ゆっくりと走っていってしまった。
「リハビリ仲間って言ってたからなぁ。大事な友達なんだろうね」
舞が窓を閉めてからそう言う。
「そういえば、リハビリって? 谷川くん、どこか悪いの?」
「春先に膝を怪我したって聞いてる。あたしが赴任するよりも前の話」
舞はそこまでしか話してくれなかった。生徒のセンシティブな情報はさすがに口外できないだろうから仕方ないか。
「……頑張っちゃう子は心配だよねぇ」
付け加えるようにぼんやりと呟いたのが、エンジンの音に微妙に掻き消されながらも聞こえてきた。
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もしよければ、俊平にスポドリ奢ってあげてください(^-^)