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遥かなる星

このところ、コロナ防疫が終わらない予測や、パンデミック後に変容する世界予測が取り沙汰されるが、そんな時思い起こすのがこの作品だ。

『征途』と並ぶ私の大好物。
佐藤大輔さんの、途中で世界線が変わった現代史小説だ。今回はどうしてもパンデミック後と、全面核戦争後がだぶったことから、三部作中の第1巻と2巻を紹介。

まず表紙から目を引くのだが、イラストレーターとして、また漫画家としても一つの地位を築いている鶴田謙二さんの作品だ。
1巻では国産大型ロケット、2巻では日の丸をつけたXB-70バルキリーを独特なタッチで、ジュブナイル小説のように描いている。

この世界では、我々の歴史より少しだけ輸入研究が進んでいる航空自衛隊、少しだけ技術開発が盛んなメーカーが実現しているが、こちら側の歴史と同じくキューバ危機は深刻に。
そして始まった。

日本近海では反応兵器を撃ち込むために、ソビエトの潜水艦が侵入。自衛隊の反撃と艦内の事故によって攻撃潜水艦は沈没。日本への近海からの核攻撃は避けられた。
しかしソビエトは、アメリカのキューバ進攻への反撃として、アメリカに向けられたすべての核兵器を発射。
ケネディ大統領は反撃命令の決断が遅れて、間もなくアメリカ合衆国は壊滅した。

ソビエトは同時にアメリカとソビエトが壊滅した後に強くなるであろう中国などの第三国へもありったけの核を撃ち込んだ。
第1巻はここまで。

第2巻は第三次世界大戦後の日本の混乱と、戦時の努力と偶然によって、地球上でほぼ唯一の先進国となった後の世界が描かれている。
ソビエトとの戦後の継戦によって、南北に分かれてしまった中国。政治中枢と産業基盤を失って東西に分かれてしまったアメリカ。核開発能力とその背景となる産業力低下で、宇宙開発に集中するソビエト。世界で宇宙開発のレースを走るのは、ソビエトと日本のみとなった。
最後のエピソードは、日本の重量往還ロケットがトラブルからアメリカ東軍と西軍の争いに巻き込まれるサスペンスだ。

そして物語は第3巻へ。

今や防疫戦まっただ中のはずの日本。
公教育によって全国平均化されてきた、元々の衛生習慣に加えて、おそらくいくつかの幸運によってパンデミックを抑え込んでいる現状を考えると、この小説のプロットを思い起こさせられるのだった。

ぜひ三部作を通しで読んでみてほしいと思う。

3年前の佐藤さんの訃報が突然で、その年齢から亡くなってしまう想像などしたこともなかった私は、新しい作品を読めないという現実に嘆いた。
最後に改めてご冥福を祈ることとする。

入手可

遥かなる星
佐藤大輔
徳間書店 1995年

遙かなる星〈1〉パックス・アメリカーナ (トクマ・ノベルズ)

遙かなる星〈2〉この悪しき世界 (トクマ・ノベルズ)

遙かなる星〈3〉我等の星 彼等の空 (トクマ・ノベルズ)

遙かなる星1 パックス・アメリカーナ (ハヤカワ文庫JA)

遙かなる星2 この悪しき世界 (ハヤカワ文庫JA)

遙かなる星 3──我等の星 彼等の空 (ハヤカワ文庫JA)

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