Mくん。 2

「ね〜Mくん嫌いなものは何〜?」

少しの会話と共に私達はスズラン通りを歩いていた。

老体の私に気を使っているのか彼の歩くペースはゆっくりだ。はたから見たら孫と祖母の関係に見られても全く不思議ではない。この異様な並びを人はどう見るのだろう。ママ活に見えるのかな?いや、介護だよね。などと考えていたら無性に可笑しく思えた。

そんな私をよそに彼は答える。

「俺嫌いなものほとんどないですよ。あ!でも脂身とレバーと貝とグリンピース・・・・・・」

(あと何て言ってたかな)嫌いなものがほとんど無いと言って置きながら真剣な顔をしてどんどん嫌いなものを羅列する彼。

「なんだよ。嫌いなもの多いじゃない(笑)」

「あ・・・ですね(笑)」

この和やかな雰囲気が私達の緊張感を自然と解してくれていた。もしかしたらそれは彼の計らいであったのかもしれない。だとしたら随分出来る子だ。


「もう歩くの疲れません?ここら辺で決めましょう!駅まで戻るのも大変そうだし」

彼の言葉に促され私たちは目に付いた大衆居酒屋へ入ることにした。

「あ。タバコ吸うんですけど・・・」

「いいよ〜私はやめたけど昔は吸っていたから」

そう。余談だが素行が悪かった私は13でタバコを覚え40歳を機にきっぱり止めたのだ。

「なんかアケミさん吸ってるイメージ(笑)よく止めれましたね!」

うん。品が無さそうとかよく言われるしおばば今更気にしちゃいないよ。どんどん思ったこと言っておくれ。


席に着きとりあえず生ビールと生グレープフルーツサワーを注文しメニューを選ぶ。

「好きなもの注文して〜私遠慮は嫌いだからね〜」と私の決まり文句を彼に伝える。真剣に選んでいる様子で一時の沈黙はあったが適当なものを注文し寒いから鍋を突こうということになった。

「ホルモンって内臓で脂身っぽいけど食べれるの?」

「はい!ホルモンは大好きです!」

・・・そうなの?やっぱちょっと変な子かも(笑)


二人の出会いに乾杯し話は弾む。

「Mくん作曲してるんだって?」私は信じられないという感じで彼に聞いていた。何故なら彼の容姿からは芸術家の匂いが全くしなかったからだ。失礼だが芸術家と言えば線の細い今にも倒れそうな繊細な人をイメージしていた。彼のツイッターにある逞しい裸体はそういう感じでは無い。その裸体に惹かれたからこそ私は彼をフォローしていたし、まさか彼からメールが来るとは思ってもいなかった。

プライバシーになるので割愛するが彼は嬉しそうに自分のしていることをあれこれと語ってくれた。私は彼の熱心に説明するお顔をツマミにどんどん酒が進む。


「そういえばアケミさんはツイッターに書いてあること本当なんですか?(笑)」

話題は私の方へシフトしていた。

「少しオーバーに面白可笑しく書くこともあるけどほぼ本当のことだよ」

「こんな人本当に居るのかなと思ってメールしてみました(笑)」

「そんなに面白い?あまり行き過ぎるとわざとらしいから抑えてるんだけど書きたいことがこみ上げて我慢できなくなるの〜」

と私もなんだか嬉しくなってツイッターのことやら家族のことやら自分の説明を続けた。

「これは何活になるんですかね?飲み活ってことですかね(笑)」

と彼は言う。

先ほども言ったが私達は特別な取り決めも無く会っている。言わば勢い。貴方が飲み活だと言っても私の頭には茎活という文字も浮かんでいるよ・・・とは言えず「そうかな」と笑って頷く。


お互いに話が盛り上がり、彼はペース衰えることなくどんどんビールを流し込んでいる。

そんな彼と接して2時間あまり、彼への印象が段々と固まりつつあった。

【よく食べてよく飲んでよく笑う子。】


彼はニコニコしながら「次どこ行きますか〜?カラオケですか?」と得意の八重歯を覗かせる。



続く。


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