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定食屋さん

コルドンブルー。

思い浮かんだのは、海でした。
ちょっと濃いめの、青くて穏やかな海。

でも、ここはレストラン。
海はおいてないでしょう。
じゃあ、ワインかな?
飲み物の名前ならあり得ます。

商店街の中にある小さなレストランに入り、おすすめに書かれてあった文字を見て、考えました。

「このコルドンブルーは、お料理ですか?」
短髪で、清潔なコック帽をかぶったシェフに聞きました。

「そうですよ。名前だけだと、どんなものか見当が付かないですよね。
スイスが発祥と言われているフライです」
「じゃあ、それをお願いします。ライスと本日のサラダも一緒に付けて下さい」

何のフライなのかは、あえて聞きませんでした。
食べれば分かるでしょうし、想像するのも楽しいからです。

フライは、かなり幅が広い。
肉、魚、野菜、何でもOK。
素材をえり好みしない調理法です。

スイスが発祥と言っていたけれど、やはりチーズかな。じゃがいもかもしれない。

そもそも、スイスのことをそれ程知っているわけではありません。
高い山があって、きれいな景色を堪能できるところ。
名物料理は、チーズフォンデュ。

考えているうちに、お皿が運ばれてきました。
ちょっと薄いきつね色をしたフライが、二つのっています。結構大きい。
ライスを大盛りにすれば良かったなと、思いました。

「いただきます」
ナイフでそうっと切り込みを入れました。
断面から、ピンク色のハムがのぞき、クリーム色のチーズが流れ出てきました。急いで口にいれます。

「うわあ、おいしい……」
薄切りの豚肉を重ねた間に、チーズとハムを挟み込んであります。
揚げたてで、さっくさく。
ハムとチーズの塩気が、豚肉にもしみこんでいます。
ソースは、全く必要ありません。

ハーブを彩りよく盛ったサラダが、いい箸休めになりました。
みるみるうちに、ご飯がなくなります。

「ライスのお代わりを下さい」
薄切りとはいえ、何層にも重なった豚肉は、かなりのボリュームです。
シェフはニコッと笑って、すぐに持ってきてくれました。

食べすぎかな、と思いつつも、やはり食欲には勝てません。
あつあつのフライに、湯気の立つ白いご飯。
お腹がいっぱいになりました。

さっぱりとした緑茶が飲みたいけれど、さすがにそれは無理。
コーヒーを注文しました。

おしゃれなお店ですが、私にとっては「コルドンブルー定食屋さん」です。

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