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仮面

マスク姿が当たり前になりました。

家族以外で相手の顔を見るのは、食事時のみ。
zoomやスカイプの方が、よほど素顔を見ています。

むしろその方がいい、と友人が言うので、理由を聞いてみました。

「マスクをしていれば、どんな表情でも隠せるから」
「え? もしかして変顔でもしているの?」

元気のない彼女を笑わせようと思って、冗談ぽく聞いたのですが、真顔で答えが返ってきました。

「会社で落ち込んでいる顔を見られたくないから、ちょうどいいのよ。ため息をついても、気がつかれずにすむでしょ?」

ハッとしました。

彼女にとって、マスクはウィルスを避けるためではなく、自分を防御するためだったのです。

下を向いて、口をゆがめても分からない。
声に出せない反論を、口パクしても大丈夫。
少しくらいの涙なら、マスクでごまかせる。

もともと元気で明るいタイプなのに、表情が弱々しくなっていて、胸が痛みました。

「化粧もしなくて済むからラクだし、ずっとこのままでもいいなあ」

おしゃれな彼女とは思えない発言に、なんと言っていいか分かりません.
でした。

私は、マスクをするとかえって苦しくなるので、どうしても必要な時以外は、しないようにしています。
耳も痛くなるし、暑いと妙にもわもわする。その不快感が苦手なのです。

「確かに苦しいけれど、精神的にはラクだから。すごくほっとするの」

かすかな笑顔が哀しみをまとっていて、直視するのにためらいを感じました。

マスクという仮面を付けないと、保たない人がいる。

身体の不快感よりも上回るこころの叫びは、マスクが吸収してしまう。
目に映らなくても、そこに辛さや苦しさが存在しているのです。

話を聞いていて、こわくなりました。

隠れていれば、人目に触れなければ、どんな表情をしてもいい。
愚痴や言葉の攻撃をしても大丈夫。

それは、その人自身を更に傷つけてしまうような気がするのです。

ささくれた気持ちを中心に、澱みが生まれて濃くなっていく。
それが自分のまわりに、伝染してしまう。

「マスクのおかげで助かった」

このセリフに込められた意味は、誰が、どんな状況でいるのかによって違うのでしょう。

少しでも心が安らげるように、祈ります。

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