苧阪直行、「禅の瞑想意識と脳のデフォルトモードネットワーク」

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URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tja/77/2/77_117/_pdf/-char/en

なぜ選んだか

  • 私は瞑想が、脳の機能を回復させたり、トラウマを忘却させたりできるのではないか、そしてそれを計測することで現象を再現可能としたい、という問題意識を持っている。

  • この論文は、デフォルトモードネットワーク(DMN)という脳がある種自動的な内省活動を行う際に活動する神経ネットワークと瞑想との関係を調べた論文のようであり、気を引いたから。なおかつ比較的新しい原稿であった為。

  • また、瞑想というのがある種東洋的な実践であるのに対し、DMNが西洋的科学的なものである為、両者の橋渡しとなる知見が得られる事を期待した。

私的リサーチクエスチョン

瞑想とDMNの関係は?瞑想をするとDMNは活性化するのか抑制されるのか?

瞑想が始まると、僧侶群では、差分データでは検討したすべての脳領域で瞑想開始後、活動はマイナス領域を維持したが、コントロール群では減少傾向が見いだせなかった。
(中略)
マインドワンダリングの多い人々ではDMNの一部であるMPFC、PCCや楔前部の活動が高いという傾向が報告されているが(Mason et al., 2007)、今回の実験でもその傾向が認められた。

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また、脳活動の低下は、瞑想経験者の反応の正確さと注意制御の効率化を伴って認められるという(Bailey et al., 2020)。僧侶群で活性化が抑制された主な理由は、修行中の長期にわたる座禅による瞑想の結果、マインドワンダリングを抑制する認知的制御の能力が潜在的に培われた結果であると推測される (Langenecker elt al., 2004)

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どうやらDMNはマインドワンダリングという、純粋な非活動状態ではなく、何か色々思い出したり注意散漫となっている状態と対応しているようで、修行を積むことで瞑想によりこれを抑制することができる為、DMNも下がっているようである。
また、DMNと反対の活動をすると考えられているワーキングメモリネットワーク(WMN)も合わせて非常に興味深い知見が得られている。

ストループ課題が始まると、どの群、条件でも五秒前後で活動が急上昇するが、とくにコントロール群では不一致条件で一致条件と比べて活動が大きい。一方、僧侶群では不一致条件と一致条件では差がないうえに、活動量も少ない。瞑想が始まると五秒程度でやはり、少し活動が上がるがすぐに下がり始めた。
(中略)
したがって、DMNとWMNの間には一般に報告されている反相関は見られず、協調モードで働いていることが推定された。

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つまり、ある脳領域で活動が上昇すると、その領域でより多くの処理資源の割り当てが必要となるが、脳全体の資源量には限界があるため、当面課題に関わりの少ない領域の活動は抑制されると考えるのである。したがって、二つの広域ネットワークの相互作用は、脳全体のダイナミックな処理資源の再配分(リソースシェアリング)を引き起こすと考えるのである。

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ここに関しては全く知らなかったのだが、DMN(非目的的・安静時の活動)はWMN(目的的・意識的な活動)と共存しうるものらしい。その原理としては、普通は目的行動中はWMNにリソースを奪われてDMNが動作せず、無目的な動作中はWMNにリソースが要らないのでDMNが活動可能となっている、といったリソース配分の原理が考えられるらしい。
そして、修行僧は日ごろの訓練により、タスクを省リソースで行う事ができる為、WMNもDMNもどっちにもリソースを割ける、それゆえにタスクを効率的にこなすことができる、ということらしい。

瞑想によって実際身体がどう変化するのか?

座禅における瞑想では現在の瞬間の意識に偏りなく自己に注意を向ける事で、自己を再帰的に見つめるメタ認知を育むことができる (Lindsay & Creswell; 2011 .,al et Holzel, 2014)。偏りなく注意を向けるには、心ここにあらずというマインドワンダリングの状態を抑制することが必要である。
(中略)
日常生活における様々なコンフリクト(葛藤)が原因で生まれるストレスを減じ、健康や安寧に寄与する効用があるため、日常生活に取り入れる人々が増加している(Kabat-Zinn et al., 1992; Tang et al., 2015)

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後半はマインドフルネスに関する記述であるが、ストレスが減ったり、健康になったりする期待があるらしい。また、前節で引用したように、純粋にタスク対応能力が向上する可能性もありそう。

(先行)研究では、瞑想の解析をどう行っているか?

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この実験では、ストループ課題という文字と色が一致してたり不一致だったりする画像を出して、その色を答えさせる認知コンフリクト課題を用いて修行僧群とコントロール群でfMRIによる脳画像信号の比較を行っている。

瞑想と記憶に関する知見はあるか?

記憶に関しては記述無し。

関連文献

所感

  • 一回目から非常に興味深い内容に当たって感動した。これはとても幸運だった。

  • ここで挙げられている先行研究ももっと読む必要があるし、実際もっと医学寄りの治療的な効果もあるのかが気になった。

  • 個人的にはスポーツとかゲームとかでも脳のリソース配分が重要なわけで、そういうスポーツ系の論文でも瞑想を実践している人がいないかとか調べても良さそう。

  • こういう科学的な論文だけでなく、実際に僧侶達に言語化してもらってどういう感じなのかを聞いてみても面白い話が聞けそうと思った。

所要時間:1時間半

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