見出し画像

つれづれ雑記 *巨人の星、の話*


 パー、パパパパーパパー、パーパーパーパーパパー 
 パーパー、パーパーパーパーパ、パーパパーパー、パパパパパパ…。

 決して、どこか具合が悪くなったわけではない。

 これは今から50年以上前のテレビアニメの主題歌のイントロだ。(これをお読みの方の中で何人が脳内再生出来るかな)
 そのアニメのタイトルは「巨人の星」と言う。
 梶原一騎原作・川崎のぼる作画で、1960〜70年代に少年マガジンで連載されていた漫画が原作。

 私の記事をよく読んでくださっている方々は御存知の事と思うが、私は阪神タイガースのファンである。王者ジャイアンツは宿命のライバルだ。
 それは父から受け継がれた遺伝子(すり込みともいう)のなせる技だろうと思われる。

 その私がなぜ、「巨人の星」の話をするのかということなのだけど。
 それにはちょっとしたわけがある。
 
 私はリアルタイムでこの漫画を読んでいたわけではない。TVアニメをたまに見たことがあったので、その存在は知っていた。
 
 夕焼けに赤く染まったグラウンド、ウサギ飛びの特訓をしている弟を電信柱の陰から涙目で見つめている前掛け姿に突っ掛け履きの姉。
 茶の間に置かれた丸いちゃぶ台に並んだご飯にお味噌汁の夕食。(このアニメの父親はちゃぶ台返しで有名だが、実はそんなシーンは全編通して一回しかない)
 古びた長屋の屋根の上の夜空に輝く星を見上げている父と子の後ろ姿…。
 あまりにも有名なシーンの数々。

 さて、これも私の記事を始めの方から読んでくださっている方々には周知のことだが、私は父の仕事の都合で中学時代はシンガポール日本人中学校に通っていた。もう、40年以上も昔のこと。

 当時、私を含め在新の中学生の悩みのひとつは、娯楽が極端に少ないことだった。
 テレビでは日本人中学生が見るような番組はやっていないし、現在と違ってネットなどはない。ゲームもない。いくら治安のよいシンガポールといっても日本人中学生が1人でそうそう外出できるわけもない。
 私は本好きだったのでたくさん持っていった本があった。でも、繰り返し読むにも限界がある。

 そんな中である日、父が1冊の漫画本を持って帰宅した。
 それが「巨人の星」の第1巻。全19巻の最初の巻だった。よく覚えていないが、誰かにもらった、ようなことを言っていたと思う。

 もうずいぶん長いこと野球中継を見ていなかったので野球に飢えていたせいもあったのかもしれない。もうこの際、ジャイアンツでも何でもいいし、ということで父も私もこの「巨人の星」を読み、結果的にすっかりハマった。
 当然、続きが読みたくなる。
 
 その頃シンガポールで売られていた日本の書籍は雑誌を含めかなり高価だったのだけど、父は毎月少しずつ買ってきて全巻を揃えた。
 私は大喜びで何回も何回も読んだ。それこそ台詞を覚えてしまうくらいに。
 
 ここで、ご存知ない方のためにストーリーを簡単に説明しておこう。(え、いらない? まあ、そう言わずに)

 オープニングシーンは1957年の秋の東京。
 都心のある高級ホテルのホールで、誰もが知っている日本プロ野球界の大スターの読売ジャイアンツ入団記者会見が行われていた。
 そのスターの名は長嶋茂雄。来年立教大学を卒業後、ジャイアンツに入団することが決まっていた。
 長嶋獲得に奔走していた当時のジャイアンツ監督川上哲治氏の喜びようは大変なもので、ホールは華やかな祝賀ムードに包まれていた。
 そのとき、長嶋茂雄氏めがけて野球の球が猛スピードで飛んできた。
 その球は妙な回転をしていて、長嶋に当たりそうで当たらず、別の方向へ逸れていった。長嶋はそれを見切っていたようで慌てて避けたりはしなかった。
 場内は大騒ぎになるが、その球筋に川上監督はかつての盟友で天才三塁手と言われた星一徹の影を見る。

 この球を投げたのは、星一徹の長男、星飛雄馬少年。この漫画の主人公だ。

 飛雄馬はごく小さい頃から父親の厳しい特訓の下でその野球センスを磨かれ、針の目を通すほどのコントロールと「スピード違反」と野次られるくらいの凄まじい超速球を投げるピッチャーに成長した。
 その頃、後に宿命のライバルとなる、天才打者花形満と知り合う。

 やがて入学した高校で、飛雄馬は後に生涯の大親友となる伴宙太と共に甲子園を目指す。いろいろあって、やっと出場した甲子園で花形満と再会、さらに花形とは少し違うタイプの天才打者左門豊作とも出会う。

 4人はそれぞれにプロ野球選手となり、高校時代に決しなかった男の勝負の決着をつけるため、厳しい闘いに挑むことになる…。

 まあ、何というか、とにかくとんでもなくテンプレートなスポーツ根性物。今では考えられない精神論、50年前の当時ですら忘れ去られようとしていた古き良き(?)日本の浪花節的ヒューマニズム。(花形満の言より)
 でも、そこがよかった。ちょっと度が過ぎて笑ってしまうところも多々あったけど、登場人物たちの暑苦しいほどの野球への情熱、そこまでするかという勝負へのこだわり、ライバルと呼ぶべき相手へのリスペクト。
 今では少々敬遠されがちなテーマばかり。
 でも、当時中学生の私にはなぜか刺さったのだ。昭和の野球には泥臭い浪花節がよく似合う。(あくまで個人の感想です)

 この「巨人の星」全19巻は、私たちがシンガポールにいる間、父の会社の同僚の人たちや私の同級生の家にも順番に貸し出され、ぐるぐる巡回した。そしてその代わりというわけではないが、我が家にもあちこちのお宅からさまざまな漫画が回ってきた。
 「三国志」「子連れ狼」「ゴルゴ13」「キャプテン」…。
 中には中学生が読むのはどうなのか、というのもあったが、父も私もあまり気にせずに読んでいた。
 
 それだけみんな、娯楽に飢えていたということなのだろう。

 「巨人の星」全19巻は、その後しばらくして引っ越しのごたごたで行方不明になった。(おそらく漫画や本に何の執着もない母が誰かにあげてしまったのだろう)
 もう一度読んでみたい気もするが、今読んだら当時ほど感動しないかもしれない。
 そう思うと、やっぱやめとこうと思うのだ。

#日々のこと #エッセイ
#巨人の星 #野球漫画
#浪花節
#タイガース頑張れ
#実は花形満が好き