ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第1章3話

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1章 トモダチは猫

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3話

 『不可思議本舗』の引き戸はとても重たくて、片手では開けられなかった。
 引き手に両手をかけて、足もしっかり踏ん張って、まるで綱引きでもするみたいに「えいっ!」と力をこめる。そうしてようやくガタガタタンとお店の戸は開いた。
 やった!
 ぼくは息をついて、お店の中をのぞきこんだ。
 真っ先に目に入ってきたのは、一人のおばあさん。
 お店の奥のカウンター、その脇の木の椅子にででーんと座っていた。
 なんか……とっても迫力のある人だなぁ。
 大きな目は閉じられていて、一瞬、寝ているのかとも思ったけど。
 おばあさんはそのままぼくのほうに顔を向けると、ぐぐぐっと眉間にシワをよせた。
 初めて会う人だけど、なんだかとっても機嫌が悪いみたいってことは伝わってきた。
 あ、そ、そうだ。
 まずは挨拶しないとね。
「あ、あの……こんにちは」
「…………」
 おばあさんは返事をしてくれない。表情も不機嫌なまま。
 でも、代わりに「ミャー」って声が聞こえた。
「!?」
 ぼくは驚いた。
 だって、よ〜く見てみてみたら、お店の中のあちらこちらに猫がいたんだから!
 1、2、3、4、5、6……ああ、全部で何匹いるんだろう?
 お店に並んでいる商品棚の脇とか、壁際にある棚の上や下、戸棚の中に入っちゃってるのもいる。
 大きい猫から小さい猫まで、たくさん。
 これじゃまるで猫屋敷だ。
 餌やりおじさんのところよりも、たくさんいるかもしれない。
 ぼくが呆然としていると、棚の向こうから、むくりと立ち上がる影があった。
 ――男の子だった。
 ぼくと同い年くらいかな。
 うちの学校の子じゃないのは確か。見たことがない顔だし。隣の学校の子かな?
 その子は目をまんまるにして、ぼくを見つめてきた。
「え、えっと……こ、こんにちは」
 ぼくは一応、男の子にも挨拶をした。
「…………こんにちは」
 小さな声が返ってきた。
 そして男の子はひどくびっくりしたように、自分の口元を手で覆った。
 どうしたんだろう?
「ええと……」
 ぼくは戸惑いながら、お店の中を見回した。
 勢いで入っちゃったけど、ここって何のお店なんだろう?
 奥の棚には大きなビンが並んでいる。かき氷屋さんのシロップみたいに、鮮やかな色の液体が入っているものもあれば、色んな形のガラス玉みたいなものが詰まっているものもあった。ドングリみたいな木の実があったり、お花や葉っぱが入っていたり……奇妙なものでいっぱい。
 カウンターの手前には大きなカゴが並んでいて、中には毛糸玉がどっさり。木の枝が詰め込まれているカゴまであった。
 これ、一体何に使うものなんだろう?
 全然予想できない。
 こういうの、ほら、なんていうかな。
 ――そう。
 魔女のお店みたいだ(魔女のお店なんて、見たことないけど)。
 ぐつぐつ煮立った、変な色のお鍋とかあったりして?
 おそるおそる、近くの商品ケースをのぞきこんでみる。
 すると中には、意外にもクッキーの詰め合わせとか、ふわふわのパウンドケーキが並んでいた。
 どれもとてもおいしそうだ。
 値札もついているし……え、じゃあ、ここってお菓子屋さん?
「……んん!」
 突然、おばあさんが咳払いをした。
 何の用事だい?
 そう言いたそうにじーっとぼくを見ている(目は閉じたままだけど)。
 ぼくはお店の雰囲気に圧倒されながら、聞いてみることにした。
「あ、あの……ぼく、子猫を探しているんです。これくらいの子猫で、模様はハチワレで、尻尾は長くて、名前はミャオンって言います。ええと、あと女の子です」
 男の子が、真ん丸な目をますます大きくしてぼくを見てくるから「もしかして、知ってる?」って聞いてみた。
 すると、男の子はすごく慌てて「え、う、ううん! し、知らない……」って、うつむいちゃった。
「そっか……」
 ぼくは店の中の猫を見回しながら、「今、ぼくよりちょっと前に、このお店に入っていくところを見たんだ」
 目を凝らしてミャオンの姿を探す。
 でも、こんなにたくさん猫がいるのに、ミャオンは見当たらなかった。
「あの、知りませんか?」
 もう一度、聞いてみる。
 すると、おばあさんは返事もしないで、ぷいっとぼくから顔を背けてしまった。
 むう〜。
 ぼく、何かしたっけ? ただ質問してるだけなのに、どうしてこんなに冷たい反応をされなきゃならないの? 
「…………あの……」
 男の子がぼくに近づいてくると、ヒソヒソと声をかけてきた。
「……お買い物、したほうがいいんじゃないかな」
「……あ」
 そ……そっか!
 お客さんだって思ったら、買い物もしないでただ質問してるだけっていうのじゃ、お店の人がイヤな顔するのも分かる気がする。……このおばあさんの場合、最初から不機嫌そうだったけど、この際、それは置いといて。
 ぼくはポケットに手を入れようとして、お財布、持ってきていないことを思いだした。
 ミャオンを探すことに夢中で、そんな余裕なかった。
 ……。
 …………仕方ない。
 今こそ、あれを使う時だ!
 ぼくはキーホルダーを取り出した。
 実はここに「いざ」って時のために、五百円玉を一つ、入れているんだよね。
 ここで使うことになるなんて思いもしなかったけど、ミャオンの情報がもらえるかもしれないし、もったいないなんて言っている場合じゃない。
「あの、五百円で買えるものってありますか?」
 ぼくは大きな銀色の硬貨を、キーホルダーから抜き取りながら聞いた。
「…………」
 おばあさんはぼくのほうに向きなおると(目は閉じたままだけど)、手のひらの上の硬貨と、ぼくの顔を交互に見て、ようやく口を開いた。
「うちが扱ってるのは、猫用の商品だけだよ」
 ――しゃべった!
 意外にも、声は優しそう。
 今、おばあさん、猫用の商品しか売ってないっていったよね。つまりは猫グッズ専門店ってこと? 
「そ、それじゃあ、おやつをください。これで買えるだけ……」
 カウンターの上に五百円玉を置く。
「……」
 すると、おばあさんは椅子から立ち上がって、カウンターから出てきた。
 背はぼくより少し小さいくらい。でも身体の横幅はぼくの三倍くらいあった。
 おばあさんは、ぼくの脇の商品ケースからクッキーの乗ったトレイを引っ張り出す。
 トレーの前に『十人十色』って書いてある。これがクッキーの名前かな?
 じゅうにんとしょく……へんな名前。
 おばあさんはクッキーを五枚つまみ出して、紙袋に入れていく。
 つまりこのクッキーは一枚百円ってことか。ちょっと高いなぁ。
「……はいよ」
「……ありがとうございます」
 ぼくはクッキー入りの袋を受け取って、ちらっとおばあさんを見た。
「あの、おばあさん、それで、あの……うちの……猫は」
「『店長』とお呼び」
 スパッと直されてしまった。
「は、はい!」
 思わず背筋が伸びちゃう。
 隣にいる男の子まで、ぴしっと姿勢を正すから、ちょっと笑いそうになっちゃった。
 それを誤魔化すように、ぼくはもう一度、聞いてみた。
「あ、あの『店長』さん、うちの猫を見ませんでしたか?」
「……ハチワレの子猫だったね」
「は、はい!」
 さっきのぼくの説明、覚えててくれてる! ぼくの話、ちゃんと聞いていてくれてたんだ。
「……その猫なら、見たよ」
「本当ですか!?」
「ああ、ついさっきね」
 やっぱり! さっき入っていった猫は、ミャオンだったんだ!
 ぼくはきょろきょろと店内を見回す。でも、やっぱりミャオンの姿はどこにもない。
「あの、ミャオンはどこに?」
「心配しないでいい。ちゃんと家に帰るだろうさ」
「…………本当に?」
「ああ、本当に」
 店長は断言した。
 ものすご〜く自信たっぷりに。
「すぐ帰ってきますか?」
「ああ」
「ケガとかもしないで?」
「ああ」
 店長はそう言って、またカウンターの向こう側に戻っていった。
 質問すればするほど、ぼくは何だか不安になっていく。だって、どうしてそう言い切れちゃうの? その自信はどこから出てくるの?って。
「用が済んだなら、とっととお帰り。そこの子も」
 店長はぼくだけじゃなく男の子にもそう言って、また椅子にどっかりと腰を下ろした。
 これ以上、話しかけないでおくれ。
 そんな空気が店長の周りに漂っている。
「は、はい」
「ありがとうございました」
 ぼくたちはそろって頭を下げると、店をあとにした。
 あんなに重かった引き戸は、帰りは嘘みたいに軽い力で開いた。


                           <4話へ続く>

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ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第1章3話

堀井明子

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堀井明子

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シナリオライターの端くれ。日本脚本家連盟・放送作家協会・本づくり協会所属。noteでの小説連載は休止中ですが、時々趣味に走った雑記を書いています。http://www.a-horii.info/