ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章5話

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第3章 とおせんぼ

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5話

 美少女に両肩をつかまれたまま、ぼくは芽雨さんの冷たい視線を浴びていた。
 芽雨さんの眼差しはまるで、真冬の、南極か北極あたりのブリザードの中で、全てのものを氷漬けにしてしまう最強魔法をフルパワーで唱えようとしている魔法使いみたい。
 芽雨さんは言った。この美少女がぼくの『本命』だって。
 それってあれでしょう? バレンタインデーとかによく聞く言葉。一番好きな人、とかそういう意味。
「ち……違うから!」
 ぼくは声を張り上げた。
「そんなんじゃないよ! 芽雨さん、勘違いしてる!」
「なにが勘違いよ。寂しい思いをさせるなって言ってたでしょ。チワゲンカってやつじゃない」
「「チワゲンカ?」」
 ぼくだけじゃない、美少女まで一緒にハモっちゃった。
「……どこかで聞いたことあるけど、どんな意味だっけ?」
「知るか……いや、じゃなくて、あたしも知らない」
 ぼくたちが「?」となっていると、芽雨さんはぷいと横を向いて「こんなにキレイな子が彼女なんて、大林くんもやるわね〜」なんて言いだした!
「カノジョなんかじゃないよ、今、初めて会ったんだもの! こんな子知らない!」
 ぼくは必死に訴える。
 すると――例の美少女が、ぼくの肩を揺さぶった。
「おいコラ、無視してんじゃねーよ!」
 な、なにするんだよー! 振りほどこうと思ったけど、でも、相手は女子だし……。
「俺……あたしはあんたに話があるんだ! 関係ないやつは引っ込んでて!」
 今度は芽雨さんを怒鳴りつけてる。さすがの芽雨さんもちょっとひるんだみたい。
「な、なによ……」
 でも、そんなこと美少女はお構いなし。くるりとぼくの方に向き直ると、噛みつくように言った。
「だからな! 独り占めしようったって、そうはいかねぇってこと! わかった!?」
 いいえ。何を言っているのか、ちんぷんかんぷんで、全然わかりません。
 ……なんて、思ってる通りのことを言ったら、本当にガブッと噛まれそう。
「……」
 だけど美少女はそれにもお構いなしで、またぼくの肩をガクガクとゆさぶってきた。
「返事は!?」
「は、はい!」
「ちゃんとわかったんだな!?」
「ハ、ハイ!」
 勢いに押されて思わずうなずいちゃったけど、何が何やら。
「よし!」
 美少女はやっと納得したみたいで、ぼくの肩から手を放してくれた。
 ほっ。あのままゆらされつづけたら、目が回るところだったよ。
 そしたら、芽雨さんがボソッと一言。
「ケンカするほど仲がいいっていうのは、本当みたいね」
 だから……そんなんじゃないってば! 反論しようとした時――。
 足音が聞こえてきた。ぼくの後ろのほうから。
 駆け寄ってくる。ぼくたちの方へ。
 ぼくたちは足音のする方を見て――。
「!」
「?」
「!!!」
 三人それぞれにびっくりした。
 ぼくが驚いたのは、駆けつけてきたのが、ミャオンを一緒に探してくれた、あの男の子だったから。
「ちょっ、あの子、猫を追いかけてる!」
 芽雨さんは、男の子の前の足下を指差して驚いてた。確かに、白い大きなデブ猫(お隣さんちで飼われてるスノウだ)が、彼の前を、まるで追いかけられているみたいに、走ってきていた。
 例えばスノウがお魚をくわえていたりしたら、どういう状況かわかるんだけど――特に何もくわえてはいなくて。
 あの子とスノウ、なんで追いかけっこしてるんだろう?
 一方、美少女の反応は、また違っていた。
「やべ……っ」
 急に慌てだして、ぼくの肩から手を離したと思ったら、「いいか、とにかく、言いたかったのはそれだけだ! 覚えておけよ!」って言い捨てて……それから文字通り、ぴゅーんって感じで走ってっちゃった。あの子も足がすっごく速いみたい!
 あっという間に路地に入っていって、姿が見えなくなっちゃった。
「…………」
「…………」
 残されたぼくと芽雨さんは、ただただ立ちつくすばかり。
 そして、駆けつけてきた男の子は――ちょっと息を切らせながら、ぼくに「大丈夫?」って聞いてきた。
 男の子の前を走っていたスノウは、ちらっとぼくたちを見ると、足も停めずにあの美少女が入っていった路地へ――。
「う、うん……いや、どうだろう。大丈夫というか、ダメっていうか……」
 だって、なにがあったのか、自分でもよくわかってないんだ。
 あ、けれど、こんな言い方をすると、芽雨さんがまた怒りだすかも。
 ちらっと芽雨さんを見ると――。
「……この子は?」
 興味津々って感じで、男の子のことを見てる。
「えっと……こ、こんにちは」
「……こんにちは」
 男の子が微笑んだから、芽雨さんもちょっと笑顔になった。
「で、誰?」
 ぼくに聞かれても……よく知らないし。
「ええと、知りあい……かな」
「う、うん、そうだね」
「ふぅん、どこの学校?」
「えっ」
 意外なことを聞かれた、みたいに男の子は目を真ん丸くしてる。
「ええと……その、ちょっと遠いところに……」
「私立!? へぇ〜、おぼっちゃまなんだ。どうりであんまり見ない子だなって思った」
 芽雨さんは一人で納得したように頷いてる。
 でも、よかった。さっきの美少女が残していった爆弾みたいな衝撃は、少し和らいだかな。これで話がそれるといいんだけど。
「それで――今の子のことだけど」
 わぁっ! まさか駆けつけてきたこの子が話題を引き戻すなんて、予想外だ!
 ジロリ。芽雨さんが、またぼくを睨んでくる。うう、かんべんしてよ。
「可愛い子だったわよねー。大林くんのカノジョ」
 うう、ピンチはまだ終わってなかった!
「だから、そんなんじゃないってば! 本当に知らない子! 信じてよ、芽雨さん」
 ぼくが祈るように言うと、「えっ、芽雨さん!? あなたが?」って今度は男の子がびっくりしてる。
 芽雨さんはすかさずツッコミを入れた。
「あなた、私のこと知ってるの? なんで?」
「え、ええと……その、有名……だから?」
「なにそれ。どこで? 誰に聞いたの?」
 質問攻めにする芽雨さん。気になるのも分かるよ、うんうん。
 何気なく話題が美少女からズレていってるのもいい感じ。その調子だ。
 ちらっと男の子を見れば、彼もぼくを見ていた。バッチリ目が合う。
「?」
「えっと……誰っていうわけじゃなくて」
 なんだか必死に答えをひねり出そうとしてるみたい。
「う、噂になってるんだ」
「……どこで? どんな?」
「――あちこちで、かな? 芽雨って名前の、可愛い子がいるって」
「! か、かわいい……?」
 芽雨さんが頬を染めている。照れてるみたい。
 へぇ、こんな顔もするんだ。最近、ムスッとした顏ばかり見ているせいか、なんだか新鮮は。
 思わず芽雨さんに見入っていたら、男の子がまた「それでさ! さっきの髪の長い子のことだけど!」って話を引き戻してきた!
 もうやめてよ、いいじゃない、あの子のことは。
「あの子、なんか言ってた?」
「なんかって……ええと、独り占めするなとか……」
「そうそう! あと、寂しい思いをさせるなって言ってたわよ。大林くんが猫にかまってばかりで寂しいんじゃないの?」
「な、なんで、ここでミャオンが出てくるんだよ。だいたい、あの子とは今、初めて会ったのに、ミャオンのこと知るはずがないじゃないか」
「またまた……」
「本当だってば!」
 ぼくと芽雨さんのケンカみたいな言い合いを、発端となった男の子はきょとんとした顔で見てる。
「あの……それだけ? 他には? 噛まれたり、引っかかれたりしなかった?」
 噛まれそうとは思ったけど。
「肩をつかまれたりはしたけど、別に大丈夫……」
 ん? え、もしかして。
「なに? 君、さっきの子と知りあい?」
 だって、こんなに気にするなんて、おかしいよね?
「う、ううん! よくは知らないんだ。ただその……」
「うん?」
「ちょっと……その……」
 もじもじしてる。男の子なのに。
 芽雨さんがやきもきして促す。
「なによ、ハッキリ言いなさいよ」
「……怖い子っていうか、ケンカっぱやいって聞いたことがあるから。このあたりのボス……」
「「ボス!?」」
 今度は芽雨さんとハモっちゃった。
「なにそれ、あの子、何者なの? ボスって……」
 青ざめる芽雨さん。
 ぼく、この辺りのこと、それなりに知ってるつもりだけど、ボスみたいな子がいるなんて知らなかったよ。やっぱりあれ? 不良のボスってことだよね?
「い、いや、そんな迫力ある感じの子、て意味だよ!」
 なぁんだ。びっくりした。
「お、驚かさないでよ! もう……」
 芽雨さんはホッと胸をなでおろして、それから持っていた買い物袋に目を留める。それから急に慌て出した。
「いっけない! アイスがとけちゃう!」
「えっ?」
「もう、早く帰らなきゃいけなかったのに! アイスがとけちゃったら、大林くんのせいだからね!」
 芽雨さんは慌てた様子で、家に向かって走ってっちゃった。
 ……あっさりしてるっていうか、なんていうか。でもアイスがとけたら、たしかに大変だよね。それに、そのお陰でちょっと助かったから、アイスに感謝しないと。
 大体、これ以上、色々追及されても、ぼく困っちゃうよ。
 そして、この場に取り残されたのは、ぼくとあの男の子のふたりになった。
 ぼくらは顔を見合わせて、なぜか同時にため息をついていた。

                          <4章へ続く>

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ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章5話

堀井明子

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堀井明子

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シナリオライターの端くれ。日本脚本家連盟・放送作家協会・本づくり協会所属。noteでの小説連載は休止中ですが、時々趣味に走った雑記を書いています。http://www.a-horii.info/