ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第2章3話

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第2章 猫はトモダチ

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3話

 人間のおばあさんは私をたっぷり10数える間、眺め回すと、ようやく「……新顔かい」って言った。相変わらず眉間にはしわがよってる。
「うん! 新しいお客さん、連れてきたよ」
 グレースは慣れた様子で店の中にずんずん入っていく。
 私も慌ててあとに続いた。
「ハァ……」
「そんなため息つかないでくれよ、店長〜。シンキコキャクカクトクのチャンスだぜ!」
「……一丁前に、小難しいこと言うじゃないか」
 グレースは私にそっと耳打ちする。
「大丈夫、店長は怖くないよ。ただちょっと人見知りが激しいだけなんだ」
 なぁんだ、そうなの。って、頷きかけて……。

 !!!!!!!!!!

 わ、私、すごいことに気がついちゃった!
 びっくりしすぎて、また『オダイキン』のボールを落っことしちゃったけど、そんなこと今はどうでもいいの!

 ねね、だって、ねえ、だって!
 店長って呼ばれてるおばあさんとグレース、おしゃべりしてる!
 言葉が通じてるのよ!?
 店長は人間なのに! グレースは猫なのに!
 どうして!?

「なにびっくりした顏してるんだい。あたしゃ猫相手に商売してるんだ、猫の言葉がわからなくてどうする?」
 店長は元々細い目を、ますます細くして私をじろり。
「そ、そうですよね……」
 よくわからないけど、『そういうものなんだ!』っていう空気が漂っている。それにはなぜか逆らえない雰囲気が張りつめてて、私はそれ以上、追及することはできなかった。
 くすくすって笑い声が聞こえてくる。
 辺りを見回すと、店のあちこちに、たっくさんの猫が潜んでいた。
 物陰、棚の上や下、いたるところに、キラッキラって目が光ってるから、私はまたまたびっくりしちゃった。
 ずっと見られてたなんて、気がつかなかったよ!
「ぐ、ぐれーす……」
 思わず頼りのグレースに寄りそう。
 グレースは私の気持ちを読み取ったように、ニコッと笑った。
「ああ、全員、この近所に住んでる猫だよ。まあ……そうじゃないのもいるけど、怖くないから」
「そ、そう……?」
「うん。それより、用事を済ませちゃおうぜ」
 グレースはそう言って、店長のいるカウンターに飛び乗る。
「あ、そ、そうだった」
 私も落としてしまった『オダイキン』をくわえて、あとに続いた。
「あの……これ『オダイキン』です」
 そっと店長さんの前に置く。
「ふむ……どれ」
 店長さんは私のボールを手に載せて、しげしげと確認したあと、「少しよだれが付いているね」って。
 他の猫たちがそれを聞いて、また楽しそうに笑い出す。
 私は何だか恥ずかしくなって、小さくなっちゃった。
「……まあ、いいだろう。……で?」
「……え、ええと……願いをかなえてほしくて」
「……で?」
「…………その……だから」
 何て言えばいいんだろう。
「私の飼い主の陽太が困ってて、それをどうにかしてあげたくて」
「……で?」
 もう……店長ってば、「で?」って聞き返してばっかり。
 私は軽くイラッとしながら、お願いした。
「だ、だから、どうにかしてあげられるものをください」
「………………」
 店長は顔色一つ変えずに椅子の背もたれに、身体を預ける。
「………………」
 細い目を細くしたまま、黙りこくってる。
「…………あ、あの」
 沈黙に耐えられなくて、私が口を開こうとしたら、「なら、これかねぇ」ってカウンターの下に屈みこんだ。そうして、大きなガラスのビンをどしんと、私のすぐ隣に載せた。
「!?」
 そのガラスのビンには紫色のぷるぷるした粒がぎっしりつまってる。
 なあに? これ。
 こんなの、初めて見る。
「『カミカミ』だ。2コで1セット。食べる時は1粒ずつお食べ」
 そう言いながら、店長はぷるぷるした『カミカミ』を箸で一粒つまみ上げて、私の前に置いた。
「これを食べれば、あんたの飼い主をどうにかしてやれる。……かもしれない」
 かもしれない?
 なにそれ。
 でも――。
 迷っていると、グレースがピンと耳を立てた。店にいた猫たちも、店長さんも。何だか緊張してるみたい。
 がたがたがた。
「!」
 店の大きな扉が揺れてる。誰かがお店に来ようとしてるみたい。それも、人間!
 よくわからないけど、モタモタしてはいられないみたい。
「……!」
「隠れろ、ミャオン!」
 グレースが『カミカミ』を一粒くわえて、カウンターから飛び降りた。そのまま素早く棚の裏側に隠れる。私も後に続く。残ったもう一粒をくわえて、飛び降りて……。そして、その拍子に、ごくんって……飲みこんじゃった!
「むぐっ」
 味わうなんて余裕もなかった。丸のみ!
 ――でも、大丈夫。
 猫はね、基本、食べる時は丸のみだから。

 がたがたたん!

 重い音がして、店の中にまた緊張が走った。
 扉が開いたんだ! 誰かが来た!
「……あの、こんにちは」
「!?」
 聞き慣れた声。間違えるはずもない。陽太の声!
 どうしてここに!?
 あれれ? 私の身体もなんだかおかしい。
 ポカポカ温かくなってきて、それから、それから――。
「ミャオン!?」
 グレースが私を見て目を真ん丸にして声を上げる。
 うん、わかってる。これって、もしかして、もしかしなくても『カミカミ』を食べたからよね!?
「…………」
 私は身体を起こした。
 わっ、視点が高い! ずっと棚の上に乗っかってるみたい。へぇ〜、人間っていつもこんな高さから世界を見てるんだ……って、そうじゃなくて!
「……」
 あるはずの尻尾がない。耳も、手足も、いつもの場所にない。

 私――人間になっちゃった!

 店長さんを見ると、さっきより不機嫌度が増してる感じがする。眉間のしわが私の時よりも深くなってるから。
「え、えっと……こ、こんにちは」
 陽太が私に話しかけてきた! どうしよう!? どうしよう、って、どうしようもないけど!
 挨拶されたら、挨拶を返すのが礼儀よね!
「…………こんにちは」
 出た! 声が出た! それも、陽太みたいな……え、私……男の子になってる!?
 背の高さも陽太と同じくらい。
 でも、男の子。
 なんで!? 私、おんにゃのこなのに!
 店長さんに「どういうこと!?」って聞こうと目を向けると、「話しかけないでおくれ」って空気がどよよーんって漂ってる。今は……無理そう。
「ええと……」
 陽太は戸惑った様子で店の中を見回してから口を開いた。「子猫を探しているんです」って!
 ええええ!?
 私のこと、探してくれてたの!?
「もしかして、知ってる?」
 陽太に聞かれて、私は思わず「え、う、ううん! し、知らない……」って嘘ついちゃった。
 ごめんね、陽太。家の外に出ちゃダメって言われてたのに、私ったら……。
 陽太はがっかりしながらも店長さんに、私のこと知らないかって尋ねてる。
 店長さん、何て答えるんだろう。
「そこに居るじゃないか」とか言われたら、どう説明すればいいの?
 でも、店長さんは陽太が質問するたびに、どんどん不機嫌になっていく。どうして?
 ……あっ、そうか!
「…………あの……」
 私は陽太に近付いて、こっそり教えてあげた。
「……お買い物、したほうがいいんじゃないかな」
「……あ」
 陽太も気が付いたみたい。ここはお店だもの、お買い物しないと。
「うちが扱ってるのは、猫用の商品だけだよ」
 店長はぶっきらぼうに、それだけ答えた。よかった。私の正体、陽太に教えるつもりはないみたい。
「そ、それじゃあ、おやつをください。これで買えるだけ……」
「……はいよ」
 陽太は私のために、おやつを買ってくれた。ありがとう、陽太。
「あの、おばあさん、それで、あの……うちの……猫は」
「『店長』とお呼び」
 ビシッと店長が言うから、私も陽太も思わず姿勢を正しちゃった。
「あ、あの『店長』さん、うちの猫を見ませんでしたか?」
「……ハチワレの子猫だったね」
「は、はい!」
 あ……! 店長がちらって私を見た!(目は閉じたままだから、そんな感じがしただけだけど!)
「……その猫なら、見たよ」
「本当ですか!?」
「ああ、ついさっきね」
 きゃああああ! 店長、店長! 私のこと、教えちゃうの!?
「あの、ミャオンはどこに?」
「心配しないでいい。ちゃんと家に帰るだろうさ」
 …………ほっ。
 私はこっそり息をついた。
 陽太はものすごく心配そうに、何度も何度も店長に確かめてたけど。
 私はとにかく安心した。
 だって、もし私の正体がミャオンだってわかったら、陽太はどうする?
 きっとものすごく驚くよね。私も驚いているくらいだもの。
 それから? それからどうなっちゃう?
 ――想像しかけたところで、店長が迫力たっぷりに言った。
「用が済んだなら、とっととお帰り。そこの子も」
「……」
 物陰からグレースが「あらら」って顔して、私たちを見送ってる。
 でも、こうなったらどうしようもないよね。
 私は観念して、陽太と一緒に店を出た――。

                          <4話に続く>

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ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第2章3話

堀井明子

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堀井明子

ご支援を活力に変換して、今後の創作活動に生かしてまいります。各種沼への軍資金、猫たちへのおやつとなる可能性も捨てきれませんが……なにとぞ……!

ありがとうございます!私もスキです!
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シナリオライターの端くれ。日本脚本家連盟・放送作家協会・本づくり協会所属。noteでの小説連載は休止中ですが、時々趣味に走った雑記を書いています。http://www.a-horii.info/