ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第7章5話

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第7章 招いたモノたち

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5話

 芽雨さんがママから救急箱を貰ってきてくれた。
 ぼくは、ベッドの脇に座り込んだまま、ミャオンにつけられた傷を眺める。
 猫を家族に迎えるんだから、引っかき傷とかは当たり前。慣れっこにならなきゃいけない。――そんなこと、わかってる。今までにも、遊んでいる最中に間違って引っかかれたり、撫でてる最中に手を掴まれてがぶがぶって噛まれたりしたことがあった。
 けど。
 今日のはいつものと違う。
 ――本気で攻撃された。
「しみるかもしれないけど、我慢してよ」
 芽雨さんは、ぼくの傷にシュッシュと消毒液を吹きかけてきた。
 薬はとっても冷たくて……針で刺されたみたいにしみた。
「わぁ……結構、ざっくりやられちゃったわね」
 芽雨さんは顔をしかめてる。
「うん……でも、だいじょうぶだよ。慣れてるから」
 ウソだ。こんなに深い傷は、今までつけられたことはなかった。
「……またウソついてる」
 ああ、また読まれてしまった。
 どうしてわかっちゃうんだろう。
 芽雨さんはポンポンと脱脂綿でキズ周りの消毒液をふき取った。
「……でもまぁ、血は止まったみたいだし、ばんそうこうでいいよね?」
「うん」
 芽雨さんはぼくの指にてきぱきとばんそうこうを貼ってくれる。
 こう見えて、芽雨さんは保健委員なんだ(ぼくは給食委員!)。だから簡単な治療とかなら慣れっこ。運動会の時とかも大活躍してたっけ。ただし、ぼくがケガをすると、いつも怒るんだけどね。「どうしてあんな無茶するの!?」とか。まるでママみたいに。でも、今日はあんまり怒ってない。どうしてだろう……。
「はい、これでOK! お大事にね」
「うん、ありがとう」
 芽雨さんはハァと息をつく。
「結局、出てきてくれないのね〜」
 ミャオンはベッドの下に隠れたままだ。
「臆病なの?」
「う〜ん……わからないけど、そうなのかもしれない」
「私が会えるのは、いつになるかしら。前みたいに、しょっちゅう遊びに来れば、慣れてくれるかな?」
「……うん、たぶん」
 ぼくの返事はどうしても短くなってしまう。
 ミャオンに攻撃された。
 その事実が、重くのしかかってきていて。
 芽雨さんはそのことに気が付いているのかなぁ。いつもより優しい気がする。
「ねぇ、鈴とかつけてないの?」
「え?」
 急に話が変わって、ぼくは目をぱちくりさせた。
「ほら、よく飼い猫に首輪とか鈴とかつけるじゃない。そういうの、ミャオンにつけてないの?」
「……つけてない」
「鈴がついていれば、ほら、音で居場所がわかるじゃない? あの辺にいるな、とか。それに、首輪に連絡先とか書いておけば、迷子になった時に役に立つんじゃないかな」
 ……そうか。
 そういえば、そうだよね。
 家の中で飼う――完全室内飼育だから、首輪とか考えてなかっけど。
 この前の脱走事件もあるし、念の為、つけておいたほうがいいかもしれない。
「可愛いリボンみたいなのとか、バンダナみたいなものでもいいと思うのよね。ミャオンってメスでしょ? おしゃれさせてあげてもいいんじゃないかなぁ」
「――そうだね。うん。……考えてみるよ。ありがとう」
 おこづかいで買えるかな?
 ママとパパに相談してみればいいかも。
 どんな首輪が似合うかなぁ。リボンもいいよね。何色がいいかな……。
 そんなことを考えていたら、少し気持ちが紛れたみたい。

 ぽつり。ぽつり。

 窓をたたく音がする。
 外を見ると、雨が降り出してきたところだった。
「えー……雨!? 私、傘、持ってきてないわ」
「傘なら貸すよ」
「ありがとう!」
 本降りになる前に帰るっていって、芽雨さんは慌てて帰り支度を始めた。
 救急箱を片付けて、ママに渡して。
 英会話教室のバッグを肩にかけて。
 そうして、ぼくの部屋を出ようとして、思い出したようにバッグから封筒を取り出した。
「そうそう、これ。渡しておくね」
「なに?」
「招待状。今年も私の誕生日会をやるの」
 ああ――そういえば、もうすぐ芽雨さんの誕生日だ。
「……来てくれるよね?」
「うん」
 毎年行ってるし。今年も招待してくれるなら、もちろん。
 ぼくの答えに、芽雨さんはホッとしたみたい。
「じゃあ、これも渡していいかな」
 もう一通、ぼくに封筒を差し出してきた。
「え、これは?」
「あの子の分。……この前、一緒にいた男の子」
「……?」
 芽雨さんは焦れったそうに、ぼくに封筒を押し付けてくる。
「私のこと、噂になってるって言ってた子よ」
 それって――ああ!
「宮尾くん?」
「あ、そういう名前なの?」
「みたい」
「それ、その子の分ね。よかったら来てって伝えておいて」
 芽雨さんはそう言うと、足早に帰っていった。
 雨足はますます強くなってきてる。……あんまり濡れないで家にたどり着くといいんだけど。

 ぼくは芽雨さんの招待状を二通、机の上に置いて、ため息をつく。
 毎年のように誕生日会を開いていて、ぼくもいつも招待されているけど。これ、必ず悩むことになるんだよね。今度は何をプレゼントすればいいかなって。だって、芽雨さん、好き嫌いがハッキリしてるから(ぼくは誕生日会なんてやらないけど、芽雨さんは何かしらぼくの誕生日にプレゼントをくれるんだ)。
 ああ、それより、今はミャオンだ。
 お客様もいなくなったし、部屋も静かになった。
 そろそろ出てきてくれないかな?
 ベッドの下を見ると、そっとミャオンが顔を出してきた。
「み……」
 なんだかミャオンも元気がない。
 ビクビクしてるっていうか……。耳が平べったくなってる。
 ぼくはゆっくりとしゃがみこんで、できるだけ優しく声をかけてみた。
「ごめんね、ミャオン。驚かせて」
「……みゃう〜ん」
 小さな、小さな声でお返事してくれる。
 でも、ぼくが手を伸ばすと、びくっと身体を震わせて、また一歩ベッドの下に引っ込んじゃった。
 そんなに怖かったのかな。
 ……それもそうか。相手は、芽雨さんと――それから、あの三ヶ田さんだものね。
「本当にごめん」
 ぼくはミャオンに謝って、床に『十人十色』が置きっぱなしになっていることを思い出した。
 ばんそうこうを貼っていない方の手でつまみあげる。
 ……大丈夫。ホコリも血もついていない。
「……食べる?」
 ミャオンに聞いてみたけど、ミャオンは身体をかがめてジッとこちらを見てるだけ。
「……また今度にしよっか」
 さっき『カミカミ』もあげたことだし。
 ぼくはおやつの箱に『十人十色』を片付けながら、芽雨さんの言うように、ミャオンに首輪と鈴をつけるなら、『不可思議本舗』で買おうって思いついた。だって、あそこ、猫グッズ専門店だし。なにより、あの優しそうな店番さんの手作りなら、きっと安心してミャオンにつけてあげられそうな気がするんだ。
 ――ミャオンに似合うもの、売っているといいな。

                          <8章へ続く>

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ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第7章5話

堀井明子

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堀井明子

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シナリオライターの端くれ。日本脚本家連盟・放送作家協会・本づくり協会所属。noteでの小説連載は休止中ですが、時々趣味に走った雑記を書いています。http://www.a-horii.info/