ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章1話

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第3章 とおせんぼ

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1話

 出窓、よし。庭へ続く窓もOK。カギはばっちりかかっている。
 念には念を入れて、両方のストッパーもかけておいて、と。
 ……うん、これで安心!
 ミャオンが家を抜け出した日から、ぼくは登校する前に、部屋の戸締まりチェックをきちんとするようになった。
 あの日、運良くミャオンはケガひとつない元気な姿で帰ってきてくれた(ちょっと汚れてはいたけどね)。
 だけどそれは本当に奇跡だったと思う。
 交通事故に遭わない保証なんてどこにもない。迷子になって、家に帰れなかったかもしれないんだ。
 ミャオンに二度とそんな危険な目に遭って欲しくない。
 ぼくだって、ミャオンがいなくなったって気づいた時の、あの絶望は二度と味わいたくない。目の前が真っ暗になって、不安で心配で、心臓がバクバクして、イヤな汗が噴き出してきて……思いだすだけで、手のひらに汗がじんわりにじんでくるくらいなんだ。
「あれ?」
 庭に猫がいる。お隣さんの家で飼っている黒、白、灰色の3匹。最近、よく見かけるようになったけど、庭にいる猫はそれだけじゃなかった。キジトラとか、茶白とか、茶トラに……え、何匹いるの?。
 うちの庭、いつから猫の集会所になったのかなってくらいに。
 それとも――まさか、ミャオンの友達?
 え、でも、いつの間に仲良くなったんだろう。あの脱走した日?
 振りかえってミャオンを見ると、ぼくのベッドの上でのんびりと毛繕いしてる。朝ごはんを食べ終わって満足したって顏をして。
 のんきだなぁ。
 でも、いいんだ。こうやってのんびりと、安心して家でくつろいでいてくれれば、それだけで充分。
 ぼくは教科書でパンパンに詰まった重いランドセルを背負うと「いい子で待ってるんだよ」って、ミャオンをナデナデした。
「……」
 ミャオンはぼくを見上げて、声にならない声で返事をしてくれる。
 これ、時々やるんだよね。
 ママに聞いたら、『サイレント・ミャウ』っていうんだってさ。親愛の情のあらわれ……とかなんとかっていってた。つまりは、ミャオンはぼくのことが大好きってこと。
 こうやって態度で示してくれると、やっぱりうれしい。ぼくだってミャオンが大好きだから。
 あーあ。学校なんて行きたくない。
 ずっと家でミャオンと一緒にゴロゴロしていたいなー。
 でも、学校には行かないと。
 ぼくは気合いを入れるように「いってきます!」って言って、部屋を出た。
 あ、そうだ。登校する前に、ちょっとだけ庭を覗いてみよう。猫が何匹集まってるのか確かめたい。
 そんなことを考えながら靴を履いていたら、
「陽太、ここ数日、登校前に部屋でごそごそしているけど、何をやっているの?」って、ママが声をかけてきた。
「え、戸締まりの確認だよ。ミャオンが逃げ出さないようにしないといけないからね」
 するとママの目がキラッて光った。
「……ミャオンを逃がしたことがあるの?」
「! な、なんで? そんなことあるはずないじゃない」
 ぼくは誤魔化しながら、玄関のドアノブに手をかけた。
 ……実はママとパパにはミャオンが逃げたってこと、内緒にしてるんだ。だって、知られたら――。
「……」
 ママの大きな大きなため息が、ぼくの背中にかかった……気がする。
「夜、じっくり話を聞かせてもらうわ。気をつけていってらっしゃい」
 う。この雰囲気。もしかして。
「い、いってきまーす……」
 ぼくはママの顔を見るのが怖くて、振りかえらずに家を出た。

 まずい、まずい、まずい! もしかして、ううん、確実に、ママに気付かれちゃってるよね? ミャオン脱走事件のこと。
 庭の猫たちを確認したかったけど、それどころじゃない。
 ぼくは早足で歩き出す。
「あら、おはよう、陽太くん」
 お向かいのおばさんとバッタリ出くわした。ゴミ出しの帰りみたい。
「お、おはようございます」
「猫ちゃんは見つかった?」
「あ、はい。見つかりました!」
「そう! よかったわね。気を付けていってらっしゃい」
「はーい」
 ぼくは笑顔で挨拶しながら、心の中で「しまった!」って頭を抱えた。
 ミャオンが見つかったってことを、探してってお願いした人に報告したけど、できてない人たちもいる。今のお向かいのおばさんもその一人。
 てことは――ママは、あのおばさんから話を聞いたんじゃない?
 ううん、絶対そうだ!
 今夜、ママに言われるであろうたくさんのお小言を想像して、ぶるるっと身震いした。夕食にはぼくの苦手なピーマンとトマトとブロッコリーがてんこもりのサラダが出るに違いない。もちろん残すのは厳禁。……下手するとお小遣いまで減らされちゃうかも。
 あ〜、最悪! ユウウツ!
 ぼくはうつむいてため息をついた。ママに負けないくらい、大きな大きなおっきなため息を。
「ぐるるる……」
 ん?
 なに? うなり声?
 顔を上げると――ぼくの目の前に、一匹の猫が立ちふさがっていた。
 キジトラ模様と白いお腹。ちょっと長めの毛並みはほんのり逆立っている。尻尾はボンと膨らんでいるし、そして、なにより印象的なのが……ギラリと鋭い目!
 ぼくは思わず立ち止まった。
 この猫、見覚えがある。確か、餌やりおじさんが『チョビ』って呼んでて、公園の餌やりおばさんが『マンマル』って呼んでた猫だ。
 ぼくはきょろきょろ辺りを見回した。他の猫とケンカ中なのかな、と思ったから。
 でも、そうじゃないみたい。
「うー……」
 大きな猫がまたうなり声をあげた。まっすぐにぼくを見てる。
「え……」
 ま、まさか、この猫――ぼくにすごんできてる!?
 なんで? なんで?
「えっと……チョビ? どうかした?」
 おずおずと声をかけてみる。
 でも、返事はなくて、大きな猫は一歩、ぼくに近付いてきた。
「ゔにゃーーー!」
「!」
 あまりの迫力に、ぼくは一歩、後ずさる。
「じゃあ……マンマル?」
 今度は別の名前で呼んでみた。
「……シャーーーー!」
 ひー! こわい!
「な、なんだよ、ぼくが何かした?」
 また一歩、大きな猫がぼくに近付いてくる。
 それじゃあと横をすり抜けて行こうとしたら、大きな猫もそうはさせるかって感じで、ぼくに身体を向ける。姿勢まで低くしちゃって、お尻をフリフリさせて……って、ちょっと待ってよ!
 これって、獲物に飛びかかる寸前の格好じゃない!? ミャオンが猫じゃらしに飛びかかる時も、こんなしぐさをする。
 じゃあ、ぼく、この猫に狩られちゃうの!? 引っかかれたり、噛まれたりするの!?
 なんで? どうして?
 この猫を怒らせるようなことしたっけ? してないよ!
 でも、ここでずっと睨みあっている場合でもないんだ。
 学校に遅刻しちゃう。家を出たのだって、いつもより少し遅かったんだし。
「ううう〜〜〜」
 今度うなり声を上げたのは、猫じゃなくてぼくだった。
 もうっ! わかったよ!
 ぼくはくるりと方向転換。
 別のルートで学校へ行くことにした。

 別のルートっていうのは、少し交通量の多い道に沿った歩道だ。こっちは六合町(りくごうちょう)の2丁目に住んでいる子たちの通学路になっている(ぼくの家は1丁目!)。もう少し先に行くと、いつもぼくが使うルートと合流する。何人かの同級生もこっちの方に住んでいるから、見つかったら何か言われるかもしれないけど……あの大きな猫にケガさせられたり、睨みあって遅刻したりするよりはマシだと思うんだ。
 ぼくは小走りで2丁目の通学路にたどり着いた。ここを右に曲がってまっすぐ行けば、合流地点だ。
「……あれ? 大林くん?」
 突然、後ろから呼ばれて、ぼくは飛び上がって驚いた。
 だって声をかけてきたのは、内藤芽雨さんだったから。

                            <2話へ続く>

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ぼくとミャオンと不思議を売るお店 第3章1話

堀井明子

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堀井明子

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シナリオライターの端くれ。日本脚本家連盟・放送作家協会・本づくり協会所属。noteでの小説連載は休止中ですが、時々趣味に走った雑記を書いています。http://www.a-horii.info/