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【創作大賞2022応募作品】創作物語“リペイント”〜闇から光の先へ 【9】

【9】
離婚後、白井と出会ってから私の人生は一変した。
自分の気持ちのままに進んだ結果なので全て自分の責任であり、私一人の人生なら自業自得だと諦めも付くが、私は母親として子供達を幸せにする義務がある。
どうしようもなくダメ親で、母親失格だけど最悪な生活から抜け出さなくてはならない。
猛に再会するまでは、自分の人生は諦めていた。
過去の出来事を話す度に、時間は戻せなくて起こってしまった事を無かった事には出来ないけど、自分の中で過去を塗り直し、気持ちを切り替えて生きて行く事が出来る事を何度も励し教えて導いてくれた。

白井と出会って三年目に念願の同居をしたが、離れて暮らしている時は夜の世界に慣れる事と、稼ぐ事に必死な毎日で白井とずっと一緒に居たい一心からお金を稼ぐだけの女になっていたので、白井の言動や行動を疑う事無く信じ込んでいた。
今、思うと信じようとしていただけだったのかもしれない。
耳が悪くて、身寄りも無い事に同情し、母性本能をくすぐられ『私が何とかしてあげなきゃ』と思い込み、過ごして来た事が自分を苦しめる事になるなんて、最初は想像もしなかった。
ただ、嫌われたく無くて白井の喜ぶ顔が見たくて言われるままにお金を渡していた。

同居してからも、白井は何をしているのかわからなかった。
女の影を感じてからは、白井の言葉全てが嘘に聞こえるくらい猜疑心の塊になっていた。
四六時中、白井の動きが気になり、居場所の確認がしたくて突然電話した事もあったが、そんな時は予想通り電話には出ず、暫くすると機嫌の悪い声で折り返し掛かって来るのだ。
そう言えば、二重生活をしていた頃にも何度か同じ様な事があったと思い出した。その頃から他に女が居たと言う事かもしれない。
家の中でも携帯電話は常に携帯し、トイレにまでも持って入っていた。
定職にはついていないので、仕事の電話では無い事はずだが頻繁にメールの着信があり、隠す様に返信すると、かなり念入りにオシャレをし出かけて行く事が増えていた。

同居は全ての行動が見えてしまうので、疑い出すとキリが無く、胸が痛くて苦しかった。
浮気を黙って見逃す事が出来ず、白井がお風呂へ入った隙に携帯を見る事にした。
気付かれない様にすればする程、手が震え心臓もバクバクだったが受信メールにはハートマークがいっぱいのメッセージがあった。
”昨日はありがとう。楽しかったです。今日も会えるかな”
送信欄にもハートマークが付いているのを見た時は、全ての気力を失うくらいショックだった。
私はこんなメールを受け取った記憶ない。

私が携帯を勝手に見た事は直ぐにバレ、白井は大激怒で怒鳴り散らして家を出て行った。
もう、終わりだ。
帰って来ないと思ったけど、日付が変わってから帰って来て背中を向けて寝てる、そんな日々の繰り返しだった。

機嫌の良い時には色んな話をしてくれていた。
パチンコでボロ勝ちして十万円くらい儲けた事や、最近は競馬場にも行っていて近くで見る馬がきれいな事。
白井は自慢げに話してくれたけど私の中では怒りの炎が灯り燻っていた。
『私が体も心もボロボロになりながら必死で稼いだお金を賭け事や女に使うなんて、許せない』
白井の行動は日々エスカレートして居る様に思えたし、サラ金への返済やクレジットの支払いは、幾ら頑張って返しても減る事は無く。
キャッシングなどは分割では無く一括返済をし、また利用するので自転車操業とはよく言ったもので、必死で漕いでも漕いでも前には進まない。
返済が中々減らない現状を、白井に話すと
「わかってるわ。だから、金を増やしに行ってるんや」
「パチンコなんかで毎回、増えるはず無いやん。負ける事の方が多いんじゃないの」
「俺が勝った金で、美味しいもん食べてるやろ。それにお前が留守の間は誰が子供の面倒見てきた思てんねん」
「子供らの事見てくれてるのは感謝してるけど、無駄なお金使わんと借金を早く無くしたいやん」
「感謝って口ばっかりで、お前は俺の動きの詮索ばっかりして気分悪いんや」

ああ言えば、こう言うので話にならないどころか、私の気持ちが伝わるとは思えなかった。
この頃は、出会った頃の優しかった白井は殆ど消え、態度も言葉も横柄で荒々しく恐怖感を覚える様になっていた。
私はどうなってもいいけど子供逹も事が心配だったが、流石に口では怖い事を言うけど子供達には優しかったので、それだけが救いであり、唯一信じたい部分だった。

色んな事がありすぎて、心がしんどかった。
白井の様子は変わらず月日は過ぎて行き遂に家賃や光熱費まで支払いを延滞しなくてはならない事態となった。
サラ金やクレジット会社にも、支払日を遅らせて貰える様に連絡をすればいいと、アドバイスをくれたのは白井だけど、電話をするのは名義人の私だった。
子供達と共に生きて行く為にはお金が必要だったが白井にお金の事は頼れない。
頼れないどころか、こんな状態になって居てもまだ色んな理由をつけて
「何とかならへんか」とお金を要求して来た。
頼みに来る時は昔の白井になるので、私も母を忘れ女になってしまうのだ。
心が弱すぎる自分がなんて馬鹿な人間なのかと呆れてしまう。苦しい。。。

そんな最悪な状態を何年続けただろうか。私自身の体に色んな事が起こって来た。

「お母さん、頭に何か付いてるよ」と娘に言われて鏡を見ると、なんと五百円玉ほどの大きさに毛が抜けていたのでビックリした。
円形脱毛症だ。
見事に、丸く禿げていた。かかりつけの病院へ行くと、ストレスから来るものなので、落ち着けば自然と治る。と言われた。
こんなになるなで自分が壊れかけて居ることを初めて知ったけど、現実はまだまだ厳しかった。落ち着く日は来るのだろうか。

金銭面と精神的な部分の苦しみの捌け口は夜にバイトだった。
本当は弱いはずのアルコールを毎晩浴びる程飲み、売上にも貢献したので時給も上げて貰えた。
盛り上げる為に歌っていた事も自分の気持ちを発散させる材料となり、お客さんとの付き合いで毎晩明け方までアフターを続けた。
自分の体を傷める事で心を麻痺させていた。
しかし、忘れたく辛い思いを癒せる事は無く余計に虚しくなるのがオチだった。
なんと情けない生き様だろうか。
挙句の果てに、大事に育てられ大きな病気一つしなかった私が”難病”と診断され、原因はまたストレスだった。

泥沼人生の一部始終を猛は、嫌な顔せずいつも聞いてくれた。
そして愛してくれた。
「俺と会ってる間は幸せにしたる。よう頑張って来たな」
そう言って貰えた事だけでどれだけ救われたか。
「でもな、莉子。このままじゃあかん。子供らの為にもうひと踏ん張りせなあかん」
「これ以上、何をしたらええか、わからへん」
「別れるんや」
「別れる…」
「そうや、直ぐにとは言わへんけど、一日も早く離れるんや」

私の中で”別れ”と言う選択肢が無かったわけじゃ無い。
何度も、考えたけど白井の性格を思うと、一番に子供達、そして親や兄弟にまで何かされるんじゃないかと言う不安が大きくなり、恐怖で切り出せないでいる。
「今、起こっている事は、どうにもならない事じゃ無い。莉子が強くなれば変えれる、莉子の人生を塗り直すんや。莉子なら出来る、子供の為に頑張れ」
挫けそうになると、いつもそう言って励ましてくれた。

白井に私の性質を読まれている分、私も白井の性質は読めていた。
唐突に”別れ”を切り出すと逆ギレされる事は目に見えていた。
とても苦しく、我慢の日々が続く覚悟と、別れる決意をした。
何年かかるのか、わからないけど、闇色の人生を塗り直し、明るい虹がかかる日を目指して、少しずつ着実に計画を進めた。

”語り”
約十五年ほどの間は、自分のプライベートにお金を使える余裕など無く、友達とお茶やランチ、旅行なんて夢のまた夢。
持病の治療すら思う様に出来なかった。
私はもう、平凡な人生は送れない。
贅沢は言わない、ただ普通で良かったが、それさえ無理だと思っていた。
再会をきっかけに一筋の光を見つけ、その光に向かって生きてみる決心をした。
あれから七年経った頃、白井は家には帰って来なくなった。
〔続く〕

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