Weekly Quest <アメリカのデフォルト>
(2023年5月22日号)
毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。
先週はアメリカの債務上限問題回避を協議するさなかにバイデン大統領がG7に出席のため訪日しました。広島に来てニヤニヤしている姿を見ると「さっさと帰れよ」と言いたくなってしまったのは私だけだったのでしょうか笑。
デフォルトするのかしないのかのタイミングなので日程を切り上げバイデン大統領は21日に帰国し引き続き協議を行っています。先週はバイデン不在の中で代理人による与野党協議が順調に進んでおり合意も近いのではないかといった共和党側のコメントが一人歩きして市場は楽観的な雰囲気がありましたが大統領抜きで合意するはずもありません。
また、与党民主党側が自分達の政策のための予算の削減に本当に応じるのかどうかを考えるとそんな簡単にまとまらないのは当然のことだと思います。また、野党共和党もここで合意してしまうと民主党に屈服したと取られかねないと言ったこともあり協議は難航しています。
どこの国もそうですが政治のメンツ争いで被害を被るのは国民です。
デフォルトとは金融業界ではいわゆる ”債務不履行” を意味します。厳密には2つの意味があります。一つはテクニカル・デフォルトと呼ばれ返済する資金があり返済の意思もあるが、なんらかの規制・理由等のため一時的に資金が使えない状態を指します。今回のようなケースが該当します。
この場合は法的にデフォルトと見做されないケースがあります。実はアメリカでは1933年に金利優遇国債(Goldで利払を行う債券)の利払を1年間延期しましたが、この時はデフォルトと見做されませんでした。当時は格付け会社もありませんでした。
利払延期は大統領令に基づくものでしたが、当時は大恐慌でしたので、政府は失業者に失業給付を提供し、企業に融資を提供し、銀行を救済する必要がありました。利払は後回しにされたのです。
もう一つはよく新興国で発生する完全なデフォルトです。返済資金がなく返済が不可能と見做されるケースです。今回はこれには該当しませんが、テクニカル・デフォルトでも長期間に陥ればデフォルトと格付け会社にみなされる場合もあります。
いずれのケースにせよ金融市場の影響は避けられませんが、デフォルトしてしまった国債は当然ですが担保として使えるかどうかも疑問です。もし担保使用が制限されるとなるとデリバティブ取引や証拠金取引において担保率が変更になり甚大な被害が出ることになります。
また、政府資金が大きく供与されている業界にも影響が出ます。住宅ローン機関、病院、政府請負業者、鉄道会社、電力会社、政府資金に依存する防衛会社まで、影響が出ることになります。
この場合は各社の格付けも引き下げになります。当然ですが会社の格付けが引き下げられると企業の資金調達に大きく影響します。
そして、最後の段階として社会保障などの支給が滞ることになります。これは最後の最悪のケースになります。
ところで、一番重要なことは、アメリカ政府がデフォルト宣言しない限りデフォルトにはならないと言うことです。
こういったことを考えるとテクニカルデフォルトも含めてその発生の可能性は低いと思います。アメリカ政府がデフォルト宣言しない限りデフォルトにはなりませんが、格付けについては別の話です。
2011年にも今回と同じようにギリギリまで揉めた挙句、法案が承認されてデフォルトが回避されたにもかかわらず、今後の財務内容への懸念から格付け会社の S&P 社が米国債の格付けを引き下げました。これにより株式市場は半月ぐらいの間に17%も下落しました。
2011年の債務上限問題もやはり最後まで揉めた挙句に合意をしましたが、合意から3日後に S&Pが米国債の長期債格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に初めて1段階引き下げました。
これは今後の財政健全化政策が著しく不十分だとの懸念から引き下げられたものですが、それから10年以上も経過し同じように揉めているということはある意味 S&Pの見方は正しかったということになります。
この時は1社だけの格下げでしたが、これが2社以上だとそれこそデフォルト並みのショックだったかもしれません。今回も同じように与野党交渉が出来レースだったとしても、格付け会社が見逃してくれるとは思えませんので格付けが下がる可能性があると思っておいた方が良いかもしれません。
今回引き下げられるとしたらAA+レベルがAAレベルに引き下げられることになると思いますが、1社の格下げで済むかどうかはわかりません。これが2社以上の引き下げになると運用上の規定から保有できなくなる金融機関が出てくるとNYタイムズでは報じています。
このようにアメリカ政府がデフォルト宣言をせずに名目的にデフォルトにならなかったとしても格付け機関による格下げが実施されると金融市場には大打撃になってしまうかもしれません。
格付けが変わると、先にも書きましたが担保価値が変わり取引に支障が出ることになります。
2011年の例では「なんで格付けを下げたんだ!」と財務省は随分ご立腹だったようですが、格付け会社から見たら「何も財政健全化しとらんやないか!」ということで格付け会社に軍配が上がることになりました。
実はリーマン・ショックの後にリーマン社に「AAA」を付与していた格付け会社に責任を取らせて倒産させようとした思惑がありました。ちなみにAAA格債のデフォルト率は0.05%未満でしたが倒産してしまいました。
ただ、格付け会社を1社、2社にしてしまうと格付けの公正性が失われるという理由でそのままにしたということでしたが、その後政府は飼い犬に手を噛まれたということです。
(余談ですが、”源頼朝を殺しておけばよかった”と苦虫を噛み潰した平清盛をなぜか思い出してしまいました笑。)
今週はこの債務上限問題が山場を迎えることになります。中短期の公社債で運用しているMMFなどはすでに国債を売却しているという話もあり、先週、特に短期債の利回りが上昇したのはこのためではないかと思われます。
先週のブログではいままでのアメリカではなくなっていると書きましたが、こんなにみっともないアメリカというのも今までになかったことです。やはり、以前と同じアメリカではないということを肝に銘じて投資した方が良いのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。