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言葉を料理する店物語

『ヴォカブラリー』

厨房の中で、ミナミは丁寧に「愛している」という言葉を醤油に漬け込んでいた。
彼の手は慣れた動きで、言葉を優しく撫でながら、その言葉が持つ深い感情を引き出そうとしている。
そして鍋にその「愛している」をそっと入れる。
煮込むこと3時間。
じっくり、じっくり、鍋の中で言葉が熟成し、その意味が深まるのを感じ取っていた。

ついに、熟成された「愛している」が完成した。

ミナミは漬け込んだ醤油をフライパンで温め片栗粉でトロトロソースを作った。それを「愛している」に包み込むように絡めた。
それはシンプルながらも、食べる者の心に直接愛のメッセージを伝える料理だった。

「ヴォカブラリー」。ミナミの店の名だ。
ここでは、言葉を料理にする。
店の主人であるミナミは、言葉の持つエネルギーを感じ取り、それを美味しい言葉料理に変える才能を持っていた。
彼の料理は、食べる者に見た目だけではなく、心にも直接語りかける魔法のような体験を提供する。

店の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、若い女性だった。彼女の目には、何かを探しているような切実な光が宿っている。

「あの、ミナミさんですか? 私、あなたの料理について聞いて… 特別なお願いがあるんです」

ミナミは彼女をテーブルに案内し、彼女の話を聞いた。
彼女の名前はサキ。
サキは最近、大切な人を亡くし、その悲しみから抜け出せずにいた。彼女はミナミに、亡き人との思い出を込めた「慰め」の料理を作ってほしいと頼んだ。

ミナミはサキの言葉を受け取り、彼女の感情を理解しようとした。
そして、彼はその言葉を使って、サキの心に寄り添う料理を作ろうと厨房へ入っていった。

ミナミは厨房に立ち、サキの言葉「慰め」を手に取った。
彼はまず、塩を振りかけて言葉から余分な水分を引き出した。
塩がゆっくりと言葉の表面に浸透し、その本質を明らかにした。

彼はその状態を見て、粉をつけて180℃の油にぶち込んだ。
カラっと揚げてみせた。
ミナミは納得の表情を見せた。

料理が完成し、ミナミはそれを丁寧に皿に盛り付けた。
彼はその皿をサキの前に静かに置く。
サキは悲しみの中にもどんな料理なのか期待に胸を膨らませていた。

そしてミナミは蓋を開けた。
しかし、彼女の表情が変わる。

驚きとともに、彼女の目には新たな光が宿る。

「これは… "慰め"じゃない。これは… “進め”…」

ミナミは微笑む。

「言葉は時に予期せぬ形で私たちに語りかけるものです。あなたの心が求めていたのは、過去に留まることではなく、前に進む勇気だったのかもしれませんね」

サキは深く息を吸い込み、目を閉じる。
彼女の心には、失われたと思っていた希望が再び芽生え始めていた。

一口頬張った。

サキの表情は思い出ではなく、未来が見えたようだった。

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