【⑩_これからの作詞家に求められるもの】

リリック・ラボという作詞の講座を受けたので、①~⑩に渡ってまとめました。
受講料が5万円なのですが、正直そこまで価値がないなと思ったので、講座内容に興味がある方は、まずここを読んでみるといいと思います。


(もはや作詞の技術については触れてません。5万円と講義のトピックにこの雑談レベルの話が含まれています。)

30年程前までは、数少ない才能ある作詞家がレコード会社のディレクターから依頼を受け、次々と作品を世に送り出していました。彼ら作詞家は“先生”と呼ばれ、営業などせずとも彼らの名前で依頼が舞い込んできましたし、気が乗らない仕事は断る事もあったでしょう。
しかし今、音楽業界は大きく様変わりしました。30年前に比べれば年間のCDリリース数はインディーズも含めると何十倍にも膨れ上がり、音楽性は多様化し、音楽がDTM(Desk Top Music)になってちょっとした機材があれば誰でも自宅でレコーディングが出来るようになりました。
レコーディングスタジオに人が集まり、そこで音楽が生まれる感覚は失われつつあります。レコード会社のディレクターはA&Rとなり、スタジオにあまり出入りしなくなったことで音楽制作に疎いディレクターが増えました。そして、1人のアーティストに注がれる時間やお金、そしてスタッフの情熱までもが薄れていっている現実があります。
音楽業界の変化に伴い、作詞の世界も大きく変わりました。30年前に比べたら作詞家の数は何十倍、あるいはそれ以上に増えていて、そのほとんどが兼業作詞家となりました。コンペという発注方法が一般化したことで誰にでもチャンスが与えられるようになったのが理由と思われますが、作詞家の数が増えたことによって作詞家が“先生”と呼ばれるようなことはなくなり、「作詞なんて音楽の知識も機材もいらないし、誰でもできるだろ!」と思われるようになってしまいました。実際、アマチュア作詞家・日曜作詞家(兼業作詞家とは違います)は世の中に沢山います。趣味のように作詞をし、コンペに参加して、たまたま採用されればラッキーという作詞家さん達です。決して悪いことではありませんが、今、作詞家と言われる人たちには、そのような人たちもたくさん含まれています。では、この沢山の作詞家たちの中で“勝ち組”と言われるのはどんな人達かというと、多くは作家事務所に所属している作詞家達です。そして、マネージャーが優秀で、しっかりと音楽業界と作詞家の橋渡しをしてくれている—— 要するに、ディレクターやその他の決定権のある人たちと面識を持ち、少なくとも自分のところの作詞家を贔屓目に扱ってくれるような環境が整っている場所に居るのです。別に、賄賂や汚い方法を使っているということでありません、所属事務所の営業担当者(時には作詞家本人も)がライブやコンサート、イベントにちゃんと顔を出し、あるいはそのようなきっかけが無くても定期的に挨拶に出向き、たまには一緒に食事や飲みをして、必要であればお中元やお歳暮を贈るなど、いわゆる営業というものがしっかりできているのです。
もちろん勝ち組のなかにはフリーの作詞家もいます。彼らはインディペンデントでありながら、必要なコネクションを持ち、営業力もあるマルチタイプです。このような作詞家の殆どは、元々音楽業界またはそれに近い場所で働いていた経験のある人です。言い換えれば、そのようなキャリアがなければ音楽業界はフリー作詞家がなかなか受け入れられない場所でもあるということなのです。

さて、作家事務所に所属していようとフリーであろうと、どちらにも共通して必要な条件があります。これまで一貫して話してきたつもりですが、それは「コミュニケーション能力」です。
コンペシートを読み取る力、ディレクターの立場や視点を鑑みて立振舞える力、ディレクターの更に向こう側にいる事務所やタイアップ先企業の意図を酌む力・・・などなど、これらを一言にすれば「コミュニケーション能力」でしょう。事務所、マネージャー、ディレクター、そのほかの決定権のある人たち、作曲家やスタッフなど様々な人達ときちんとしたコミュニケーションを図れるかどうかと、その他大勢の作詞家よりワンランク上の作詞家になれるかどうかは強く関連しています。
現に、各ディレクターには贔屓にしている作家が数人いて、そのディレクターが作る作品の80%はその贔屓の作家たちが作っていると言っても過言ではありません。それほど、作品力だけでコンペに勝つことは難しいのです。いくらメールですべてのやり取りが出来るとはいえ、やはり顔が見えているという安心感や信頼感は今も昔も変わらないのだと思います。
コミュニケーション能力のほかにもう1つ必要とされるのは“対応力”、これは求められたことに対する的確さとスピードです。7週目のテーマで、コンペで詞が採用された後の直し作業について、ディレクターの要求に対する“対応の早さ”が必要であることは述べましたが、要求に対する的確さとスピードはコンペで勝つ前からも当然必要なのです。ご存知の方も多いかもしれませんが、作詞のコンペは締め切りまでの期間が恐ろしく短いのです。例えば、ここ一年マゴダイに来た作詞コンペの締め切りまでの期間は平均すると4日間くらいで、最も多い発注パターンはアルバム用として3曲を3日後までというものでした。発注されたすべてを提出する必要はありませんが、数少ない作詞コンペということを考えれば、出来るだけ多くの作品を提出したいところです。僕の経験上、3時間で1曲書ければ(要求内容に的確に応えたクオリティで)、それは立派な職業作詞家であると思います。 また、採用後/仮採用後の直し作業についても、スピードは重要です。7週目のテーマで話したような、ディレクターとじっくりとコミュニケーションを取りながらの直し作業の時もあれば、「明日には仮唄をいれるから、今夜2時までには(メールで)送ってください」なんて当日の夕方に言われることもあります。兼業作詞家の場合「今、(他の)仕事してるのに・・・」とか「明日の朝(他の)仕事が早いのに・・・」とかなるわけですが、そんなことを言ってはもう二度と仕事は来ません。そういう急ぎの依頼があったときこそ、リクエストに的確かつスピーディに応える必要があります。最初の依頼から20分で修正を送る、再度リクエストがあればまた 10分後には修正を送る・・・ディレクターとそんなやり取りができ、1時間で作業が終わらせられるようになれば、これもまた立派な職業作詞家といえます。
さて、「コミュニケーション能力」と「対応力」が作詞家に必要な条件であることは述べましたが、同じくらい必要なものがあります ——それは「作詞センス」です。 音楽に関する知識や作詞のテクニックとはまた別のセンスが人並み以上であることが求められるのはプロ作詞家として当然でしょう。この「作詞センス」を持ち合わせたうえで、人とのコミュニケーション能力と要求に対する対応力が必要なのです。昔の“天才”は、周りと歩調が合わせられなかったり、カンシャク持ちだったり、逃走したり壊れてしまったり・・・ダメ人間が多かったのですが、“天才”だから許されていました。しかし今はそうはいきません(作詞家という職業においては特に)、スマートな“マルチプレイヤー”が求められているのです。

座右の銘は、働かざるとも飯は美味い。