一月雑記 靴と昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップ
靴を探し続けている。
シンプルかつ個性的な靴を。上着と合う靴を。
履き心地がよくてどこまでも歩けそうな靴を。
大通り沿いにある靴屋にはよく見る靴が並んでいて、季節で色だけ変わっていく。
その色に足を留めてたまに手を伸ばすけれど、もっといい形の靴があるかもしれないと、手を引っこめる。
靴を探し続けている。
小さな道の小さな靴屋に入っては、最初に見えた棚一面に、ああ私はお呼びでないなと感じつつ、買おうと思えば買えましたが欲しいものが見つかりませんでしたという素振りをしてから出る。
靴を探し続けている。
電車で座るとき、上りのエスカレーターに乗るとき、バス停のベンチで休んでいるとき、人の靴を見る。
よく見る革靴、歩くと光る靴、片方のかかとが斜めに擦り減った靴、紐をかえたであろう靴、おそらく買ったばかりの靴、部活帰りの靴、自分は絶対履かないようなヒールの高い靴、自分は絶対履かないようなもこもこ厚底スケルトンの靴、自分が履いているのと同じ靴。
自分が履いている靴を見る。
紐をかえてみようかな。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐとき、秘伝のたれをつぎ足している職人の姿が浮かぶ。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐ、に続く色んな文章を書きたくなった。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注いで、カレンダーの輪郭をぼやかす。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐシーンは、日常の描くほどでもない光景を描きたいという想いで入れただけなのに、暗喩だとか時間のミスリードだとか、あれこれ深読みされている邦画。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐくらいのはやさの演奏記号
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐ。輪っか。社会科資料室の地球儀と同じ色をしていた輪っか。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注ぐと、王女は目をまん丸にした。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注げば、ミッションクリアです。
昨晩のコーヒーが底で輪っかになっているマグカップに豆乳を注いでレンジで温めているときに色んな文章を考えたので、気づけば時間が経っていて、豆乳を温め直す羽目になった。
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