初めてのサイン本お渡し会に行ってみた
先日、ハライチ岩井勇気さんの三冊目となるエッセイ『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』刊行記念のサイン本お渡し会に行った。
岩井さんのエッセイは一冊目の『僕の人生には事件が起きない』から読んでいて、岩井さんの日常の出来事に対する毒を含んだ遊び心のある切り口のファンである。
二冊目の『どうやら僕の日常生活はまちがっている』が発売されたときは、電話と人混みが嫌いな私がサイン本欲しさに、都会の本屋に電話をかけ取り置きしてもらい人混みをかき分け手に入れた。
そんな私にとって新刊の発売というのは心躍るものであった。
ある日、何気なくTwitterを見ていると今回のイベントの告知が目に入った。
え、サイン本…お渡し会…?
サイン本が手に入るだけじゃなく、手渡してもらえるの…?
これは行くしかない。即座にカレンダーアプリを開き、予定を確認。
バイトのシフト有。
見なかったことにし、とりあえず抽選に応募。
無事当選。
シフトの代打も成功。
行けることが確定した途端、憂鬱が頭を侵食した。
お渡し会って何話せばいいんだ。
元来、私はリアルで会うイベントが苦手である。
もちろん会って話せること自体は飛び跳ねるほどに嬉しいのだが、こちらの力不足で相手を困らせてしまった場合のリスクを考えると行きたくない気持ちが強くなってしまう。
マイナスを生み出す可能性が少しでもあるならば、一生関わらず提供されるものを受け取る毎日でいい、という気持ちにさえなる。
がしかし諸々を天秤にかけた結果、会ってみたいという気持ちが勝ち、無事権利も獲得した今、少しでも楽しんでもらえる話を考えるしかなくなってしまった。
なにを話そう。
こういうとき一番に思いつく「応援してます!」の一言。
私はこれだけは言いたくないなと思っている。
なぜならこのイベントに来てる時点で応援してるに決まってるからだ。
そんなの定食屋に行って注文時に、ご飯食べます!と言ってるのと同じだろう。
あと何よりその人のセンスが好きで会いに行ってるのに、会いに行く側のこちらがセンスがないと思われたくない。
こんなときでも自分の評価を気にしてしまう生きづらい性格。
ここで頭の奥底にあった記憶がふと目を覚ます。
そういえば以前、ラジオでサイン会に行った話してなかったっけ?
なんかアダルト漫画雑誌で活躍してる漫画家のサイン会行ってたよな。
パソコンを開き、『快楽天 岩井』で検索。
漫画雑誌の名前が頭に残ってるのは、聞いた当初に中華屋みたいな名前だなと思ったからだ。
あった。一年ほど前のラジオの放送後記にてそれを発見。
快楽天で活躍する漫画家・いだ天ふにすけ先生のサイン会に行った話。
サイン会で何を話せばいいか悩む岩井さん。
どうすればテンプレートではない、かつ気持ち悪くない質問ができるかというのを考え、あるひとつの質問にたどり着く。
『朝ごはんいつも何食べてますか?』
キモさを朝で中和しようとして失敗した質問だが、初めてのサイン会に大満足して帰ってきた岩井さんのトーク。
これだ!
ラジオを聴いてることを言わずとも伝えることができ、岩井さんのトークから持ってきているという少し粋でクスッと笑える質問。
しかも朝ご飯に何を食べているかまで知れるお得さ。
これしかない。
もはやいつ野生の岩井さんに出会ってもいいという無敵感を得た。
いざ、当日。
お渡し会の時間より少し早く着き、本屋内を散策する。
今はネットで何でも買える時代だが、本だけはこうやって本屋で探したほうが楽しいよなと思う。
開始5分前くらいになったので、イベントが行われる階へと移動。
他の階と同様に本棚が並んでおり、奥に区切られたイベントスペースがある階へと到着。
5分前だというのに、周りに参加者らしき人がいない。
明らかにそわそわしているのは周りを見渡しても、私だけだ。
そわそわしながら並んだ本の背表紙を眺めているとアナウンスが流れた。
「サイン会にご参加の方はお並びください」
その途端、本棚の隙間という隙間から出てくる人。
昔、海で大きめの石を持ち上げたらフナムシがうじゃうじゃ出てきたことがフラッシュバックするくらいの人数。
岩井ファン忍ぶのがうますぎる。
出てきたファンが作り出した列の後ろに並び、再びそわそわする。
本の代金を払い、本の代金しか取られないことに驚愕。
え、イベント代とかないんですか…?
いいんですか。会うこと自体無料で。袋代で2円取られるこのご時世に…?
待機列に回され最高潮にそわそわする。
少し待つと御本人登場。
テレビで見るまんまの姿で、ラジオで聴くまんまの喋り方の岩井さん。
興奮のあまり少し目が潤んでしまった。
参加者全員に向けたトーク。たびたび上がる笑い声。
ああ楽しい。
5分ほど過ぎたころ、ついにお渡し会へ。
一人ずつ徐々に進む列。気分はさながらオーディション。
ついに自分の番。大丈夫。用意してきた最強の質問がある。
「次の方どうぞ」
大きく深呼吸し、気持ちを落ち着かせてからの対面。
ここから先、もらった返答は大事に心にしまって置きたいため、岩井さんがガスマスクをしていると仮定して書かせてもらう。
「よろしくお願いします」
『シュコーーーーーー』
「エッセイもラジオも漫才も全部めちゃくちゃ好きで、そういうものを作るときのテーマってどういう時に思いつくんですか?」
『シュコーーシュコーーーシュコーー』
「ありがとうございます」
本を受け取る。ここで数日前から温めてきた質問をぶつける。
「あの、朝ご飯って何食べてますか?」
岩井さんと隣りにいたスタッフの人が笑った。
よし、成功だ。
『シュコーーシュコーー』
「へーいいですね」
『シュコーーシュコーーーシュコーーーーー』
「え、3つも?!ありがとうございました」
お渡し会、無事終了。楽しかった。
考え抜いた質問もでき、満足した気持ちで家路につく。
もらった本を開くと当日の日付とともに書かれた岩井さんのサイン。嬉しい。
目次のページへ。
「初めてのサイン会に行ってみた」
ラジオで話してた内容書いてあるじゃん!!
こうなってくると私のした質問は、『一年前のラジオで話してた内容を覚えてた粋な質問』ではなく『最新のエッセイから持ってきたちょっと面白いと思われたいやつがした質問』になってないか?!
ああ悔しい。
でもそれを遥かに凌駕する楽しさだった。
岩井さん、次はいい質問持っていくのでまたいつか接触イベントやってください。
どうも、akamachiでした。
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