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劇場で観たものも含む映画レビュー

 「親愛なる君へ」(☆☆☆☆)

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まちポレいわきにて観劇

 ほぼ5。主演と婆さんの女優はじめ、配役は端役に至るまで外れなしのオールアンサンブルキャスト、撮影、音楽もみごと。開幕後、これは一体どういう家族関係だ……? と当惑させられ、人間ドラマとともに緻密な構成でその謎解きが進んでいき、ドラマに奥行きを与えていく。幾度も落涙を堪えねばならないシーンがあったが結末部はやや弱いか。だが、熱いことを言っている映画でありながらそれを込み入った構成美とあいまったシリアスさで捉えている手腕は端倪すべからずそれである。主演モー・ズーイーの押さえた演技は非常に印象深く、トランスジェンダーを題材とした作品が様々な国で撮られているなか、出色の出来映えになっている。

 あきらかにいい映画です。百分が少し長く感じたけれどもそれは込み入った構成ゆえで、作品の傷とはならないかと思います。少なくとも二本立ての一本めにしてしまうにはもったいない、これ一本でお腹いっぱいになれるほどの映画ではありました。男性同士の性行為が映っているためレーティングがR18指定ですが、この程度ならばせめてPG12だろう、というような描写でした――トランスジェンダー先進国である台湾に比して、わが国はかくも遅れているという証左でしょうが、それを言いつのるのもなんだか馬鹿馬鹿しいですね。

 「最後にして最初の人類」(☆☆☆☆)

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 この作品の場合は評価に際してまず、様々な切り口からの評価があることを前提とせざるをえない――原作小説の読者、なにも知らずに観た人、ヨハン・ヨハンソンのファン……私は三番目のヨハン・ヨハンソンのファンとして観劇をした、ということになる。勿体ぶったタイトル、深長で深淵めかした映像に騙されてはならないのであって、ナレーションによって進む物語というよりは監督のメッセージは(それがなにかうるさくて要らない、映像と音楽だけでいいよというくらいなのだけれども)、遺作として、ヨハン・ヨハンソンらしい甘ったるさを湛えながらにひねくれた人間性への直接の賛歌となっている。

 連れと一緒だったのだが「ヨハン・ヨハンソンを知らないとだな……ああ、ばかうけ、『メッセージ』の音楽の人」「ヨハン・ヨハンソンというのは坂本龍一を高級にしたような人というか。海辺のアインシュタイン以降の商業化したフィリップ・グラスとか、ポーランドのキラールを音的にうんと高級にさせてクラブ界隈では知っていて当たり前みたいな人」「多分ちんぷんかんぷんなもんを観させられると思うんだよな」言い、「映画じゃなくって、美術館に現代アート観に行って、なんか映像作品が流れているインスタレーションみたいなのを八十分観させられると思っといたほうがいいよ」と言っておいたら、それが的中した映画。DVDでは意味がなく、ぜひとも映画館で観たいが、映画館で観てもなにを観させられているのか……と眠たくなる映画。一方でアート系作品とただこき下ろすにはあたらず、非常に熱いことを言っている。

 「僕の彼女を紹介します」(☆☆☆☆)

 韓国にはアニメーションはなくてもこの手の映画のコンテンツがある、とつくづく感心させられる。サービス精神が旺盛で脚本の密度が高く、それゆえの大振りな展開を見せてくれるのがこの手の韓国の商業映画の特徴である。この作品の場合には前半はテンポが良く一つ一つのシーンが練られた恋愛コメディなのだが、後半になるとバイオレンス・アクションへと様相を変える。しかもこのアクションがまた説得力があって出来がいいのである――。主演女優、男優ともにハマリ役であり、エンターテイメントとしてとにかく面白い。

 「トム・ソーヤー&ハックルベリー・フィン(2014)」(☆☆☆)

 な、なんだこれは……。美術も配役も(皆演技ができている)音楽も(文学的香気のあるクラシカルでいいテーマ)カメラも(とにかく凄いカメラワークで、カメラの設定や動きを追っているだけでお腹いっぱいになれるほど)素晴らしいのだが、九十分映画として脚本が全体に混乱している、編集には問題がないのだが無駄なシーンがあったり行き当たりばったりの展開と感じさせていたりと、最終的にカタルシスを与えるに至っていない。映像的には充実をしている分、本当にもったいない。

 「スポットライト 世紀のスクープ」(☆☆☆☆)

 音楽がうるさいことを除けば非常にいい出来映え。記者たちが特ダネを調査するその多岐にわたる取材先を辿るように、(群像劇の体裁を採りながら)ロケ地を多くして映像的に常に変化が起こっていることで、真相に近づいていく加速感を楽しみながら観ていられる。記者たちをヒロイックに捉えているわけでもカトリックを悪として捉えているわけでもない映画全体のバランスといおうか距離感も高い評価に値するだろう。役者たちは皆いきいきと演技しており、カメラワークと編集は地味ながらも工夫が効いている。

 「天国にちがいない」(☆☆☆☆☆)

 静的である分数センチ単位でこだわったような丹念きわまりないカメラワーク、音響の明確さ、演技のたしかさが、どこまでも傍観者であることによって浮かび上がるようにみえてくる人間天来のユーモアを捉え、その成り立ちはひとかたならない作り手の厄介さを含ませながら文明批評的な広がりを有している。作り手の狙った通りに次々と笑わせられる快楽も含めて、まず☆五つが適当だろう。異邦人を主題とした作品のなかでもきわめてユニークである。



静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。