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独身40代女が出張から帰った時

※上の写真は出張先でもらったお花と、彼氏Sさんのお姉さんから初対面でいただいたお花と。

私は結婚していた8年間、共働きだったけど、元夫の方が毎日終電、週末出張もありだったため、「仕事から帰ったらご飯ができている」状態だった日が3日ぐらいしかない(覚えているぐらい珍しい)。つまり、上げ膳据え膳だった実家を二十代で出て以降、仕事から帰った自分を「お疲れさま」と労ってくれる人は、20年近くいない状態だった。当たり前すぎて、特に疑問を持ったことはなかった。

あるとすれば、弱って、心がささくれ立った時。私は仕事柄、年輩男性と触れ合う機会が多いのだが、上司が「疲れた、疲れた」を連発してても、「どうせ家では奥さんがご飯作って待ってるんでしょ。クリーニングや宅配の受け取りも全部奥さんでしょ」と、内心「いいよなあ」と妬んでいた。専業主婦のいる男性同僚に対しても、しかり。

妬むということは、うらやましいということだ。でも、望んでも得られないものを求めてもどうにもならないし、心がささくれ立った時にちらと顔を覗かす程度の、妬み。視界に入らないようにしてきた。

ただ、どうしてもそれを見ないようにしていても、出てしまうことがある。特に出る時、それは「出張から帰った時」。出張で気を張って仕事をして夜、帰ってくる。夕飯も面倒なので適当に割引の弁当と氷結を買う、家の鍵を開ける、真っ暗、換気、スーツを脱ぐ、配膳してテレビつけてやっと一息。疲れてもはや、お腹が空いているかもはっきりしない。すぐ代休を取りたいけど、片付けることをやってからと思うと、月曜はとりあえず出社。

ホッとはするけど、この時、どうしようもない寂しさに襲われる。

出張から帰ってきて、独り。


私の職場は少ない人数で出張シーズンを乗り切る必要があり、子育て中の人、介護中の人、これに最近妊活中の人が加わり、それら出張免除組を差っ引くと、3人ぐらいの独身組でこれを回さねばならない。先日のラグビーワールドカップ、大のラグビーファンの彼氏Sさんと一緒に観戦したかったのに、出張2つが重なり、日本戦4試合中2試合しか一緒に観られないことになった。悲しいけど、雇われの身に拒否権はない。

その週末、Sさんは「どうせ時間あるから」と、羽田空港に行く私を見送りに蒲田駅までついてきてくれた。少し早めに出て、スーツでカメラを二つ持って、キャリーを引きずる私のキャリーを持ち、JR蒲田から京急蒲田までを歩いた。パン屋に横付けのカフェで二人で少し食べ、そろそろ飛行機なのでと私だけ先に出て行こうとしたら、改札まで見送りに来てくれた。改札を入って、エスカレーターを上がって互いの姿が見えなくなるまで手を振りあった。

その光景だけで、私は今回の仕事を乗り切れた。

さて帰り、日本・南アフリカ戦と、ちょうど帰りの飛行機の時間が被った。私は仕事自体の疲れ、バードストライクで遅れている飛行機にイライラ、不貞腐れていた。試合、Sさんと観たかったな。

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※不貞腐れ時の光景↑

羽田に着くなりスマホをチェックしたら、Sさんの試合中継LINEが並んでいた。試合は後半で、日本がかなり負けていた。

合わない靴は痛い、カメラは重い。鉛のような体で10時過ぎに家に着いたら、Sさんがご飯を作って待っていた。

「お疲れさま」

Sさんは何てことない顔して淡々と、ビールと、作ったつまみを出してくれた。言葉が、光景が、疲れた体に染みわたる。

私、この味ずっと忘れないと思う。

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