経団連と不動産屋と秀吉

先日経団連の会長がメールを使い始めたとニュースになっていたが、このニュースに対して旧体制(アンシャンレジーム)の弊害や遅れを指摘するツイートを散見したが、実はこの話は大きな示唆を含んでいると思う。

翻って、僕のいる不動産業界を見てみると、免許番号二桁の老舗業者の社長がメールもパソコンも何も使えないにもかかわらず、業界で大きな力を持っていたり、ドチャクソ売上を上げていたり、指導的な役割を果たしているというケースをちょっとやそっとでなく発見できる。

若い世代の人はそういう非IT的な仕事をバカにしがちだが、世の中の構造をよく観察してみるとそんな簡単な話ではない。なぜなら、経団連の会長や老不動産社長は自分ではそういった技術をまったく使わない(使えない)が、彼らの部下が代わりにメールやパワポを作るからである。メールやパワポを使えるから部下の方が偉いのかと言えばそうではない。その待遇に不満を持って若手の部下が退職したとしてもすぐに新しい人員が補充されるだろう。しかし老社長が死んだり辞めたりすればその影響は大きく残る。

トレーディングカードやソーシャルゲームでレアリティを示すランクとしてコモン・アンコモン・レア・スーパーレアなどがあるが、たとえるなら一般の社員はコモンであり、老社長はスーパーレアなのである。メールやパワポを作成できる一般社員は掃いて捨てるほどいるが、大物に顔がきいたり、彼に報いようとする人間が大勢いる老社長は他の人で置き換えはきかない。人間力はスーパーレアだが、ITスキルはコモンなのである。だから一般社員はITスキルがあって当たり前で、それがなければ雇ってもらうことさえできないが、老社長はそんなものは必要なく、部下に代行させればよく、自分にしかできない顔役をするわけだ。

各ポジションによって求められる能力や仕事は違う。社長が店舗ブログの更新をしてもしょうがないし、社員が業界の会合に出ても意味がない。若き日の木下藤吉郎を名乗っていた頃の秀吉は草履取りとして細やかな気配りで出世の糸口をつかんだが、関白となった秀吉には草履取りのスキルは必要ない。そんなことは他の誰かにやらせるからだ。

だからむしろ、今回の経団連会長がメールを使い始めたというニュースは頑迷固陋な老害がやっと文明の機器を利用し始めたというポジティブなニュースというよりは、経費節減の波を受けて(ほら経団連入会資格の緩和とかもあったよね)草履取りとか秘書に相当するポジションが削減されたのではないか、というある種の体制の落日を僕なんかは見ちゃうところがある。

以上。(帰りの電車で20分執筆)






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