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16年越しの邂逅。(後編)

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※公開後に若干加筆修正しました

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目の前に拡がるフロアが徐々に人たちで埋まっていく。
自分より後に入ってきた人たちのほうが多いように感じられて、改めて自分の整理番号が割と前半にあったのだと気づいた。
ステージのほうを向いているので、表情がわかる人は少なかったが、開演を今か今かと待ち侘びて、何かの拍子に爆発しそうな熱気がじわじわ充満してきていることも感じていた。

開演5分前に差し掛かったといった頃だろうか。
フロア内に突如、メンバーの名前を叫ぶ声が響き渡り始めた。自分の頭上を越えていく声、真横や前方から放たれる声…。きっと、これまで自分が行ったライブに来ていた人の声も混ざっていたのだろう。開演前から自らの気持ちを高められて、こうして声にして伝えられる人たちのことを凄いと思う。
「ヤスタカー!」や「大渡さーん!」といった、Perfumeの3人以外の人の名前も飛び交う。面白いことを言う人もいるんだな、と心の中で平静を装いつつ、敢えて定石を外れた表現ができる心持ちでこの場に居る人のことを羨ましく思った。
その声に呼応するかのように、開演前のアナウンス、通称「影ナレ」が流れ始める。ぴたりと歓声が止み、場内に緊張感が走ったかのように思えたが、「間もなく開演します!」という影ナレの締めの一言が起爆剤となり、フロア内は再び熱気を帯び始めた。
自分はまだ傍観者だった。それが、フロア内の後方という自分が陣取った場所だけが理由ではないことには、心のどこかで気づいていた。

場内の照明が落ちて、あたりは一瞬にして暗闇を帯びた。
うっすらとだが、ステージ上に3つの人影が現れたのが見えた。にわかに歓声が起こる。
パッとステージ上の照明がつくと、そこにはPerfumeの3人が立っていた。3人のフィジカルに最新のテクノロジーを絡めたPerfumeのライブは、仰々しい映像で始まることが多い。そんな中、暗転板付きから始まるライブなんて今後一生観ることはないと思っていた。上下白の衣装で、上に着ているセーターには黒字で「Perfume」と書かれているだけの、至極シンプルな格好。そんな中、普段は黒髪ロングストレートの髪型でお馴染みのかしゆかが、ツインテールにしていることに思わず目を奪われた。
ライブ1曲目のイントロが流れ始めたところで、はっと息を呑んだ。2008年1月のリリース曲で、自分がPerfumeを好きになるきっかけとなった「Baby cruising Love」。楽曲が終わるまでステージに釘付けだった。セットも特に無いステージ上で歌う3人の姿を、両サイドの袖や天井が長方形型に切り出している。自分が2008年当時、320×240のガラケーで「Baby cruising Love」のミュージックビデオを何度も観ていたことを思い出した。

楽曲が終わると、場内から割れんばかりの拍手が溢れ出す。ただ、その拍手さえも一瞬で抑え込んでしまうかのように次の楽曲「コンピューターシティ」へと突入。1曲目を見事にやり切ったことへの歓声が、瞬く間に次の楽曲を歓喜する声へと変わる。
この楽曲を観ていて思い出すのは、Perfumeが初めて武道館でライブを行ったこと。「BUDOUKaaaaaaaaaaN!!!!!」というタイトルで開催されたそのライブの1曲目がまさしく「コンピューターシティ」だった。正面のステージの幕が上がるとそこにはこの楽曲のポーズで構えている3人がいると見せかけて、出島からせり上がりで登場するオープニングは、映像で観ても驚嘆させられた。自分は当時地元住まいで、当然都内で行われたこのライブには行ける術も無かったのだが、ライブDVDは事前に予約して、発売日にお店に取りに行って持って帰ってきて即視聴した。ネット注文で何でも欲しいタイミングで欲しいものが買えるようになった現在では希薄になった感覚だと思う。CDショップに置いてあった、紙の注文票も今ではめっきり使わなくなった。
なにはともあれこの「コンピューターシティ」にはもう1つ思い出があって、この楽曲のサビの振り付けが別曲の「シークレットシークレット」のミュージックビデオでも登場すること。当時の自分は「シークレットシークレット」のミュージックビデオがとても好きで、違う曲の振り付けも入っていると知ったときはその遊び心に感嘆した記憶がある。そんなことも思い出した。

次の楽曲のイントロが流れ始めるが、自分にはまだ何の曲か分からない。記憶の奥底をザッピングする自分をよそに、舞台袖からスタンドマイクを持ってくる3人。スタンドマイクの前に立つと、よく耳に馴染んだ楽曲が流れてきた。これも実はずっと聴きたいと願ってきた楽曲「ファンデーション」。直接現地で観るのも初めてだし、映像作品でも最後に観たのっていつだろう…?と思ってしまう。どことなく悲しげな雰囲気を帯びた歌詞と音色が好きで、「心にまで化粧してた」という歌詞を直接聴けたことに凄く感激した。そんな感激をよそに、『かしゆかのお散歩』が観られた時ににわかに沸き立つフロア。きっと16年前の、まだ地下アイドルシーンの空気が残っていた頃はこのような盛り上がり方だったのだろう。

3曲を披露したところで、トークの時間に。
MCとして登場したのは、グランジ・遠山さん。かつてtokyo fmの「School of Lock!!」にPerfumeと一緒に出演しており、最近では、遠山さんのYouTubeにPerfumeの3人が出演したことも話題になっていた。この界隈でも「とーやま校長」の愛称で今もなお親しまれており、間違いなくこの場を纏めるに相応しい人だろう。
我々観客と同じように、過去のPerfumeライブグッズで身を固めてきた遠山さん。Tシャツは「COSMIC EXPLORER」、首から下げたタオルは「PPPPPPPPPP」のもの。他アーティストのTシャツで来てしまった自分なんかよりこの場に馴染んでいた。
一番最初のコーナーは、今回の「P.T.A.検定試験」の振り返り。Perfume3人も直々に試験を受けたそうだが、3人が全くの同点であったことが明かされたり、今日来ている人の成績上位者の表彰を行ったりした。
その後は、遠山さん考案の問題をPerfumeの3人に出題。検定試験の3択問題とは異なり、フリップに回答を書き込む自由記述形式。ライブDVD「bitter」より出題されていた問題もあり、かつては自分も穴が開くほど何度も観た記憶のある作品だが、いざこうして問題に直面すると何も覚えていなかった。
その後は、観客へのクイズとして、曲のイントロを口(くち)で再現する「口(くち)イントロクイズ」や、ミュージックビデオやライブ映像におけるメンバーの表情の一部を切り取った「顔イントロクイズ」など、マニアックかつ出題形式が独特すぎるクイズが続いた。Perfumeの3人も出題者側に回り、答えがわかったら我々観客が挙手して回答していくスタイルだ。
正直…1問も分からなかった。脳内に無数の「?」を浮かべて困惑する自分をよそに、次々と正解を出していく観客の人たち。やはり、成績上位で先に入れて、ステージ間近の客席前方を確保できた人たちからの回答が目立ったように思う。
あの人たちと自分とでは3人への愛情が違う、と思いかけて留まった。この検定試験で測られて、数値化されているものは何なのかという問いが、依然として自分の中にあった。3人への愛情なのか、それとも過去に発表した楽曲やライブ映像、雑誌のインタビュー記事への知識なのか、はたまたそれらを鮮明に覚えていられる記憶力なのか。
試験の結果が出て、合格者としてこの場にいる今この瞬間になっても、その正体を探し続けていた。正体なんて無い、と分かりつつも。

トークコーナーのラストでは、遠山さんが「口(くち)イントロクイズ」の流れから「ハッピーバースデー」と歌い始めて、翌日2月15日に誕生日を控えるあ~ちゃんを祝福した。
その後は再びライブパートに。今回は、2008年2月のP.T.A.発足ライブの再現ライブという触れ込みだったが、当時には存在せず、むしろ3人の最新曲と言える「すみっコディスコ」より再開。その後の「彼氏募集中」でも、最後3番の歌詞を『今のPerfume3人』が相手に求めることに置き換えての歌唱となり、2008年の再現だけでなく、今のPerfumeの要素も織り交ぜてきた点に、常々3人が発信している『Perfumeは前進し続ける』というメッセージを体現しているようにも感じられた。
その後は、3人のグループ名を冠した「Perfume」という楽曲を披露。通称『ぐるぐるゆー』と呼ばれる、指をぐるぐる回した後に舞台上の3人と客席の観客がお互いを指さしあう部分。これも、かつてライブDVDで観て、いつかはやってみたいと思っていたが、ここまでこじんまりとした会場でできる日がくるとは思っていなかった。
その後はMC。退場時に3人がお見送りをしてくれることが発表され、にわかに沸き立つ観客たち。3人との距離や、見送ってもらえる時間といった、お見送りの要領がまだ明かされていないので、感情を顕すのがワンテンポ遅くなる自分。
そして最後は「チョコレイト・ディスコ」で〆。最後に再びステージに戻ってきた遠山さんが言ってくれた通り、2月14日のバレンタインデー当日にこの楽曲を観られたことが非常に感慨深かった。

大団円のうちに、この日のライブは終了。
3人のお見送りも、本当に目と鼻の先に3人がいるという至近距離。普段は自分たちより一段高いステージ上にいる3人が、自分たちと同じ目線の先に居たことが印象的だった。立ち止まったりすることはできず、スタッフさんに背中を押されてすぐに流された。

帰路へと向かう道中。
帰りも、LIQUIDROOMの最寄りである恵比寿駅ではなく、ひと駅隣の渋谷駅を目指した。陽がおちても暖かく、非常に心地良く歩けた。
行きも帰りも通ったのは明治通り。渋谷から先、原宿や代々木も経由して新宿まで延びている。その周辺にあるライブ会場、LINE CUBE SHIBUYAや国立代々木第一体育館で行われたライブ終わりには、よくこの道を歩いて帰路についていた。
今回もそんな時間が必要だった。ライブで観聴きしたものを咀嚼し、消化するための時間。ひとりきりであれこれ考えられる時間。特別なライブを観られた感覚が強い時ほどこうしてきた。

明治通りを歩きながら、観聴きしたものを脳内であれこれ反芻し、感情を表現する言葉をあれこれラベリングしていく。
そうしたラベルの束が、前編後編に分けて書き綴ってきた今回の記事である。
ただ、本当に言いたかったことなんて、本当はひと言ふた言程度のものなのかもしれない。

夢がまたひとつ叶ってよかった。
自分がファンになった頃の、2008年頃のPerfumeが目の前にいた。

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