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私はそれを、意志だと思う

職業柄、仕事のペースには波があり。嵐の後には、決まって凪が来る。何に追い立てられることもない穏やかな時間といえば聞こえはいいが、その実は不安や焦燥に立ち向かう時間だったりする。忙しい間は見なくて済んでいる、見ないようにしている現実と向き合わざるを得ない時間でもある。

流れに身を任せて走り続けているだけなら気は楽だけれど、それはそれで体力が目減りしていく。心技一体とは言ったもので、健康を損なうと心までやられてしまう。何事も”ほどほど”が寛容ということなんだろう。

さて、何をしようか。
ひとまず、部屋の掃除でもしよう。お洗濯をしよう。髪を切りに行こう。

4月のはじめ、それまで伸ばしていた髪をばっさりと切り落としてからというもの、月1回のペースで美容室に通うようになった。

それまで『散髪』という行為は半年に一回ぐらいのちょっとしたイベントだったので、月に1〜2回のペースで日々の生活に組み込まれたことはいまだ新鮮で。
「わー!短くなってる!」「かくかくしかじかで」というやりとりも、ようやく減ってきた。100回は繰り返した気がする。今の短い状態の僕を知ってくれた人からは、伸ばしたら「長いね!」って言われるんだろうか。

担当さん(断髪式以来、絶大な信頼を寄せている)が髪を切る様子をまじまじと眺める。

「(見てるの)楽しいですか?」と担当さん。

「楽しいです」

”普通”は雑誌を読んだり、携帯を触っているものらしい。僕はどうしても、真剣な眼差しで仕事に打ち込んでいる姿に目を奪われる。巧みに鋏を使いこなし、迷うことなく断ち切っていく職人だ。自分にはできない芸当を目の当たりにして、戦慄すら覚える。

我々が行っている楽器の演奏も、一種の特殊技能。ことドラマーに至っては「手足バラバラに動くのすごい!」と言われがち。しかしながら実際のところはバラバラに動かす機会なんてそうそうないので、一般通念と奏者の認識の乖離を感じる部分。僕から言わせてみれば、指先の細かな動きで音符を追いかけている人たちの方がよほどすごい。歌う人もすごい。歌いながら踊る人も。音を操るFOHや、照明を操るLTの人たちだってすごい。

担当さんの迷いのないハサミさばきを見て、ここに至るまでにどれほどの研鑽を積んだのだろう、と考える。ハサミと櫛を持って産まれてきたわけではないだろうから、どこかの、何かのタイミングで美容師を目指すことになり。多くの経験を経て、今ここにいるんだろう。はじめてのお客さんの時には緊張しただろうか。

「いつも」
「一切の迷いがなくて凄いですね」と僕。

ニヤリとして「ありがとうございます」と担当さん。

そんなことないですよ、じゃないのが仕事への誇りを感じさせる。

髪を切ったことで、人生が開ける人だって少なくないはずだ。それまで意識していなかった美的感覚が研ぎ澄まされたり、新しい自分に気付いたり。異性から衆目を集めるようになったり、関わる人間関係に幅が出るようなこともあるかもしれない。髪を切ったその日に芸能関係者からスカウトを受ける、意中の相手からアプローチされる、なんてこともあるかもしれない。

「切ったんだ」「素敵だね」「似合ってる」のその先に。

誰に切ってもらったの?」

と。
果たして何人が、その偉業を気にかけてくれるのだろう。10人のうち一人でも居るだろうか。

縁の下の力持ちじゃないけれど、表からは光が当たりにくいであろうその仕事姿に、勝手にシンパシーを覚えている自分がいる。
すべて切り終わった後の「いかがですか?」の時間で得るものが、きっと一番の報酬だろうから。僕はめいっぱい、言葉の限り感謝を尽くす。

それにしても、ショート・・・楽だな(•﹏•  )
しばらくこのままでいよう。気が向いたらまた伸ばそう。



僕のメンターであり、生涯の忠誠を誓うただ一人の男、瀬上純さんが先日めでたくお誕生日だったのもあり、イギリスでソニック・ザ・ヘッジホッグシリーズのイベントを企画運営している団体『Summer of Sonic』がおめでとうツイートをしていたのだけれど。

なぜか右下に僕と種子田さんまで載っていた
(3人で組んでいる”Sonic Adventure Music Experience”(略称S.A.M.E.)のイギリス公演前に現地でリハーサルをした時の集合写真だねこれは)
誰がアカウントを管理しているかはわからないけれど、Svend(Summer of Sonicの中の人)の粋な計らいな気がする。

瀬上さん54歳かぁ。信じられないな。知り合った時はまだ30代だったのに。忙し過ぎてめちゃくちゃ心配になるけれど、どうかいつまでも元気でいてください。あと早くライブしましょ。いやマジで。僕のところにまで「次のライブいつなの?」ってめっちゃ問い合わせくる。

あの『アビィ・ロード』の横断歩道で。

例に漏れず僕も「コロナさえなければ」と歯噛みする一人と相成ってしまった。失われた時間を取り戻しに行かなければ。忘れ物を、ちゃんと取りに戻らなければ。
・・・そういえばあの時の”イギリス旅行記”みたいなものを一切書いてない。写真も動画も大量にあるのにどこにも出していないので、そのうち陽の目を見せてあげようと思う。今では笑い話だけれど、当時は肝が冷えるようなアクシデントもあった。楽しかったなぁ。
ちなみにアメリカ滞在記も、やれ『−18℃の極寒の地で凍えながら煙草を吸った』だの『乗り継ぎのシカゴであわや足止めを喰らう寸前だった(前後便が欠便になってた)』だの、書き記していないことが山ほどある。これもいずれ。

ていうかライブのたびに最後は集合写真とか撮ってるのに!その後一枚も見たことない!もう!w

そういうのもまた、瀬上さんらしいんだけどさ。

ソニックシリーズの音楽は。S.A.M.E.は。Crush 40は。
僕が”最後に必ず帰るところ”だから。

ここ数年もどかしくも、次の機会を待ち侘びている。

僕が今日まで音楽を辞めずにいられたのは、間違いなく、彼のおかげ。

ついでにこっちも載せておこう。

Crush 40 / S.A.M.E. は01:30:28あたりから。
640万回も再生されてるのね。嬉しいなぁ。



このところ”以前やっていたバンド”について聞かれたり「あの時どうだったの?」といった質問をもらうことが多い。流石に辞めてから結構な時間が流れたので、いずれ書ける機会が訪れたら、とは思う。
書くべきか。書かざるべきか。知らない方がいいことだってきっとある。どうしよう。

変遷を辿って、随分と長い時間を音楽に費やして来れたのだなぁ、と感慨深い気持ちになるなど、する。

”振り返った後にしか存在しない時間”というものがあって。とても長い、長い長い時間を経て、僕はようやくそれに向き合い始めてる。

それはそれとして。

9月23日に主催イベント的なものを行うので、是非来て欲しいな、というのを追記しておく。ドラマーとしてのAkht.をふんだんに観られる機会(さして貴重というものでもないけれど)なので、楽しい催しにしたい次第。

いつかお世話になった人たち、これまでサポートさせてもらった人たちを呼べるだけ呼ぶ、みたいなこともしてみたいのだけれど、恐らく共演者だけでライブハウスが埋まってしまうので、その折には選りすぐらないといけない・・・。

夏も折り返しだ。とはいえ夏の盛りはこれから。
読者諸賢、ご自愛ください。

読んでくれてありがとう。

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