律
むかしに見た、浅い眠りの中のはなし。
朝が私に問いかける。やさしいこえで、けれど、その台詞は吐き気を催すほどに不釣り合いな言葉を並べている。
いらっしゃい、今日はどうするの?
……動きたくないわ。
なら、気持ちだけでも清々しく、いきましょうよ。方法はいくらでも用意してある。
…ぁ………。
終わりが見える。終幕だ、いわばエピローグだ、それとも、消え入るようなアウトロ?
カーテンコールの終わりに、私は真っ当な人のように、残酷なワインレッドの飛沫をあげて、舞台袖へ倒れこむ。何者かを明かさぬまま、からだごと、泡沫のように消えてゆく。
訳もわからず、笑みが溢れた。自己顕示欲を消費するが如く身勝手を振り回し、妄想による悦に浸る。
このからだは生きていた!わたしは死んではいなかった!
笑いながら、泣いていた。
足は震えていた、私自身によって、手は強く握りしめられた。
喉に刺さったガラス片を、必死に飲み込もうとしている。たぶん、これは世に浮かぶ不文律による「悪い言葉」。
どうしたの、変な顔をして。
あの、喉に、引っかかってるんだ、何か。
吐いてしまいなさい。
駄目だ、汚い。汚いは、悪だ、
きたないは、きれいよ、きれいは、きたない、なの
いや
先日まで、美しい希望を抱えた天使だと信じてやまなかった朝の姿は、その日、嗄れた声の魔女に見えた。
昨晩、変に少しだけシェークスピヤを齧ったのが良くなかったか。いや、聴こえる声はお告げでもないし、魔女は三人も居ない。私は王になろうなんて考えない。
あぁ、ならば朝は私を罰している。
怠惰で、つまらなくて、ただ希望を待つのみの私を。
そのせいだろうか、私は朝に弱い。目覚めは大概悪い。
泥のような微睡みから起き上がると、目覚ましはスヌーズさえ通り越していて、私は慌てて布団を剥ぐ。
魔女は意識の外へ消えてしまった。