細くて長い、あなたの指【ショートショート】【#15】
「指が長くてキレイ」
それが最初の印象だった。
もちろん、いきなり指から目に入ったというわけじゃない。でも情報として最初に入ってきたのは「長くてキレイな指の人だ」、というもの。
そう思ってしまったのだから仕方がない。
良くしゃべる人だなとか、結構背が高いんだな。なんていう印象は、その後しばらくしてから補足情報として積みあがっていった。正直、顔は好みとは言えない。太っているわけじゃないし、小キレイにしてはいるけれど、特別オシャレってわけでもない。
勝手に評価してしまうなら、10点中5点くらい。
でも、その人が今は「彼氏」となっているのだから、人生わからないものだ。
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友人から男性を紹介してくれる、という話を聞いた時は、あまり乗り気じゃなかった。
その友人は割と派手な子で、その子の友達も私からすれば少し気の引けてしまうような……悪くいえば「チャラい」感じの人が多い印象だったからだ。
乗り気でもないのに会うのは失礼だとか、万が一下手にこじれたら逆にめんどくさいとか。最初はのらりくらりとかわしていたけれど、最終的に押し切られてしまったのは、あまりにも何度も勧めてくる上に、特に断る理由もなかったからに過ぎない。
「そりゃあ私だって寒空に一人身は寂しいし、本当にいい人なら会ってみたい」
そんな内に秘めたる「あわよくば」な願いも、拾いに行かないと降ってくることはない。でも、会うことが決まった日付が近づくにつれて、わずらわしさがどんどん広がって来て、気持ちが後ろ向きになっていったのもまた事実だった。
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そんな後ろ向きな経緯で会ってみた「指の長い人」は、特別悪い印象もないけれど、特に良い印象もない。
まさに中の中。
ただ、ランチを食べたお店で丸2時間。何気なくおしゃべりが続いたのは私としては意外だった。
諸手を降って「楽しかった」とまでは言えないし、単にランチがおいしかったせいなのかもしれない。特に期待をしていなかったせいで、気負わなかったのが良かったのかもしれない。
それでも、初めて男性と二人きりで会って、何気なく時間を重ねることができる、というのは初めての体験だった気がする。結局、そのまま何度かデートを重ね、向こうから告白される運びとなった。
頭に浮かんでいたのは、友人のこの言葉。
「異性と一緒にいて『不快じゃない』のはそれだけで貴重なんだよ」
あの言葉がなかったら多分断っていたと思うな。
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結果として、友人の言葉は正しかったわけだし、今となっては感謝している。
不快でないのは貴重だ。心からそう思う。でも、そんな低い基準で見られていると彼が知ったら気を悪くするかもしれない。だから、彼の好きなところを聞かれたら、ちゃんと「長い指が素敵だ」と言うことにしている。
嘘じゃないし、本当のことだ。最初からそうだったのだ。
でも人間は、最初に好きになった部分を、最初に嫌いになるらしい。そうすると、私は彼が嫌いになる時は、その長くてスラっとした指から嫌いになるのだろうか。
あまり想像もつかないし、これに関しては多分想像がつかないことはいいことなのだろう。人の指は普通、急に短くなったりはしないものだから。
……そうね、太るのには気を付けてもらおうかしら。
「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)