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新幹線なくなっちゃった【ショートショート】【#56】

「新幹線なくなっちゃった!」

すぐ後ろの座席に、大きな声で泣いている子供がいる。あえて聞き耳をたてなくとも言っていることは丸聞こえだ。座席の間からチラリと見えた姿は4歳か5歳くらいの男の子。彼が来ているトレーナーにも新幹線が描かれており、電車への愛が伝わってくる。

「しー!静かにして!さっき売店で買ったやつ?ちゃんと持っててっていったでしょ」

少年は一向に泣きやむ気配がない。なるほど、今さっき買ってもらったばかりのおもちゃをなくしてしまったのであれば、その悲しみは莫大なものだろう。大好きな新幹線のおもちゃであればなおさらだ。

ここで私の自己紹介をしよう。私、こと「奥平 進次郎(おくだいら しんじろう)」は知る人ぞ知る名探偵だ。警察の捜査に協力したことも数知れず。表にこそ出ないものの、その功績は計り知れない。私にかかればどんな難事件でもすぐに解決できる。

「お弁当買ったときは、まだ持ってた?おトイレ行ったときは?落としたんじゃないの?」

泣き止んでほしい一心で、お母さんが話しかける。しかし少年はそれどころではないようで、ただただ泣き叫ぶばかり。このまま解決の糸口もなく事件は迷宮入りするかと思われた。しかし事件にとって予想外だったのは、この車両には私、奥平進次郎が乗っていたことだ。

私は立ち上がり、後ろを振りむいて言った。

「お母さん、突然すいません。お坊ちゃんのおもちゃ……新幹線ですかな。まずは一度、お坊ちゃんのコートのポケットを見てあげてください。今日は冷え込みますからコートも厚い。必然ポケットも大きい。私の推理によると、おそらくお坊ちゃんはトイレに行った際に手を洗ったのです。その時、持っていた新幹線を何気なくポケットに入れた。そして乗車して、コートを脱ぎ、今になって気が付いたのです。『おもちゃがない!』と。おもちゃはきっとそこに、厚いコートのポケットにあるはずです。さあ見てみてください。間違いありません」

母親はあっけにとられていたが、とにかく一度見てみるかとばかりに、少年のコートをあさる。するとどうだ。出てきたのだ。新幹線のおもちゃがコートのポケットからちゃんと出てきたではないか。

「ふふふ……名探偵にわからないことはありませんから」

私はゆっくりと2度、口ひげをなでた。しかし次の瞬間少年は言ったのだ。

「これじゃないの!もっと大きいやつ!さっきまであったの!」

さっきより大きな声で泣き出したたからたまらない。この名探偵が太刀打ちできない謎があるとは……。母親がお菓子を出したり抱きしめたり、とにかく自体は最悪の一途をだどっている。なんとかしないと、なんとか……

慌てふためく私をしり目に、母親は何かに合点がいったようで、少年に話しかけた。

「さっきまであったおっきな新幹線ね!あーわかったわかった。すっごくおっきかったよね。今ね、私たちは……その中にいるのよ。見えないけど今私たち、新幹線の中にいるの」



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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)