無免許運転

ある人は、その乗り物に付いているクレーンを使って物を投げ飛ばした。

ある人は、同じクレーンで自分の所有する乗り物の本体を故意に傷つけた。

またある人は、その乗り物に搭載されているスピーカーを用いて他人に暴言を浴びせた。

そして、またある人は乗り物に乗ったまま、ビルの屋上から落下した。

「だって、幼い頃から今日まで、誰も教えてくれなかった。もはや周りにいた大人も、操縦の仕方を知らなかったのかもしれない。」

カウンセラーの前で少年は、自らの手のひらを眺める。

皆、免許など持たず当然のようにこの乗り物に乗って、誰かを、自分を、傷つける。

少年は思った。

何のために、この窓から塩水が流れるのだろう。
何のために、エンジンの辺りが痛むのだろう。

これはこの乗り物の欠陥か。
それとも僕が、持って生まれた教本か。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?