インスタントコーヒー

 なぜ私達は、全ての苦しみ歪み不公平を、一人きりで背負わなければならないのかしら。

「インスタントコーヒーの方が好きなんて、可哀想。」

 そう、私にはドリップコーヒーの美味しさが分からない。小さい頃から飲み慣れている、インスタントコーヒーが大好き。

 そんな私を、可哀想、と言った。インスタントコーヒーが好きな人間に育てた、その人が言った。

 そう言うなら、ドリップコーヒーの美味しさを教えてよ。
 責任取れないくせに、可哀想とか言わないで。私にとって一番大切な私を、可哀想な存在にしないでよ。

 あなたがそうさせたんじゃない。

 なぜ私達は、全て一人きりで背負わなければならないのだろう。

 なぜ、毎日こんなに苦しいのに歩いていかなきゃいけないのだろう。

 でも私には、忘れられないから苦しくて、それでも忘れたくないことがたくさんある。

 お店のラーメンよりも、インスタント麺の方が好き。
 あなたが、麺が茹で上がる1分前に鍋に卵を割り入れてくれる。

 午後4時に飲む牛乳多めのインスタントコーヒー。

 畳の匂い、暖まった部屋、晴れた日曜日。

 そういう記憶が、私を生かしている。

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