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「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」

11/27。

5:30起床。

天気は曇り。


「とにかく、最近のおまえはどうかしている。どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」

――アンナ・カヴァン『氷』p41-42より引用

「どうして」って、言われてもな。


言われたの、ぼくじゃないけどさ。


それにしても、『氷』は面白い……。


おいしいぜんざいを食べていたはずのぼくは、世界が急に色褪せて見えた。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


ぼく、ぼく。


言われたのは、ぼくじゃないよ。


それでも、


ぼくは、残りのぜんざいをさっと食べ終え、その喫茶店を後にした。


人通りがないわけじゃないのに、外は妙にしんとしていた。


小雨まで降り出して、空気をさらに冷たくさせる。


せっかく、温まったのにな。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


うるさいな。


言われたの、ぼくじゃないけどさ。


ぼくじゃない……。ぼくじゃない……。


気付けば、自分に言い聞かせている。


ぼくは、何に怯えているんだろう。


歩いて、歩いて、付きまとってくる何かを振り払おうとする。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


その声が、どんどん変質していくのを感じる。


声の主は、『氷』の登場人物じゃない。


それは、子どもの頃から知っている、子どもの頃から恐れている、ぼくが最も恐れている――。


ああ、だめだ。


想像するだけで、吐きそうになる。


立ち止まってはいけない。


もっと、もっと遠くまで歩く。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


うるさい。


うるさい。


ぼくは、生まれつき『普通』じゃないかもしれない。


でも、それはぼくだけのせいじゃない。


お前らが。


お前らが、『普通』じゃないぼくを気持ち悪がったから。


お前らが。


気付けば、うちまで帰ってきていた。


時間を確かめると、2時間以上歩いていたらしい。


ぼくが疲れているのは、歩きすぎたせいなのか。


それとも。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


なんだか、すごく眠かった。


眠くて、眠くて、しょうがない。


だから、ろくに布団も敷かず、床に倒れ込んだ。


「どうして普通の人間らしく振る舞えないんだ?」


ぼくは、何もかも置き去りに、夢の中へ逃げた。


目を覚ましたとき、声はどこかへ消えていた。





「僕だけが、鳴いている」


これは、
ぼくと、ドッペルゲンガーのドッペルさんの話。


連載中。


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