あなたへ。もしくは、生まれ来る人たちへ。(おめでとう/川上弘美)
僕は、「察して」が大嫌い。
僕は頭がよくないから、いってくれないとわからない。何をするのは良くて、何をするのは悪いのか。「そんなの、簡単だよ」って、いえる人も、いるのかな。でも、僕にとっては良いことでも、あなたにとって悪いことって、あると思うから。
「いわれなくても、わかるでしょ」も、大嫌い。(まあ、同じ意味だよね。)だって、いわれないとわからないから、訊いているんだよ。だって、自分のことだってわからないのに、ましてや他人のことなんて、わかるはずないよ。
だから僕は、わかってもらいたいことは(わかってもらえなくても、いいんだ。)、口にするようにしているんだ。それがたとえ、昨日も一昨日も一昨々日も、何度も何度もいってきたことばでもね。
昨日と同じように、
明日も同じように、
君が、大好きなんだよって。
*
僕には、パートナーがいます。
僕が、大好きな人。
僕を、大好きな人。
パートナーは、1日1回以上、「大好き」といってくれます。僕は、1日1回以上いわれているのに、いつもいつも照れてしまって、僕だって大好きなのに、なかなかことばが出てこないときがあります。だから、そのときいえなかった分、あとで(といっても、その日の内に)、もっとたくさんの「大好き」を、パートナーに返します。
「また来週ね」
めんどりを抱くミカミさんを見上げながら、私は言ってみた。来週のことを言うなんて、約束みたいなことを言うなんて、はじめてのことだった。
――川上弘美「ぽたん」『おめでとう』より
僕はパートナーが大好きで、パートナーも僕を大好きでいてくれます。でも、パートナーが1日1回以上いってくれるのは、きっと、不安とか心配とか、そんなものじゃないと思います。
大好きな人に、大好きといえること。やりたいと思ったら、今すぐできること。でも、やりたいと思っても、できない日が、いつかは来ます。その「いつか」は、何十年も先かもしれないし、考えたくはないけど、明日……いや、今夜かもしれない。
「こんなことになるなら、もっともっと、いっておけばよかった」
そんな後悔は、したくないです。だからこそ、いいたくなるのかもしれません。たとえ、昨日と同じことばでも。たとえ、昨日と同じ気持ちでも。今日も、同じ気持ちでいるから、同じことばをいいたいんだと。
忘れないでいよう、とあなたが言いました。何を、と聞きました。今のことを。今までのことを。これからのことを。
――川上弘美「おめでとう」『おめでとう』より
今日も、1日が始まります。
おめでとう おめでとう
それは、あの自己啓発セミナーじゃなくて。
今まで共にあった日々に。
これから共にする日々に。
おめでとう おめでとう
心から、祝福します。
おめでとう/川上弘美(2000年)※品切れ
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