生活保護は「就職するまでのつなぎ」じゃない!本来の意義を理解しよう
1️⃣生活保護=就職までのつなぎ?
星那:生活保護って、再就職するまでのつなぎなの?
ゴロー:生活保護は、再就職までのつなぎとして活用されることもあるが、それだけではない。基本的には、最低限度の生活を保障するための制度であり、病気や障害、高齢などの理由で働けない場合や、働いていても生活が立ち行かない場合にも利用される。再就職を目指せる人には、就労支援が行われるが、全ての受給者が再就職を前提としているわけではない。
星那:そうだよね。ちなみに生活保護は憲法に基づくもの?
ゴロー:そうだ。生活保護は、日本国憲法第25条に基づく制度だ。憲法第25条では、「全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されており、この権利を実現するために「生活保護法」が制定されている。生活保護は、この理念に基づき、国が国民に最低限度の生活を保障するための具体的な仕組みとなっている。
2️⃣生活保護の究極の目的は「富の再分配」
星那:生活保護法は、経済学的には「富の再分配」であって、「就職するまでのつなぎ」ではないよね
ゴロー:その通りだ。生活保護法は、経済学的には「富の再分配」の一環であり、「就職するまでのつなぎ」という狭い目的に限定されるものではない。
富の再分配は、社会全体で得られた富を公平に分配し、経済的不平等を緩和するための仕組みだ。生活保護は、特に所得が最低水準を下回る人々に対して、基本的な生活を保障する役割を果たしている。これは、社会全体の安定と福祉の向上を目的としており、単なる一時的なサポートではなく、社会保障システム全体の中核の一部といえる。
もちろん、再就職可能な人には就労支援が行われるが、それは生活保護の全体像の一部分に過ぎない。したがって、「つなぎ」ではなく、社会的セーフティネットとしての本質を理解することが重要だ。
星那:そう、セーフティーネットなんだよね。だけど、「就職するまでのつなぎ」と考えている人が多いのはなぜだろう?
ゴロー:「就職するまでのつなぎ」と考える人が多い理由には、いくつかの社会的背景や認識のズレがあると思われる。
自立支援の強調
生活保護には就労可能な人に対する「自立支援」が含まれており、行政もそれを強調する傾向がある。その結果、再就職を前提にした支援制度というイメージが浸透している。スティグマ(偏見)
生活保護に対する「怠けている人が利用するもの」といった偏見が根強い。そのため、働ける人は早く「脱却すべき」という考えが広まり、「つなぎ」としての性格だけが強調されやすい。メディアや行政のメッセージ
「働ける人は働きましょう」といったメディアや行政のメッセージが、生活保護を一時的な支援とみなす風潮を助長している。一方で、病気や高齢、障害のある人が利用する側面は十分に伝えられていない。社会的自己責任論の影響
新自由主義的な「自己責任論」の広まりが、「生活保護=一時的な救済」という認識を強めている。これにより、長期的に支援を受けることへの否定的な見方が生まれる。教育や知識不足
生活保護の本質や目的が、教育や啓発を通じて十分に理解されていないことも大きい。制度を知らない人ほど、自分が知っている「働くこと」に結びつけて解釈しがちである。
これらが絡み合って、「生活保護=就職するまでのつなぎ」という狭い見方が広まっているのだろう。セーフティーネットとしての本来の役割を正しく伝えるには、制度の目的や利用者の多様性をもっと広く知らせる必要がある。
3️⃣生涯働けない場合もあるー多様なケースがありうる
星那:なるほどね。フリーライダーは「富の再分配」の邪魔をするから退けられるべきだけど、ずっとそれに頼るからといって「怠け者」というわけではない。いろいろなケースで生涯働けない場合もあり、対応する社会政策が「生活保護」しかない場合もあるということを知ってもらいたい。
ゴロー:その通りだ。「フリーライダー」という概念は、公共財や制度を不当に利用する人を指すが、生活保護受給者すべてをその枠に当てはめるのは大きな誤解だ。
生涯にわたり働けない人や、働いていても経済的に厳しい状況にある人が存在するのは現実であり、そうした人々のためのセーフティネットが生活保護だ。これを怠け者扱いすることは、制度の本質や社会の複雑性を無視している。
さらに、生活保護しか選択肢がない人がいることを理解するのは重要だ。例えば、以下のケースが挙げられる:
障害や病気で働けない場合:医療やリハビリが必要で、労働が現実的でない場合。
高齢者:年金だけでは生活できず、働くことも難しい場合。
介護や育児で働けない場合:家族のケアが必要で外で働くことが難しい場合。
就労が不安定な人:非正規雇用やブラック労働などで最低限の生活が維持できない場合。
「生活保護に頼る=怠け者」という偏見は、これらの人々を社会から孤立させ、結果的にさらなる困窮を招く。むしろ、生活保護は「富の再分配」を通じて社会全体の安定と連帯を支える仕組みだと再認識することが必要だ。
この理解を広めるためには、制度に対する正しい情報提供や偏見を解消する教育が重要であり、それが富の再分配を健全に機能させる鍵となる。
4️⃣利用できる制度がないー「制度の谷間」にいる人々の最後の砦
星那:「障害者なら障害者雇用や障害者年金を使えばいいじゃない」というのも実はあやまりで、日本の場合は厳格な「障害者になるための要件」があり、それに合致しないような(たとえば自閉症スペクトラムなど)ケースもあって、そういう場合で経済困難な場合は「生活保護」を使わざるを得ない。
ゴロー:その指摘は正しい。日本における障害者雇用や障害年金は、障害を持つ人を支える重要な制度だが、利用するには厳格な「障害者認定基準」を満たす必要がある。この基準に合致しないケースでは、たとえ生活が困難でも制度の対象外となり、他の選択肢が限られてしまう。
例えば、自閉症スペクトラムや発達障害などの「見えにくい障害」を持つ人々は、障害者手帳が取得できない場合や、就労が難しくても障害者雇用枠を利用できない場合がある。さらに、障害年金も同様に厳しい認定が必要で、初診日の証明が取れないなどの理由で受給できないケースも多い。
こうした人々にとって、「生活保護」は最後のセーフティネットとなる。しかし、社会的には「障害者なら他の制度を使えばいい」という誤解が根強いため、生活保護に頼ることへの偏見が生じやすい。
重要なのは、障害の種類や程度は多様であり、それぞれの状況に応じた支援が必要だという認識を広めることだ。また、生活保護は単に「怠け者のための救済」ではなく、障害や経済的困難を抱える多様な人々を支える仕組みだということを、もっと社会的に理解してもらう必要がある。