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さユり弾き語りアルバム「め」感想

さユりさんのこの弾き語りアルバムの制作発表を聞いた時、私は飛び上がるくらい喜んだ。何しろ私はこの人の生命力溢れるアコギ弾き語りに惚れ込んで自分もアコギを始めたくらい彼女の弾き語りが大好きなのだ。そんな彼女の弾き語りアルバム、買わないわけにはいかなかった。初回盤にはあの伝説の新宿路上弾き語りライブ映像が付いてくるとのことで、奮発して初回限定を購入した。

6月にこのアルバムが届いて箱を開けた時は本当に感動した。シンプルを突き詰めたスタイリッシュなデザインのパッケージ。そしてじゃばらになっているイラスト付きの歌詞カード。曲の世界観を忠実に再現したイラストに惹き込まれた。私は興奮に胸を躍らせながら曲を聴き始めた。

まず特筆すべきなのは初音源化の「夜明けの詩」だろう。まさにプロローグに相応しい、彼女の魅力満点の曲だ。空を切り裂くような独特の歌声、切れの良いギターのサウンド。「何か残したくて叫んでた」サビの言葉が滲みる。

彼女の歌はやはり弾き語りが一番映える。こんなにも力強くも繊細に紡ぐ弾き語りがあるだろうか。伴奏がアコギ一本で物足りないなんてことは全くなかった。むしろメッセージ性の強い歌詞が、アコギ一本というシンプルな構成ゆえに真っ直ぐ伝わってくる。アコギで路上ライブをしていたというデビュー前から変わらぬ純度の、伝えるということへの想いがわかるようだ。まるで目の前で語り掛けられているような、そんな錯覚をしてしまう。

どの曲も素晴らしく魅力的だが、私の一推しは彼女が二十歳になる時作ったという「birthday song」だ。心臓の拍動をイメージしたというリズムには、「生きている」という実感を強く感じることが出来る。非常に優れた表現である。「死のうと思って決めた後の死ねずに吸い込んだこの息で 私は歌を歌っている」この歌詞には鳥肌が立つ。語りの部分は酸欠になりそうで苦しくて藻搔いているようなイメージだが、「私は歌を歌っている」のメロディーで息を大きく継いでいるような生命力が戻ってきたような、不思議な気持ちになるのだ。苦しい自分のための、苦しい誰かのためのバースデーソング、のような曲である。

「オッドアイ」も私のお気に入りの一つだ。優しく苦しみに寄り添う歌だが、弾き語りではその温もりがさらに増している。この曲では前述の力強い生命力のある曲とは違い、耳馴染みのよい優しい弾き語りになっている。まさに「弾き語り」という言葉にぴったりの、語り掛けるような歌い方だ。「あなたを今夜も苦しめているその刃が翼に変わるまで 一緒に待っててあげるから 一緒に育てていきたいから」この歌詞の表現も私の好きな部分の一つだ。苦しみを無理に取り除くでもなくただ側で待っていてくれる、この優しさに私はいくつの夜を救われただろうか。

忘れてはいけないのが「ミカヅキ」。彼女のデビュー曲であるこの曲は、彼女の魅力が詰まった曲だ。最初のアルペジオ、力強いストローク、心の内で叫ぶような歌詞、歌声。「月と花束」と対比して聴くのも面白い。この二曲はアルペジオから始まる、月に関連しているなどいろいろな要素が共通しており、歌詞の違いから時間を経た彼女の心境の変化が窺える。

語り切れないので他の曲は割愛させて頂いて、DVDの方の感想に移る。DVDでは先述の新宿路上ライブの数曲と、「夜明けの詩」の弾き語り映像が収録されていた。映像を見た感想は……「本当に存在してるんだ……」という感じである。何しろ存在感がすごいのだ。アコギ一本でここまでの存在感を出せるアーティストはそうそういないのではと思う。弾き語りライブはCDの倍の迫力があった。生で聴きたいアーティストNo.1である。このDVDは家宝にしようと思う私であった。

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