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ヒトリエ・wowakaさんの訃報に寄せて

4月8日、ヒトリエのVo. & Gt.のwowakaさんの訃報が突然届いた。

3月初旬から新作リリースに伴う全国ツアーを行なっていた彼らだが、2日前の4月6日に当日の京都公演、翌日の岡山公演をメンバーの諸事情により急遽キャンセルされることが発表、僕自身とても心配していた最中での発表だった。

正直かなりショックで、一晩明けてもまだ受け止めきれていない部分が大きい。周りからは意外だと言われることも少なくなかったが、僕はヒトリエというバンドがとても大好きだ。新作がリリースされれば必ずチェックしていたしライブハウスやフェスのステージに何度も足を運んでいる。深くフォローしてこなかったシーンであることからボカロPとしての彼らやwowakaを語る言葉を持っていないけれど、ロックバンドとしての彼らにとても惹かれ続けていることは間違いない。

初めて彼らの楽曲に触れたのはラジオだったと思う。そのメロディーラインは明らかに00年代のロックバンドたちに対する愛が溢れていたが、それだけにとどまらない高い技術力を用いての高速テンポと隙間を音数で埋めていく高密度な楽曲に新しさと面白さを感じた。

様々な楽曲に触れるうち、僕は彼らの音楽に“10年代のミクスチャー・ロック”を感じ続けているのだと思う。

Dragon AshやORANGE RANGEのように00年代の日本におけるミクスチャー・ロックはHIP HOPとロックサウンドの融合が要素の大部分を構成していた。

一方、インターネットの世界をバックボーンに持つヒトリエは、高速リズムやカッティングから構成される高密度なビート感や次々に行われる転調、時に不安定で浮遊感あるボーカル、アニメやゲームカルチャーとの親和性、といった様々な要素を複雑に絡み合わせながらひとつの楽曲を作り上げ、結果として非常にハイコンテクストのようでありながら様々なフィールドの音楽リスナーが触れやすい音楽を提示している。その間口の広さに今の時代のミクスチャー・ロックを感じていたのだ。

11年に結成、今年で活動9年目。バンドキャリアも中堅どころに入り始めた彼らにとって今年は本当に勝負の年だと思うし、事実として飛躍が続いている。

よく、バンドがひとつの大きな壁を超えて次のステージに行くためには誰に対しても響く名刺がわりの一曲が必要だと言われる。Suchmosの「STAY TUNE」、[Alexandros]の「ワタリドリ」のように、昨年末にリリースされた「ポラリス」がヒトリエにとってはまさにそれだった。

テレビアニメ「BORUTO」の主題歌に選ばれたことで今まで以上に多くの層に彼らの存在が届くようになり、楽曲自体も聴きやすいキャッチーなパートと彼らお得意の高密度なパートを交互に聞かせることで音楽性の幅を見せつけた。

その3ヶ月後にリリースされたアルバム「HOWL」は、今までの高速高密度な楽曲だけでなく、音数を少なくしながら打ち込みを前面に押し出した「SLEEPWALK」が収録されるなど、壁を超えたからこそチャレンジできる新たな姿勢が見えとても素晴らしい作品になっている。現在行なっている全国ツアーを経て得た経験がまた彼らの音楽を新しいステージに押し上げるはずだ。



だからこそなんでこのタイミングなのだろう。僕はヒトリエ4人のこれからをもっともっと見ていきたいのだ。こういう表現は好きではないし滅多に使うこともないが、それでも音楽の神さまというものがいるのであればものすごく残酷なのではないかと問いかけたい。

彼ら全員がファンであり大きな影響を受けたというNUMBER GIRLが今夏に復活を果たすことが発表された。そしてその発表直後にリリースされた「HOWL」には、明らかにナンバガサウンドを意識した「コヨーテエンゴースト」やタイトルからして愛しか感じられない「殺風景」という楽曲が収録されている。僕は石狩平野でこの2組が見られるのではないかと密かにワクワクしていたのだ。

まだ現実を受け入れられない。受け入れられないからこの文章だって過去形にして書けていないのだ。今は、ただただ寂しい。

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