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2020年マイベストアルバム(と1年の振り返りのようなもの)

気がつけば2020年もあと2週間足らずで終わってしまうんですね。年齢を重ねるたびに一年が過ぎるのが早いなぁと感じるようになってきているのですが今年は輪をかけて早かった・・・。それが年齢のせいだけではないことはきっとみなさんも一緒なはずですよね。

それを踏まえた上で僕自身の2020年を振り返ってみると、ここ10年の中でもプライベート・仕事ともに人生の大きな変化を迎えたとても濃い1年でした。

プライベートでは4月に娘が生まれ家族構成が僕・妻・娘・ニャンズ(プーラ&アメリ)という大所帯に。(大変ではあるものの)育児がとにかく楽しいこともあり今までのように土日は夫婦で遠出して遊ぶということも減ってもっぱら自宅で過ごす時間が増えました。

仕事面ではCOVID-19の感染拡大により3月から9月いっぱいまでほぼ在宅勤務、10月からは週2〜3回程度の出勤はあるものの感染予防とは別に制度としての在宅勤務が整備されたこともあり、社会人12年目にして出社せずに“自宅で働く”という新しい働き方に自分をアジャストさせていくことになりました。

ちなみに開始当初は色々と試行錯誤をしたものの、往復2時間弱の通勤時間がなくなること、家族で過ごす時間が圧倒的に増えたこと、好きなものが身近にあるため気分転換が図りやすいこと、から在宅勤務はとても自分に合っているように思えます。

そしてプライベートと仕事の変化も相まって社会人生活12年間で最も音楽を聴く時間があったのが2020年でした。今年は自分の状況、世の中の状況が音楽を聴く気持ちに多くの影響をもたらしましたが、どんな時であっても楽しみは増幅してくれ、怒りを落ち着かせ悲しみを癒してくれたのが音楽だったことは間違いありません。

そんな中で今年もたくさんの愛すべき素晴らしいアルバムたちに出会えました。音楽制作、ライブともに悩みの尽きない状況の中で作品をリリースしてくれただけでアーティストやスタッフの方たちには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

もともと苦手なこともありこれまでマイ年間ベストアルバムを選ぶ際にアルバム間に順位はつけていなかったのですが、今年は上記の気持ちも相まってますます順位付けをする気持ちが起きなくなったので、マイベスト10枚ともう10枚を選出したものの相変わらず順位付けをしていませんのであしからず・・・。ちなみに10枚にはごくごく私的な簡易コメントをつけました。

それでは、音楽業界を賑わせた有名作からストリーミングの広大な海で偶然出会った素敵な作品まで10枚+10枚、まだ聞いていない作品あれば年末のお供に連れ立って頂ければ嬉しいです。

1.2020年マイベストアルバム10枚

Age Factory「EVERYNIGHT」

4月29日リリース。奈良県出身の3ピースバンドの3rdアルバム。緊急事態宣言が出されて気持ちも身体も窮屈になっていく中でこのアルバムが鳴らしたロックンロールの骨太な音とメッセージが与えてくれたポジティブな気持ちをこれからずっと忘れないでしょう。

特にライブハウスが名指しで批判されていたこの時期に「Dance all night my friends」が思い出せてくれたライブハウスの情景は今なおとても心にくるものがあります。

“フロア、誰も照らさない光とずっと踊っていたいんだ この夜の終わりまで”
”時が過ぎていく 終わらせないで灰が溢れても 誰も気づかないで緩くなったハイネケン”   -Dance all night my friends

beabadoobee「Fake It Flowers」

10月16日リリース。フィリピン生まれロンドン在住の20歳のSSW待望の1stアルバム。夏頃に友人がある雑誌のコラムで彼女を紹介していたのを見て名前の不思議さに惹かれ、最近個人的にアジアルーツのミュージシャンに興味を持っていたことも相まって調べてみたところがっつりと心を掴まれました。

僕がティーンだった90年代のオルタナやシューゲイザーへの愛が惜しみなく感じられるとともに00年代のインディーロックや10年代のポップも感じさせられて聴くたびに発見がある面白いアルバムです。

GEZAN「狂(KLUE)」

1月29日リリース。今思えば20年の始まりにこの作品がリリースされたこと自体なにかの予兆だったのではないでしょうか。

2020年は正義の名の下に行われる分断や対立がこれまで以上に顕在化した1年でした。世界中のみならず日本でも各々が信じる正義のもとにある意味で以前よりもドラスティックな表現や行動が起き、僕自身(良いか悪いかは別としても)時にそれらにポジティブな気持ちを得たり、悲しんだり憤ったり感情の起伏が激しい時期が続きました。

このアルバムを一聴するとそのような分断や対立に溢れる世界を予想して過激で扇情的な表現で相手に行動を訴えかけるような歌詞に聞こえます。しかしながらその実全ての曲に込められているのは自分の感情と正面から向き合ってぶつかり、取り込んで昇華させ自分を変えよというメッセージ。そして個々人が変わったその先にあるのは新しい価値観がスタンダード化した世界であるということ

これまで彼らが武器としてきたロックやパンク、HIP HOPの要素にトライバルビートという感情的でプリミティブな表現を組み合わせて唯一無二のサウンドを作ることでそれらのメッセージを相手の体の芯に届かせるようなアプローチを行なっているのではないでしょうか。2020年のみならず20年代をのちに振り返っても名作と呼ばれる作品として残り続けて欲しいと切に願います。

Gotch「Lives By The Sea」

12月2日リリース、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン・後藤正文(=Gotch)のソロ3rdアルバム。一聴して素直に『ミュージシャンとしてこういう年の取り方、生き方がかっこいいなぁ』と思った作品です。

アジカンが日本のロックバンドの代表格となった今、(メンバーの発言から察するに)リスナーやシーンから求められる像に対して彼ら自身が応えていかなければならない状況が少なからずあるのではないでしょうか。バンドとしてそこにしっかりと向き合う一方で、バンドで得た”らしさ”に今自分が興味があるものをうまくかけあわせながらやりたい音楽を表現するという今作におけるGotchのモードはびっくりするほど肩の力が抜けて心地の良い音楽で溢れています。

お馴染みの盟友たち(mabanua、シモリョー、井上陽介、中西道彦、YeYe、アチコ、岩崎愛)に加えてSkill Killsの弘中兄弟がビートメイクをすることでHIP HOP的なサウンドプローチをしつつBASI、唾奇、JJJという客演ラッパーたち(絶妙な人選!)とフロウするGotch。目には見えないものの笑顔でゆらゆら揺れながら歌う姿がありありと思い浮かびます。ちなみに「The Age」のリリックの一節が韻の踏み方もメッセージもとても好きなので紹介させてください。

口に合わないなぁそのビーフは ここはピースにビールで乾杯ってのはどう?
-The Age

余談ですが2021年1月11日までにオフィシャル通販でレコードやCDを注文するとGotchがサインを書いて送ってくれるそうなのでぜひサイトを覗いてみてください(僕は自分へのボーナスとして注文しました 笑)。

Into It. Over It.「Figure」

9月18日リリース。数々のバンドを渡り歩く稀代のソングメイカー・Evan WeissのソロプロジェクトであるInto it. Over it.の4thアルバム。

“エモ”という単語がファッション・コスメ業界で使用され急激に広まった2020年。音楽ジャンルとしてのエモを語る際に外すことのできないIIOIがとても素敵なアルバムを届けてくれました。

Evanの代名詞とも言える差し引きをうまく計算して音の広がりを作り出す美メロディーはますます磨きがかかっているし、なによりも彼の声のトーンがとても落ち着くんですよね(仕事中にエンドレスリピートで聞けます)。

せっかく”エモ”という単語に注目が集まっているので、これを機に音楽のエモも盛り上がって欲しいですよね。

Moment Joon「Passport & Garcon」

3月13日リリース。韓国人として生まれながらも日本に安心感を持ち、それゆえ日本を精神的な母国として自らを“移民ラッパー”と名乗るMoment Joon。そんな移民である彼の目を通してこそ見える日本社会に潜む違和感を聴く者の目の前に炙り出す素晴らしくも重い作品です。

1曲目「KIX / Limo」のタイトルにあるKIXとは関西国際空港の略称。すなわちこのアルバムはMoment Joonが日本に”帰国”して入国審査を受けるところから始まります。曲中で登場する入国審査のやりとりから既に“帰国”と“出国”を文字通り押しつけられる様に心臓を掴まれるような気持ちになります。

アルバム全編を通してMoment Joonが直面している差別や苦難を時に厳しい言葉で表現されているわけですが、彼がこの作品で提示したいのは衝突ではなく人種や性別といった衣を脱ぎ捨てて人間同士のコミュニケーションをしたいという“繋がり”なのではないでしょうか。

2020年はBlack Lives Matter問題をはじめ世界中で人種や性別に関する差別について向き合わなければならない状況が続く中、この国には未だ『日本に差別はない』と言い張る人たちがいることに辟易させられ気持ちを掻き乱された年でした。それでもコミュニケーションを止めないことが世の中が変わるための唯一の方法だとこのアルバムが教えてくれているような気がします。

Phoebe Bridgers「Punisher」

6月18日リリース。アメリカ・LAのSSWの2noアルバム。元々は毎年年末に音楽好きの友人たちと行なっている忘年会内で実施しているCD交換会で2017年の1枚として1stを紹介していて出会ったアーティストです。

全身に髑髏のライダースーツを纏い歌われる楽曲は愛情に依存する自分に悩む姿や悩み苦しむ誰かを助けてあげたいと必死に望む姿、孤独や死と向き合う姿など人間としての生々しさや泥臭さに溢れています。ただ、その生々しさや泥臭さは楽曲を聴く僕らに恐怖を与えるでもなく、むしろ人間らしい彼女に対する愛情の気持ちすら持たせてくれるのです。

SACOYANS「Yomosue」

9月16日リリース。東京出身福岡在住、宅録シンガーとして10年代前半から活躍していたSACOYANがミュージシャン仲間に声をかけて2019年に結成されたというSACOYANSの1stアルバム。

僕の中で30代に入ってからの音楽的ライフワークのひとつとして、仕事で縁ができた“福岡音楽シーンのおっかけ”があります(リンク先のようなプレイリスト更新も担当)。ある時、福岡の友達、プレイリストレーベル・PLUTOの仲間、Twitterの音楽つながりフォロワーの3人から同時に勧められて出会ったのがこのSACOYANS。

メンバーが全員10年以上のキャリアを持っているため演奏スキルはバッチリなわけですが、90年代のオルタナやシューゲイザーを感じさせる轟音、「音楽の天才」「偉大なお告げ」「食卓の間」などタイトルからして惹かれる独特の世界観に完全に心を掴まれてしまいました。

COVID-19がもう少し落ち着き、再び福岡出張の夜にライブハウスに行ける日がくれば真っ先にライブを見に行きたいです。

The 1975「Notes On A Conditional Form」

5月22日リリース。現在世界最高のロックバンドのひとつといっても過言ではないTHE 1975、音楽ラヴァー待望の5thアルバム。

このアルバムのレビューや評価についてはネットの海にそれはもうたくさん素晴らしいものが溢れているので僕からは割愛するのですが、4月に生まれた娘と出産を終えた妻が実家から帰宅して3人(+猫2匹)で新生活を始めたころ、自宅のリビングでずっとかけていた思い出のアルバムだったりします。

小さい頃に聞いた音楽はずっと残るという話をどこかで聞いたことがありますが、8ヶ月になった今でも娘に「Guys」「Me & You Together Song」「Frail State Of Mind」あたりを聴かせるとニコッとするんですよね。そういう思い出が詰まっているという意味でも今年のマイベストアルバムのひとつです。

ラブリーサマーちゃん「THE THIRD SUMMER OF LOVE」

9月16日リリース。オルタナティブロックやガレージロック、ローファイサウンドへの愛情が詰まったラブリーサマーちゃんの5thアルバム。

60年代のヒッピームーブメントを「(First )Summer of Love」、80年代後半のアシッドハウスを中心にしたダンスミュージックの隆盛を「Second Summer of Love」とするなら今再びバンドサウンドを正面から取り上げたこのアルバムを自身の名前にもかけて「Third Summer of Love」と名付けているところから既に愛おしいです。

個人的には「アトレーユ」→「サンタクロースにお願い」というバラードテンポでしっとりと歌い上げる流れがお気に入りですが、全編を通して自分が高校生くらいの頃に何度もリピート再生をして聴いたUKロックのアルバムたちの雰囲気を感じさせる流れがとても好きです。

9月に日本でラブリーサマーちゃん、10月にイギリスでbeabadoobeeという世代が近い2人の女性ミュージシャンが海を隔てて同じ匂いのするアルバムを出してくれたという事実。

もちろん偶然かもしれませんが今年を取り巻いた様々な状況がなにか共通項を持った音楽的創作意欲を湧かせた可能性があったりするのかなぁ、なんて想像を巡らせたのが2020年の秋でした。

2.2020年マイベストアディショナル10枚

A.L.P.S「Les」

Dos Monos「Dos Siki」

eastern youth「2020」

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HAIM「Women In Music Pt.Ⅲ」

iri「Sparkle」

kZm「DISTORTION」

Machine Gun Kelly「Ticket To My Downfall」

ROTH BART BARON「極彩色の祝祭」

Taylor Swift「folklore」

yonawo「明日は当然来ないでしょ」

* * * * *

冒頭にも書きましたが2020年は開始当初は誰もが予想できなかった事態が続いた1年でした。そのような中にあって音楽は鳴り続けて音楽を愛するすべての人たちの心を勇気づけてくれたことは間違いありません。

まだまだ先が見えない状況ではありますが、2021年も素晴らしい音楽作品たちにであることを期待して日々をしっかりと過ごしていきたいと思います。

そして願わくば、来年こそはライブハウスやフェスで音楽を身体に浴びられる日々が戻ってきますように・・・。


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