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生きるということ

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#小説

村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」解釈

村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」解釈

僕がどうしても、いるかホテルに行かなければならなかった理由。それは、そこからやり直さなければならなかったからだ。

つまり、静かにコツコツと、無駄遣いが最大の美徳とされる高度資本主義社会において、せっせと雪かきをしながら溜め込んできた暫定的で便宜的ながらくたを全て放り出してでも、もう一度人生の行き止まりに戻り、また一歩前に足を踏み出し、心を取り戻し、踊らなければならなかったからである。

ダンスダ

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太宰治 「斜陽」

太宰治 「斜陽」

「革命」というものが、チンプンカンプンで、ちっとも腑に落ちなかった。

だけど、今わかった。

革命とは「愛の結晶」であり、「死と再生」、あるいは「終焉と再興」だったのだ。

前半戦、呑気な貴族の優雅な暮らしぶりの描写ばかり続き(いえ、たまには災いのモチーフとして描かれた蛇が登場し、刻一刻と悲劇さを増して行ったけれど)、なんだか飽き飽きしてきたなあ、とあくびが出そうになるところで、突然物語の本編が

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文学 「人間失格」

文学 「人間失格」

驚いた。

太宰治は、今まで「走れメロス」ぐらいしか読んだことはなく、その奇怪なストーリーにはほとほと嫌気が刺してしまい、ただの暑苦しい男、ぐらいの印象しか残っていなかった。

それが、どうだ。
初めて、人間失格を読んでいるのだが、なんと村上作品の主人公に似たものか。

これは、手記のようなものだろうか。
太宰の語る「恥の多い人生」の、馴れ初めを語ったものであり、同時に自分の生涯の言い訳をまるごと

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「羊をめぐる冒険」 / 村上春樹 解釈

「羊をめぐる冒険」 / 村上春樹 解釈

羊3部作の最終作。
この物語において、”羊”が人間の中に巣食う悪しき”欲”であることは、疑いようも無い明白な事実だ。

“欲”ではなく”根源的な悪”であるとする解釈も数多く見受けられるが、私はあえてここで”欲”であると定義したい。

なぜかというと、現実世界において羊はとても繊細で臆病な生き物であり、ある意味弱さの象徴でもあるからだ。

その羊が、わざわざ人間に憑依してまで「完全にアナーキーな観念

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一番星の反対

一番星の反対

曙の空に
三日月と並んで
美しく輝く
一つの星があった

名は何というのだろうか

いちばん最初に光る星は
一番星

では
いちばん最後に光る星は
何というのだろうか

何番なのだろうか

何番だっていいのだろうか

無数に存在するうちの
一つに過ぎない存在であるなら
何だっていいのだろうか

気にも留めないのだろう

ときどき思う
私たちはどうにも
一番を目指した

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