3. 肉のうま味は本当に閉じ込められるのか? 問題

料理番組やレシピ本を見ていると、「ここで肉の表面を焼いてうま味を閉じ込めます」みたいな表現がありますよね。聞いたことありませんか? あれは、間違いです。なぜ、長い間、多くの人が間違ったままでいるんだろう? と不思議でした。僕も昔は、カレーに使う肉を鍋とは別のフライパンでよく炒めたり焼いたりしてました。表面全体がこんがりしてくると、「よしよしこれで表面がかたまったから、肉のうま味は中に封じ込められたぞ」と安心し、鍋に移して煮込んでいました。

ところが、あるときから、「?」と思うようになったんです。煮込んでいる鍋の中をよく観察していると、どうやら肉から何かしらのおいしそうなエキスが抽出されている気配がある。あれ? さっき封じ込めたはずの肉汁が出ているんじゃないか? 疑い深い僕は、何度も繰り返しやりました。フライパンで焼いた肉を菜箸でギュッと押してみる。すると、こんがり焼かれた肉の表面から見事に肉汁がにじみ出てきます。全く閉じ込められてはいないんですね。

でも、肉は表面をこんがり焼いたほうが煮込んだ時にカレーがうまくなる。なぜか。理由は、肉の表面にメイラード反応が起こっているんですね。メイラード反応については、僕はまだまだ研究中です。「メイラード反応はカレーをどのくらいおいしくするのか? 問題」については(笑)、いつか、どこかで発表します。ともかく、生の肉の状態にはなかったおいしさを肉の表面を使って生み出しているんですね。実は玉ねぎ炒めもこれと同じ考え方が適用できるのですが、長くなるのでやめます。

「うま味を閉じ込める」という、なんだかすごく効き目のありそうなこの表現は間違って使われていたんだ、というのが僕の結論。これについては、自著「カレーの教科書」の中で、辻調理師専門学校のフレンチの先生をインタビューし、確認したことがあります。「間違いですよ」とあっさりとしたお答えを頂きました。「ですよね、ですよね」と。いずれにしても、カレーに使う肉は、面倒でなければ、表面は焼いてください。カレーがおいしくなります。

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