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38. 辛みを強めたほうがカレーはおいしくなるのか? 問題

辛いカレーはおいしい。僕はそう思います。ただ、限度がある。僕はそれほど辛みに強い方ではないため、辛すぎるカレーは食べられません。辛みというのは習慣的に摂取していればある程度は慣れてくるものですから、訓練すれば今よりはもっと辛い物も好きになりそうです。実際、高校時代は自分史上最も辛みに強い時代でした。地元のカレー店に仲間と一緒に行って、誰も食べられないような辛いカレーを食べては得意になっていたくらいです。しかもエスカレートするから厄介です。もっと辛く、もっと辛く……、と際限なく求めてしまいます。

辛みは、「辛味」と書くこともありますが、味覚ではありません。味覚とは、舌の上にある味蕾で感じるもので、「甘味・苦味・酸味・塩味」が基本4味です。それに加えて「うま味」が第5の味覚と呼ばれています。辛みは通称、「痛覚」と呼ばれ、叩かれたときに「痛い!」という感覚と同じです。簡単にいえば、味蕾とは別のルートで脳の神経を刺激するものだと言われているんです。

辛いものをおいしいと感じるには、“アドレナリン”と“エンドルフィン”という二つの物質が作用しています。たとえばレッドチリを食べるとまずアドレナリンが体内に分泌されます。すると血糖値が上昇し、高揚感を得られる。これが心地よいんですが、実際には、「痛い」という感覚に近いから、そこでエンドルフィンが分泌されて痛みを和らげてくれる。結果、爽快感が得られるため、「おいしい」につながります。

辛い物を食べた時においしいと感じるのは、舌の上で感じている味覚とは別の作用が働いているんだと認識していました。だから、カレー店で「うちのカレーはある程度、辛い方がおいしく味わえます」というコメントを聞くと、確かにそうかもしれないけれど、それは味覚と痛覚がゴッチャになってるよなぁ、と思ったりしていました。辛い物が苦手な人には切ない話ですしね。

先週末、料理教室で札幌に行きました。3日間、会って話をしたいシェフがたくさんいるため、スープカレーだけを食べ続けました。スープカレー店は、「辛さの段階を選べる」というスタイルが定番化しています。これは、僕の認識では、お客さんのためのサービスだと思っています。辛いのが好きな人も苦手な人もいる。選べることの楽しさや喜びは、トッピングに通じます。ただ、店主は「このカレーはこの辛さで食べてほしい」があるはずなんですね。5番の辛さが最適だと思っているカレーを1番にして辛みを抜くのも10番にして辛みを加えるのもサービスとしてはありだけど、作り手としては複雑なんじゃないかなぁ、と。

それはそうと、札幌にある「cowluck」というスープカレー店の植田シェフと辛みについて話しました。すると、植田さんは、こう言うんです。

「レッドチリには甘味がある。増やせば増やすほど甘味も増えるんです」

なるほど、それは考えたことはありませんでした。たしかにパプリカなんかが甘いことや甘長唐辛子みたいなものがあること、生の唐辛子を真っ黒に焼いて皮をむいて食べるような方法があることなどを考えればチリには甘味がある。辛みを増やすと甘味も増える。不思議ですね。厳しい人ほど愛がある、みたいな(笑)。でも、辛みが邪魔して甘味を感じにくいんでしょう。レッドチリの甘味、その甘味が加わることによるおいしさは、辛みに耐えた人だけが感じられる特権なのかもしれません。成長できるのは厳しい修行に耐えた人だけの特権、みたいな。しつこいですね、この例え……。むやみに辛いカレーを食べたがる行為が不可解でしたが、少し納得できたような気もします。

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