丸鶏

118.チキンカレーは丸鶏から作るのがベストなのか? 問題

新刊が出たのに既刊にまつわるお話。
去年、『わたしだけのおいしいカレーを作るために』という本を出した。1冊で1レシピだけをエッセイ形式でじっくり紹介する内容だ。そこで僕が、「僕だけのおいしいカレー」として紹介したのは、丸鶏をさばいて作るカレーだった。それが一番好きだからだ。自分でさばけばすべての部位を余すところなく使える。チキンカレーを作りたくなる衝動は、丸鶏を見つけたときだと書いた。それは今も変わらない。
ただ、ひとつだけ自分に対して文句があった。

部位ごとに火の入り方が違うのにひとつのカレーにしてしまっていいの?

本の中では、「盛り付けた器ごとに部位の違うチキンが楽しめるのもいい」くらいのことで、そこはさらっと済ませていた。そういう部分も確かにある。けれど、同じタイミングで鍋に加えて同じ温度と時間で加熱したら、当然、部位ごとに味わいや食感に差が出てしまう。そのレシピでは最も火入れに時間がかかる骨付き鶏もも肉に合わせて加熱方法と時間を設定したから、当然、他の部位は“火が入りすぎ”になる。それも含めて楽しみましょう、だったわけだ。

つい先日、パリで今年の新刊『スパイスカレーを作る』の出版記念パーティを行った。「なぜパリで?」と10人中9人が疑問を抱く点については、「新刊のパーティをパリでやる意味はあるのか? 問題」として、書いてもいいくらいだが、ちょっとメモしただけで5000文字以上になってしまったから、まあ、何かの機会があったらどこかでアウトプットしようと思う。
ともかく、このパーティで僕は、マルシェに行き、パリに長く住む友人が信用している農家から丸鶏(メス)を4羽買って、30人分のカレーを作った。このときに、“自分に対する文句”にひとまずの回答を出してみようと思ったのだ。すなわち、鶏をさばき、部位ごとに調理方法を変えた。

・ ガラ(首つき)……スープ用としてくず野菜と煮込む
・ 手羽先(の先)……スープ用としてくず野菜と煮込む
・ 手羽中……表面を焼いてスープで短めに煮る
・ 手羽元……表面を焼いてスープで長めに煮る
・ 骨付き鶏モモ肉(関節から足先側)……斜め平行に切込みを2か所入れてスープで長く煮る
・ 骨付き鶏モモ肉(関節からモモ側)……骨を取り除き、皮面がこんがりするまで焼き、裏面も焼いて8割がた火を通し、粗熱を取ってひと口大に切り、カレーソースに混ぜ合わせ、少し煮る。
・ ムネ肉……皮面がこんがりするまで焼き、裏面はさっとだけ焼いて7割がた火を通し、粗熱を取ってひと口大に切り、カレーソースに混ぜ合わせ、少し煮る。
・ ささみ……小さめに切り、カレーソースの最後に加えてさっと煮る
・ せせり……小さめに切り、カレーソースの最後に加えてさっと煮る
・ 内臓……冷蔵庫へ(カレーに入れてもよかったが友人が別の日に調理して食べるそうだ)


ざっとこんな感じでカレーにした。本当は、モモ肉とムネ肉は、2時間以上前に塩を振っておきたかったけれど、仕込み場の問題でその余裕はなかった。ともかく、それぞれに最善と自分が思う処理とタイミング、加熱方法でカレーに加えた。正直言って、もともとの鶏肉自体が抜群にうまいため、その時点でカレーがおいしくなることは約束されているのだけれど、やはり、既刊で紹介したように同じタイミングで食わるよりはるかにおいしくなる。

さて、自分への文句については、一定の答えを出したものの、パリの調理場では、作りながらすでに次の文句が生まれていた。最適なタイミングって、どの時間に来るお客さんに対して最適なの? 新刊パーティの設定時間は、12時30分~16時。この間に30人ほどがランダムに来ることになる。12時30分に来る人にはベストな状態で出せても、1時間後に来る人にはイメージと違うカレーになるし、2時間後に来る人には少々残念な状態で提供することになってしまう。このことを完璧に解決する方法はきっとないのだろうなぁ……。

たとえばカレー店では、諸事情あって、こんなに手間のかかることをやるわけにはいかないため、具にする部位を統一して、ある程度ばらばらのタイミングに来るお客さんに対して同じレベルの仕上がりを提供するべく下準備や仕上げをコントロールしているところもある(だからこそ大変だし、すごいなと思う)。ただやっぱり丸鶏で作ったほうがカレーはおいしいし、楽しいから、自宅で作る人、イベントなどで仕込みに時間をかけられる人は、ぜひおすすめしたい。

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