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133.粗挽きスパイスはカレーの味をどう変えるのか? 問題

レシピを書くときに使うドライスパイスは、「ホールスパイス」と「パウダースパイス」の②種類に分けることにしている。ゴールデンルール上は、ホールスパイスを“はじめのスパイス”として使い、パウダースパイスを“中心のスパイス”として使う。
投入タイミングはこれに限らないが、レシピを書くときに手順がやたらと増えたりややこしくなると参考にして作ってくれる人に不親切だから、便宜的にわかりやすいほうを選ぶことにしている。つまり、僕が実際にカレーを作るときとはちょっと違う。

スパイスは挽きたての香りがすばらしい。だから、できれば、パウダースパイス(粉状に挽いたスパイス)は、使うときにホールスパイス(丸のままのスパイス)を自分で挽いて使いたい。電動ミルにホールスパイスを入れて挽く。ボウルの上にざるを置き、そこへザーッと引いたスパイスを加えてふるいにかける。すると、ボウルには完全なパウダー状のスパイスができあがる。そして、ざるの上には粉になり切れなかったスパイスが残る。粗挽きスパイスだ。
この粗挽きスパイスを僕は気に入っていて、ときどきカレーに使うことにしている。ホールでもパウダーでもない状態のこのスパイスは、力強い香りと共にユニークな口当たりを生んでくれるのだ。この粗挽きスパイスのカレーを体験してもらいたい。

僕の主催するカレーの学校の懇親会があり、60人分のカレーを作る機会があった。7種類のスパイスをブレンドしたチキンカレーのレシピを考える。コリアンダー、クミン、カルダモン、レッドチリ、ブラックペッパー、フェンネル、フェヌグリーク。すべてホールの状態から挽いてざるに残った粗挽きを別に取り分けた。ターメリックやパプリカは粗挽きにするのが大変なので割愛した。
30人分ずつ2パターンのカレーを作る。ひとつは、パウダースパイスのみカレー、もうひとつは粗挽きスパイスのみのカレーである。使用するスパイスの種類と分量は同じ、その他の材料もプロセスも全く同じ。スパイスを加えるタイミングは、ゴールデンルール上でいえば、4番、中心のスパイスの部分である。にんにく、しょうが、玉ねぎ、トマトを炒めた後、水分を加える前の段階。ただ、スパイスの挽き具合いだけが違うのだ。

できあがったカレーを60人で食べ、それぞれ気に入ったほうのカレーに投票する。結果、それほど差は出なかったが、粗挽きカレーの方が人気があった。“粗挽きスパイス”カレーの感想としては、予想通り、「男っぽくて香りが強い印象のカレー」というものが多かった。
もし、スパイスでカレーを作る人が、ホールスパイスを自分で挽く行為を面倒くさがらないのなら、もし、自分で挽くときに途中で止めてざるで振るう意識があるのなら、出来上がるカレーのバリエーションは一気に増えるのだから、オススメしたい。“ホールスパイス”と“パウダースパイス”に加えて“粗挽きスパイス”という選択肢が増えるのだから。

そして、これを一度でも経験した人は、すぐに気がつくだろう。
便宜上、ゴールデンルールではホールスパイスが「1番のはめのスパイス」、パウダースパイスが「4番の中心のスパイス」というタイミングで入れることになっているが、「粗挽きスパイス」の場合、1番から4番の間のどこかのタイミングで加えるのがセオリーとなる。1番の終わりでもいいし、2番でも3番でもいいし、4番のはじめでもいい。意図的にもっと後ろにしたっていい。
それから、形状にも無数の段階があることに気がつくはず。丸のまま(ホール)のスパイスを完全につぶすと粉状(パウダー)のスパイスになる。要するにどこまでつぶすかによって粗挽きの形状も変わる。さらに、7種のスパイスを使うなら、3種を粗挽き、4種をパウダーにしてもいいし、1種をホール、1種を粗挽き、残りをパウダーにしてもいい。組合せは果てしない。要するにスパイスでカレーを作るという行為には永遠に終わりはやってこないのだ。

ちなみに粗挽きは、英語で「Coarse grinding」というらしい。コースグライディングスパイス、では長いしわかりにくい。何かいいネーミングがないか、探したいと思う。見つかるまでは、粗挽きスパイスとしておこうかな。

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