見出し画像

37. サグカレーのほうれん草は具なのかソースなのか? 問題

インド料理に“サグ”と呼ばれる緑色のカレーがあります。あの緑はソースなんでしょうか? 具なんでしょうか? 日本ではほうれん草のカレーとして知られているものですが、インドでは、特にサルソンカサグという料理がメジャーなパンジャーブ州では、からし菜のカレーとして作られています。ほうれん草も入りますが、からし菜がメイン。そこに各種ハーブなどの青菜がどっさり入って作られることは、「サグカレーのほうれん草はピューレかペーストか? 問題」のときにも書きました。

今回のテーマは青菜に何を使うのかではなく、その青菜は何者なのか、です。僕がロンドンのモダンインディアンレストランで、パンジャーブ出身のシェフから教わったサグには、具は何も入っていませんでした。作るのを見ていて、食べてみて、ハッとしたんです。だって、サグ(青菜)なんですからサグが具(主役)なんですね。キーマ(挽き肉)と言ったら、挽き肉はソースではなく具です。それと同じ。サグ、は具である青菜を味わうカレーなんです。だから様々な青菜のフレーバーが一度に楽しめておいしい。

緑色のペーストをマキキロティというトウモロコシの粉で作ったパンにペタペタと塗って食べます。そのカレーにはチキンもマトンもジャガイモも入っていません。日本のインド料理店で人気なのは、サグパニール。ほうれん草とカッテージチーズのカレーです。あれはあれでうまい。この場合、青菜はソースで具がチーズとなります。インドでも青菜をソースにしてサグチキンとかサグアルー(ジャガイモ)とか、そういうカレーを食べたような記憶があります。それはそれで存在する。

そんなサグを先日、イベントで作りました。あれを作るときは仕込みの時にいつも一抹の虚しさを感じます。両手で抱えきれないほどの大量の青菜類が、煮たら1/10程度のサイズになってしまう。あんなにたくさんあったのに……。もちろん、グリーンチリやらディルやらミントやらをたくさん入れて作ります。すると日本では食べられないサグになる。ロンドンで教えてもらったレシピをベースにしているから具は入れません。実際に作ってみるとあそこにチキンやマトンを入れようという意欲は沸きません。青菜の調理だけでお腹いっぱい。

原価がかかるし手間もかかる。仕上がりはちょびっと。メインの具は別で用意しなきゃならない。お店をやってる人だったら絶対に嫌がるでしょうね(笑)。主役であるはずの青菜が脇役に回る。なんて贅沢な料理なんだろう、と思うかもしれませんが、実際に僕がかつて働いていたインド料理店もそうでしたが、冷凍のほうれん草ペースト100%で他の青菜を使わず簡易的にサグのソースを作っている店が多いので、メニューとしては成立するんだと思います。

フレッシュな青菜を何種類も一度に具として味わうカレー、ほうれん草の簡易的なソースでチキンやパニールなどの具を味わうカレー。これがカレーじゃなかったら、「豊かさとはなにか」みたいな話になりそうです(笑)。ま、どっちもおいしいんですよね~。どっちも食べたいんですよね~。欲深いですね~。困ったもんですね~。

★毎月届く本格カレーのレシピ付きスパイスセット、AIR SPICEはこちらから。http://www.airspice.jp/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?