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記憶の中のneverland

幼い頃よく見てた、家族ビデオ。
小さい頃の記憶というのは、主観的な記憶もあるけど、家族ビデオに映された他の誰かの視点で切り取られた記憶、「ビデオ記憶」の方が僕は鮮明に残っている。

泣いている妹をあやそうとするけど全然泣き止まない様子とか、広い公園の丘の上で喉が渇いて父親にずっとジュースをねだっている様子とか、たぶん母親が撮映した。「ビデオ記憶」ばかりが残っている。

10月にリリースしたアルバム「neverland」は、そんな自分の幼少期に焦点を当てた作品になった。

だけど、歌にしようとすると、主観的な記憶の方が呼び起こされてくるようだ。

お風呂のフタのフチに人差し指を這わせて「シティシティシティ、ツデーツデーツデー」と歌ってた記憶(5曲目「シティとツデー」)。
動物園で好きなカバを眺めてた記憶(13曲目「カバの尻尾」)。

今日、ばあちゃんに会ってきました。介護士の方が耳元でお孫さんが来なさったよ。と言っていた。

目を閉じていたけど「笑った」と「りんごの唄」、「津軽海峡冬景色」、「シティとツデー」を歌った。
そしたら目を開いて聴いてくれていた。

息を深く吸って何かを話しているように見えた。

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たとえ老いていろんなことが出来ない状態になったとしても、やりたいことや好きなことはきっと胸に秘めている。僕も何十年後か同じような状態になったとしても、きっとそうなんだろう。

ばあちゃんは演歌を歌うのが好きだったから、それが聴けたらきっと嬉しいんじゃないか。

ばあちゃん家には演歌のカセットテープやCDがいっぱいあった。ラジカセとそれらを持って行って流してみた。

ばあちゃんは今までにも増して目をパッチリ見開いて、口を動かし始めた。
歌っているようだった。声は出てないけど。

歌い終わると僕らは拍手した。
何曲も歌って拍手して、流石にばあちゃんも疲れたようで、目を閉じてしまった。

また来るねと言って、部屋を出るとき、父親が来てバトンタッチした。
「ばあちゃん、演歌を歌ってたよ」と話すと驚いてた。

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ばあちゃんも小さい頃のことや若い頃のこと思い出しているかな。
記憶の中のneverland。

ばあちゃんの好きな演歌が何なのか僕はよく知らない。流した演歌も本当に好きな曲だったのかはわからない。
妻が言った。「好きな曲かけるなら何の曲がいい?」

僕はもしかすると、自分の曲を流してほしいかも。たぶん、自分の記憶が、人生が流れ出すはずだから。

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