少年社中「モマの火星探検記」、そして「繋がっていく“物語”と私」について

――血肉は物語でできている。
たぶんきっと、そういうことなんだと思った。


2020年の観劇はじめは、少年社中「モマの火星探検記」だった。

この作品は2012年に初演、2017年に再演されていて、今回が3度目の上演なのだが、私にとってはこれが初めての観劇だった。
観劇して真っ先に、ああこれは再々演されるべくしてされた作品だと思った。それほど素晴らしい、胸を打つ物語を見せていただいた。

まずなんといっても、演者さま方の演技が絶品だった……!彼らの抜群の演技によって、限られた劇場の中に確かに広い広い宇宙が見えた。脚本・演出の毛利亘宏さんは、叙情的な語り口が大好きな脚本家さんなのだけど、その毛利さんの紡ぐ世界を演者の皆さまがとても魅力的に表していらっしゃった。
特に、主演の矢崎広さんと生駒里奈さんが本当に素敵だった……繊細に緻密に伝えられる感情表現が素晴らしかった。そのほかにも、松村龍之介くんの頼もしい安定感、鎌苅健太さんの抑えた熱演(鎌苅さんのシーンでボロボロ泣いた)、山崎大輝くんのひたむきさ、井俣太良さんのどっしりした存在感、どこからどう見ても無邪気な中学生にしか見えなかった赤澤燈くん、見事すぎて途中まで気づかなかった鈴木勝吾さん……挙げていけばキリがない。
「演じることには力がある」「人間には無限の想像力がある」そういう舞台演劇の原点の良さを、あらためて感じさせていただけた気がする。


『モマの火星探検記』
この物語は、「モマの物語」と「ユーリの物語」という二つの物語が交錯して進んでゆく。
父と語り合った夢を追って宇宙飛行士となり、火星に向かう青年「モマ」。父の遺した本を頼りにロケットを飛ばそうとする少女「ユーリ」。年齢も性別も生きる場所も違う二人の物語は、いつしか絡み合い、繋がってゆく。モマの父の憧れをモマが受け継ぎ、モマの願いはユーリに届く。

劇中、心に残った台詞がある。

「全部、繋がってるんだ……!」

生命はそれぞれの物語を紡いでゆく。そしてその物語は、"次”へと繋がってゆく。受け継がれてゆく。誰かの物語と誰かの物語は響き合って未来へと向かう。

それはどんなに素敵なことだろう。

私たちが憧れや願いを持つことがどんなに素敵かということ。過去から未来へ生命が繋がっていくというのがどんなに凄いかということ。そういうことをてらいなく真っすぐに伝えてくれる作品、それが「モマの火星探検記」だった。

暖かくて切なくて、心のやわらかいところにそっと入ってくるような。2020年の観劇はじめが、そんな「モマの火星探検記」で本当に良かったと思う。


 ※※※

私が観劇した日はちょうどアフタートーク開催日で、演出の毛利さんと竹内尚文さん・赤澤燈くん・鈴木勝吾さん、そしてゲストに有澤樟太郎くんを迎えて楽しいトークを聞かせていただいた。
その中で、毛利さんがふと投げかけた問いがあった。

『あなたが演劇に目覚めた瞬間はなんですか?』


いきなり私の話になって恐縮だが、私も演劇が好きだ。大好きだ。演じる方ではなく観る方だけど、やっぱり『演劇に目覚めた瞬間』はあった。

初めて自分でチケットを買った作品は、奇しくも同じ毛利さんが演出だった「TIGER&BUNNY THE LIVE」。原作ファンだからというそれだけで、舞台のなんたるかも、チケットの倍率も知らずに申し込んで、ビギナーズラックで千秋楽のど真ん中の席に当たった。目の前で輝くキャラクターたちに、迫力たっぷりの生アクションに夢中になって、最後。
カーテンコールで主題歌「オリオンをなぞる」をみんなで歌う、という趣向があった。キャストも観客もみんなで合唱して(本当に楽しかった!)、キャストが最後のお辞儀をして、とうとう袖にはけた。
BGMもフェードアウトして舞台の照明も落とされた真っ暗な中で、それでも観客たちはアカペラで「オリオンをなぞる」を歌い続けた。一緒に声を合わせて歌いながら、体中に鳥肌が立ったのがわかった。
間違いなくあの時、会場にいたすべての人の心は一つになっていた。

それからしばらくして「舞台 弱虫ペダル」に出会った所から私の観劇ライフは本格的に始まるのだが、あの瞬間はずっと心の奥深く刻み込まれている。
たぶん一生、忘れない。


そういう『心が震えた瞬間』を、いくつも持っている。

「舞台 戦国BASARA3宴」の幕が下りたあと、茫然と座り込んだまま立ち上がれなかった、旧日本青年館の二階席。

生きているうちに生で聞ける日が来るなんて思っていなくてペンライトを握りしめながら崩れ落ちた、「テニミュ DREAM LIVE 2018」の On My Way。

舞台だけではない。

「TIGER&BUNNY」のオーケストラコンサートが終わった後、パシフィコ横浜のロビーで思わず友人と抱き合ったこと。

推しの俳優さんのイベントに行った後、どうしても真っすぐ家に帰れなくて意味もなくツタヤの中を歩き回っていた30分。

握りしめた掌を汗でドロドロにしながら観た「スター・ウォーズ」。

終わりたくなくて、残りのページを何度も何度も数えながら読んだ「図書館戦争」。

中三の夏休み、「模倣犯」の最後のページを閉じて初めて我に返って気づいた、真っ赤になった頬の火照りとうだるような暑さ。

「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」を読み終えたあと、塾へ向かいながら夜空を見上げて少しだけ泣いたこと。

それからそれから。

――私はそういうもので出来ている。

私と関わってくれた人や、私が手に取った本や観た舞台、映画。これまで触れてきたたくさんの“物語たち”が、今の私をつくっている。私の中には、私が心から愛するたくさんの物語たちが息づいている。

そしていつか同じように、“私の物語”も誰かの中に息づいていくのかもしれない。

それはなんて素敵なことなんだろう!


「モマの火星探検記」は、そういう心の奥の原点を思い出させてくれた作品だった。


 ※※※

今日から『私をかたちづくる物語』の中に、この「モマの火星探検記」も加わったんだ。それをとっても、嬉しく思う。

東京では終わってしまったけれど、公演はこれから大阪・福岡と続いていく。どうか誰一人欠けることなく最後まで物語を紡いでいけますように。たくさんの人の中に、この物語が息づいていきますように。


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