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お金ではないもの

昔やっていたMMOで知り合ったフィリピン人がいた。

キャラクターに StrikeFreed0m と名付けていたので

「ガンダム好きなのか?」

「お前はジャパニーズか?」

という会話から知り合った。

我々はどんどんどんどん自己開示をしていって、仲良くなった。

彼は当時20歳で学生。

将来の夢は日本で働くことだった。

不義理な私に反して、彼は律儀にメッセージを送ってきた。

「どうだい、ブラザー?」

「最近はどうしてる?」

「FBで見た君の娘のナナは本当に可愛いな」

「メリークリスマス、ブラザー」

何の見返りも求めていない、純粋なメッセージだった。

私はいつしか彼を日本に招くことを画策していた。

少しのお金と、彼自身の努力で

夢である日本で働くことを実現できたらと思った。

私はおこがましくも

「一人のフィリピン人の男の人生を掬い上げる」という

思い上がった夢を見ていたのかもしれない。

しかし現実はそう甘くはなく、

私は「与える者」とはならずに

彼も学業を修めることなく、地元の工場で働き始めた。

5年前に使い古しのiPhone3GSを彼に贈ったら、

現地で中古品が買えるほどの関税を取られたと後から聞いた。

私は申し訳ない気持ちだったが、彼は喜んでくれた。

「ブラザー、お金ではないんだよ」

お金があれば、彼を日本に招聘することもできたのに。

「ブラザー、Covidで僕の仕事も厳しい状況だけどなんとかやってるよ」

常に明るい近況報告を送ってくる。

なんだよ。。

君を日本に呼び寄せるという

野望って一体なんだったんだろ。

今でも付かず離れず、我々は付き合ってきたけれど

一度も彼は日本に来ることもないまま、

一度も彼の住む、バギオに行くこともないまま。

明日で48歳になる。

Haha, advance happy birthday!

「ハハ、1日早いけどハッピーバースデー!」

彼の言葉に今日も掬われ、いや救われたのは私だった。

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