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【全部ネタばれ】年間500人の心を開いてきたプロ・インタビュアーがインタビューされて、インタビューのテクニックをすべて語り尽くした超ロング・インタビュー記事(おまけ02)

テーマ:まだまだしゃべり足りないことがあった!(PART02)

年間500人以上対応のプロ・インタビュアーとして、数多くの経営者、文化人、タレント、学者、医療従事者、アスリート、専門家、ビジネスパーソンの話を深掘ってきた伊藤秋廣(株式会社エーアイプロダクション代表)が、初対面の人の心をわずか数分で開き、気持ちよく論理的に話を引き出すテクニックを、すべて大放出いたします。(聞き手:近藤由美)

僕らに哲学の良し悪しを判断する資格などない

近藤さん(以下敬称略):
前回の記事では、やっぱり聞き手としての謙虚さって大事だなって思いました。履き違えやすいというか、ビジネスインタビュアーって、ジャーナリストでも記者でも批評家でもないっていう、自分のポジションを正しく置かないと、“私はこういう考え方です”」とか“この考えのほうが優れている”とかいう思いが湧いてしまいそう。けれど、あくまで私たちは黒子であり代弁者なんですもんね。

伊藤:
おっしゃる通り。さすが近藤さん、いいこと言いますね!その人から直接、お金をもらってはいないかもしれないけど、出処はその方から出るというか、そういうビジネス構造はちゃんと理解しておかないとですからね。

近藤:
自分の在り方をちゃんと理解しないとってことですね。駆け出しの人とか、プライドを間違って持っちゃうと、あらぬ方向にいっちゃうのかな、と思いました。

伊藤:
とはいえ、相手が客だからと全部言いなりになれば良いかっていうと、そうでもなくて。ちゃんと意見はしたいですよね。意見しながら、褒める。解説しながら、褒める、みたいな。

近藤:
それは論理の棚卸しと一緒に褒めている?

伊藤
そうです、そうです。近藤さん、僕の話を正しく理解してくださって、すごくうれしいです。棚卸しをするタイミングで、解説を加えて褒めながらちょっと足りないなと思った時に、「この会社は一人ひとりが自発的に働いていることで、魅力を感じているんじゃないですか?」って肯定的な解説と質問をミックスしたワードを投げてあげると、「そうそう!」となる。

近藤:
そこにプラスして膨らませる? この前のお話しの中に出てきた語尾の「思った」のか「決心した」のか「確信した」のかっていう違いを上手く引き出して、確認しながら聞いていく、ということですね?

伊藤:
その時、置き換える言葉を素敵にしてあげたり、いい言葉にすると、すごく喜ばれる。詩的な質問をするんですよ。「私、そんなこと言ったかしら?」「言ったかも!」ってなる。そこも全肯定ですね。そうすると、持論を展開してくれるから。

僕らは、一般論の話しを聞きたいわけじゃないじゃないですか。その人にしかない哲学みたいなリアルな話しを聞きたいし。考えてみたら、その人の哲学って良いも悪いもないじゃないですか。その人はそう思っているんだから。そもそも、僕らがその人の考えを否定する資格ってまったくないんだなっていうか。その哲学を聞ければ、僕らの仕事としてはOK!

その哲学の良し悪しを判断するなんてことができる人なんて、そもそも世の中にはいません。そんな偉そうな人はいるそうかもしれないけれど、少なくとも僕にはそんなそんな資格はない。良いも悪いもないっすよ、人それぞれですから。

人は人からしか学ばない

近藤:
確かに、人の哲学の良し悪しなんて、私たちが判断できるものではないですよね。

伊藤:
そうなんです。もうひとつ言うと、人は人からしか学びませんよね。良いことも悪いことも人から学ぶ。本を読むより、身に染み着きやすいっすよね。僕はこの仕事を通じて、人の生き方や考え方、人の挙動を学んでいるんですよ、良いも悪いも、“こうなっちゃいけないな”とかも含めて、そういうモデルケースにたくさん触れている。前に数の論理について語りましたよね。数は力になります、この世の中では間違いなく。

僕は、医師の取材もたくさんするんですが、こんな話があって。医師、同じ症状、たとえば骨折でも、風邪でもいいんですけれど、本当は一人ひとり、症状が違うから実は一括りにできないんですね。医学的に分解すると、患部が違っていたり、その人の体質はこうだから、こういう症状が出るとか。アレルギーがあるからこう出るとか、一人ひとりの症状が違う。

だから、数を診た医師ほど症状から学んだ引き出しが多いから、推測ができるんですよ。診断も正しくなる。原因の核心に限りなく、素早く近づける。「この人、こういう状態だけど、もしかしたらここに問題があるんじゃないか?」とか「だけど、ここには問題はない。他のケースではこうだったから、ここに問題があるはずだ」って、そういうふうに診断できる、数が多いと。

それと同じだなと思うんですよ、インタビューの数って。数をこなすことは、経験を増やすことで、素早くその人の本質にアプローチできる。言いたいことの本質に近づける。近づける時間が早ければ早いほど、40分とか1時間のインタビューの質がかわってくる。本質がわからないまま過ごす60分と、あ、この人はこういう感じわかってから聞くと全然違う。数って重要ですよね。

答えがないから。病院の臨床もそうだけど、明確な答えがないから。数学と違って答えがないから。こうですって言い切れないから、答えがないというのは医療も、僕らがやっているインタビューも同じで、正解、その人の話しの正解、解があるという仕事じゃない。

アプローチしていけば必ず機械の故障原因がわかって、それを直せばOKって話しじゃないんですよ。答えがない仕事は、数を打っていくことで限りなく本質に近づいていけるっていう感覚です。
(次回に続く)

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