6000円の超全部乗せ。Donner Dobuds One レビュー[完全無線イヤホン]

今まで毎日のように使っていた完全無線イヤホン(以下TWS)、KZ SK10のバッテリーがくたばってきた。
購入当初の半分もバッテリーが持たなくなってきただろうか、流石に買い替えを検討しAmazonを見ていた所、おすすめ順のだいぶ下の方で気になるモデルを発見した。
6000円の比較的廉価な価格設定に20%offのクーポン、見知ったブランド名、そして明らかに価格に対して過剰積載なスペック。
Amazonレビュー欄以外にで国内の言及の一つも見付けられないそれは、気が付いた時にはカートから消えていた。
……注文履歴欄へと

という訳で、Amazonで目が合ってしまったTWS、Donner Dobuds Oneの簡易的なレビューとなります。
発売から日が浅いからか言及が非常に少なく、私が掘り起こしてやらねばという浅はかな使命感を抱いて書きました。
詳しくは後に書くが、兎に角このモデルはこのまま埋もれるには勿体ないイヤホンで、注目すべき要素がやたらめったらに多い。
Amazonの商品ページはこちら。

スペック

さて、このモデル、本当に国内で誰も注目していない
星だけのものを含めて30にも満たないAmazonレビューを除けば、Google検索でも日本語の言及は執筆時点では一つも見つからず、Twitter上でも大雑把に探す感じでは私以外誰もコイツの話をしていない。
エフェクターや楽器などの本格的な音楽用品を低価格で多数発売してきた実績のあるブランドでありながら、ここまで注目されないのは中々哀れである。

だがスペックを見れば一目で注目に値する事が分かる。
コーデック対応はSBC/AAC。ここはまあ普通、というか実際AACコーデックは非常に優秀なのでこれでいい。
連続動作時間はANCオフ8時間、ANCオン6時間(公称)。後述のドライバ構成が非常に電力消費量が増えやすいものの為、その点を思うとトップクラスに優秀と言えるだろう。
そして連続動作時間の書き方からも分かる通りアクティブノイズキャンセリング(以下ANC)、外音取り込みの両方に対応。5000円前後の価格帯であれば、ぶっちゃけこれだけでそのモデルの魅力や特徴として位置づけられていい要素であり、実際この価格帯のANC対応モデルはほぼ全てがそんなものだ。

……ただそれらの要素以上に兎に角、ドライバ構成がTWSとしては非常に個性的なのだ。
12mmのLCP(液晶ポリマー)ダイナミックドライバ(以下DD)にバランスドアーマチュアドライバ(以下BA)を組み合わせたハイブリッド構成は、有線機でも若干珍しいまである。
基本的にカナル型の無線機のDDは省電力化の為に6mmや7mmの比較的小口径のものが採用される事が多く、有線機であっても中華系ハイブリッドモデルを除けば8mm前後が平均的だ。中華系ハイブリッドモデルの有線機でも基本大きめで10mmであり、12mmはだいぶ珍しい。
そしてこのDDの直径は大きくなればなるほど低音を出しやすくなりゆがみにくくなるが、代償として消費電力量が増える。その上にBAまで乗せた贅沢構成で8時間連続動作、というのは中々素晴らしい動作時間だ。
そして振動板素材がLCPという点も嬉しい。近年搭載モデルが妙に増えている素材であり、かなりこの素材のモデルは音質的評価の高いものが多い。
ついでのように公式設定アプリが用意されている。ANC設定、イコライザー設定、どうやらファームウェア更新も可能らしい。さほど日本語が不自然だったり読みづらいという事もなく、素直に扱いやすいアプリに仕上がっている。
大口径かつハイブリッドのドライバ構成、ANC、公式設定アプリ、長いバッテリー、これらはどの要素も低価格モデルでは一つあるだけでそのモデルの売りになるような要素だ。それらを全て搭載したわがまま過剰積載仕様の百人乗っても大丈夫イヤホンDonner Dobuds Oneという訳である。

使用感

実際の使用感等々の話に入ろうと思う。
まず充電ケースは大分小さい。流石にEarpodsのような小さすぎるモデルと比べればそれなりに大きいが、落ち着いたマットな質感と形状も相まって見た目も取り回しも持ち歩きやすい。ポケットに入れても全くじゃまにならない存在感のないサイズで、本体表面の加工も同様の落ち着いたマットで外使いしやすい。
付属イヤーピースは初期状態でイヤホンに取り付けられているM、そしてXS,S,L,SLの合計5サイズが「ちょっといいイヤホンの付属イヤーピースがサイズ別に固定されてるアレ」で通じる人には通じそうな奴に固定された状態で同梱されている。袋の中から出したイヤーピースを「これは何サイズだろう……?」と考えながら凝視する時間が無いのは有り難い。
充電ケース内の空間は狭く、対応イヤーピースの自由度はあまり高くない為、基本的に付属品を使うことになるだろう。品質は十分だ。ただ、ステムの返し部分が大きい影響で、イヤーピースが非常に本体から外れにくいのは一長一短。耳の中にイヤーピースが残るリスクが無いのは有り難いが、交換時は気をつけて捻りながら少しづつ外さないと最悪千切れかねない。
装着感はこの手の所謂「うどん型」のカナル型TWSとしては標準的な、入口付近で浅く蓋をする形式。かなり多くのイヤホンで装着難を抱えやすい私でもかなり安定して装着できた。装着感はかなりおとなしい部類だろう。

接続安定性は普通。特に使っていて困ることはない。
タッチセンサの挙動は特筆すべきレベルで非常に良好。デザイン的にも指の感触でも範囲が非常に分かりやすく、感度レスポンス共に良好で非常に操作感が良い。タップする度に効果音が鳴るので、タッチ回数が何回検出されているかが分かりやすいのも有り難いポイントだ。割と今まで使ってきた中でもこの点は最優秀だと断言できるだろう。
アプリは起動時に接続の操作が必要な独特なタイプだが、よくイヤホンの接続を検出できなくなる間抜けなアプリが存在する事を思うと、こういう明示的な操作があるのは結構良いものだと思う。
設定項目はANCの種類や強度、イコライザー、操作の割り当て。どれも使いやすく、また一度設定した設定はその後も維持される。この基本を守れないものもまた存在するが、その点も抜かり無い。イコライザーはプリセット六種と自由なカスタムが可能なタイプだ。
尚、後述の理由によりこのアプリは本当に必須だ

日本の全家庭に配備されている菓子、ビッグカツとのサイズ比較。

音質

ここまでの要素は完全無欠のイヤホンだったが、結局の所一番重要なのは音質面だ。
その音質は……濃すぎる素材の味が強烈に主張する暴れ馬、尋常じゃない問題児だ。しかも無駄に上手く調整されていて、その上で暴れ散らかしてくれるのだから意味が分からない。
まず初期イコライザー状態が特に凄まじい。12mmの大口径振動板は重低音の出力に非常に秀でていて、その味を一切調整せずフルパワーで叩きつけてくる。その上のBAも得意とする硬質な高音を精一杯に振るい、なんかもう、なんだこれ。真面目にレビューしない方がこいつは多分喜ぶ。
全体にDDとBAの音色の質感がだいぶ違っているのだが、その癖ボーカル付近が意外と上手く制御されているのが凄い。
まず初期イコライザー状態の音質を語っていく。
低域は、少し膨張感のある非常にパワフルな低音がとてつもなく分厚く大きく強く鳴る。振動管に近い重低音の領域まで非常に深く、そしてやかましく強烈に発音する。
質感としては少し緩めだが、重く多く、そして多く、やたらと多く、本当に多く、マジで多い。なんですかこれ。
取り敢えずその辺の音域が発音されているタイミングでさえあれば、兎に角常時すごい音量の低音が鳴り響く。じゃあ低音曲ではどうなると思います?そりゃ超すごい訳だ。この意味の分からない低音量の前にはレビューの為の語彙など塵芥に等しく全て消し飛んでいく。ジャイボールとか聴いてみろ。音楽と災害のどちらに近いか、と問われれば私はこれは災害であると答える。
中域は音量バランスとしては押され気味なのだが、恐らくはBAの影響か曇り無く非常にクリアに発音され、この異常な低音空間の中では奇妙なほど抜けよく耳に届く
やや膨張感ある低域と違い中域は、というよりここから上の音域は非常に輪郭が明瞭で、ややソリッドに調整された印象を受ける。
全域がフルパワーなバランスの中でこれだけ綺麗にボーカルが抜けてくる辺りこのイヤホンの音色はかなり高度にチューニングされているのだが、高度なチューニングによってこの異常な狂・パワー・低音が生み出されているという事実は色んな意味で理解し難い。
何気に下のやたらでかいDDのお陰か男性ボーカルの低めの音域の響きも感じられ、ソリッドな割には艶やかさもあるのが謎だ。
高域はこれまた素材の味が凄まじい。一昔前の中華系ハイブリッドのようなシャリ付いた高音。なお箱出し直後はシャリ付きというよりもカサつきのような印象だったが、おおよそ一時間ほどでカサカサとした力強すぎる虫の足音はシャリシャリとした力強すぎる高音に変化していった。
兎に角BAの特徴がそのまま出ている。全域に金属質で強くシャリついた質感を持ち、非常に強く主張してくる。
音数が少ない場合はソリッドに輪郭を切り出したような音色という印象になり、音数が増えるとちょっと何が鳴っているのかイマイチ分からない感じになる。が、曇ったような質感にはならないので、シャリ付いたサウンドが嫌いでなければ割と音数を問わず常に楽しめる音色だ。逆に、それが苦手な人は本当にやめておいた方がいい。
異常に強烈なサウンドではあるが、刺さりなどはかなり高度に制御されていて、不快音は(シャリ付き自体がそもそも不快に感じる人以外にとっては)基本的に無いだろう。
そのシャリ付きの都合上、伸びというものを語ることが少々難しい。一応足りてるっぽいんだけど。

音数の少ない楽曲であれば、この中高域の印象によって輪郭を綺麗に描き出しつつ迫力のある低域も楽しめるモデルという印象になる。
音数の多い楽曲の時は、この全域がド派手な音色でノリにノッて勢いで楽しむような印象だ。
どういった楽曲に合う、という話をするのはこの場合いまいちナンセンスだ。このイヤホンのでたらめな世界観に合う人には合う。多分その場合は大体何を聴いてもそれなりに楽しい。逆にこのイヤホンの世界観が合わない人、例えば原音至上主義者は回れ右するべきだ。そういう個性枠だ。
だがこのイヤホンにはイコライザー設定機能がある。ここである程度調整できる。
個人的に最も扱いやすいと思ったのはクラシックモードで、この設定にすると一般的なドンシャリ程度の音量バランスに整えられ、高域のシャリつきも多少理性的になり大分使い易いイヤホンに変貌する。つーかこれをデフォルトにしろや。これがアプリ必須の唯一にして最大の理由である。
というか、カスタムEQに対応しているのだから好き放題好みで弄れば良い。大丈夫。元が濃すぎるから幾らEQで薄めてもコイツはコイツだ。
兎に角コイツはなにかおかしい。12mmのLCP素材DDとBAという素材の味を野に放ち好き放題に大暴走させているような音色なのに、その細部をしっかり聴き込んでいくと不思議な程によく調整されている側面が顔を出す。
三ツ星レストランの一流料理人が真心込めて作り上げた二郎系ラーメン(全マシマシ)。多分、落○務シェフに脱法ドラッグを山ほどぶち込んでやった上で銃を突きつけてラーメンを作れと脅迫したら出てくる料理とか、そういうものに限りなく近いイヤホンだ。
非常に楽しめるが、明らかに王道ではない。クオリティが高いのは確かだが、同時に近い価格帯の1DD1BA構成TWSで王道かつ優秀なサウンドを実現していたKZ SK10の偉さも骨身に染みた。

ANC/外音取り込み

あまりにも音色がトチ狂っていたせいで忘れかけていたが、このイヤホンのもう一つの特徴、それがANCと外音取り込みだ。もうお腹いっぱい。
まずANCから入るが、流石にといったところかここばかりは価格相応にちゃんと効いているなといった程度で、とんでもなく強いという事もなければなにか奇妙だということもない。
低音の連続したノイズには強い、というまあ普通のANCで、高音は素通りな辺りも極普通。
電子レンジや洗濯機、エアコンの動作音(尚投稿者の根城はおおよそ定位置の背後1m辺りの位置にクソうるさい窓用エアコンが取り付けられている)などは大体無音になり、人間の声はだいたい素通り。とはいっても物理的に耳が塞がっている分の遮音性は流石にあるが、装着が浅いのでそこまでといったところ。
外音取り込みも基本的にその傾向を継いでいて、人間の声の帯域に対する効きはあまり良くない。車の接近に気が付きやすい、位のものだと思っておけばいいだろう。
急にテンションが落ち着いて温度差で風邪を引きそうな人もいるだろうが、普通の仕様なら私だってこうなんだ。私が冷静になるくらいの普通さだ。
基本的に実用的だと言えるが、特徴的ではない。なんだかんだでファン音がずっと鳴っていると気が滅入るので、あると嬉しい機能なのは間違いないし、その嬉しさを満たせるレベルにはしっかり達している。

まとめ

6000(&投稿時20%offクーポン付き)という比較的廉価な価格に想像しうる要素を大体詰め込んだイカれたモデルであるDonner Dobuds One。
過剰積載な要素の嵐に見合ったトチ狂っていながらある一つの狂気の行く末として完成された音色を持ち、それ以外の要素も概ね高水準にまとまった、中々に実用品としてもマニアのおもちゃとしても完成度の高いモデルだ。
特にタッチパネルの操作性の良さとバッテリーの点から実用品としても非常に秀でている点が有り難い。
低価格+ANC+ハイブリッド+大口径、という組み合わせに何かしら魅力を感じられたのであれば気軽に買ってみるといいだろうし、音色が面白そうだと思っただけでも買ってしまっていいだろう。
個人的にはお気に入りの、割と気軽におすすめしていく一機に加えるに値する面白さだった。
Donner Dobuds One、おすすめです。楽しいよ!

追記

奴らは正気だった。
狂ったようなチューニングは全て明確な意図と計算の上だった。
ある晩、私は衝動的に潰れるまで飲みたくなり、少し遠いコンビニに背中を丸めてとぼとぼと歩いていった。
耳にはDobuds One。低価格イヤホンを耳に詰め深夜零時に安酒とポテトの満載されたビニール袋を手にとぼとぼと背中を丸めて歩く異常成人X-Gender、完全な不審者である。しかもこの後帰ってVRChatで飲みながら未成年にダル絡みした。最悪の存在である。
そんな通報チキンレースの間、低音量でずっと音楽を流し続けている時に、このイヤホンの真価に気が付いた。
こいつ、音量を抑えても音楽のメリハリというものが損なわれない。重く響く低音は飲み屋のエアコンの室外機の騒音の中でもリズムを耳に届け、シャリ付いた強い高音はその中でも決して埋もれない。
ついでにANCの風切り音耐性も中々に高い。成程こいつは一本取られた。
室内で使っても高い完成度を感じられるモデルだが、屋外でこそ真価を発揮するというモデルだった訳だ。

だからなんで6000円のコストでここまで大量に要素を詰め込んだ上で更にそこまで明瞭なコンセプトの元に的確な調整が出来るんだよどうなってるんだよDonnerは


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