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リアルナイトメア・ビフォア・クリスマス「ファイト・ビフォア・クリスマス」(2021)

あらすじ:クリスマスに異様に命を燃やす弁護士、ジェレミー・モリスは、あまりにもド派手で異様なクリスマスイルミネーションをしたいがために隣人を訴訟し、やがてそれは世界中を巻き込む大騒動に!観た後に「もうイルミネーションはいいよ」と思いたくなる、信じられない実話です。(あと、許可は必要です)


目の色が怖い

最初、ジェレミーが「僕は、世界で唯一クリスマスイルミネーションを法律で禁止された人間だ」と言うシーンは笑っていたんですが、最後はもう笑えなかったですね。壮絶すぎて…。

なので、このドキュメンタリー映画はジェレミーという異様な現代社会が生み出してしまったモンスターと、常識人的に見えてジェレミーに同意する一面もある彼の配偶者、そして彼のムチャクチャな言動のせいで迷惑どころではないことを被った住民を描く話となっております。

ジェレミーは、笑っているけども目の奥が笑っていないというか、楯突こうとすると判断した相手には「俺が弁護士なんだぞ」と黙らせようとしてきます。そして、転び公房的なてっちあげをやって「あいつが俺たちに傷害を与えて邪魔をしようとしてくる!」という無茶苦茶なことをやってきます。配偶者が「どうして誰も近寄ってくれないのか」というけど、それじゃあ近寄る要素がねえよ。


「クリスマス」に対する戦争?

ただ、ジェレミーも悲劇というか、かわいそうな一面があります。というのも、ジェレミーという固形燃料に火をつけている方がいました。そう、「クリスマスに対する戦争」を煽っている保守系の方々です。そんなものがいるんですか、と思うかもしれませんが、います。

アメリカなどで「メリークリスマス」と言わずに「ハッピーホリデー」というようになったのは、同時期にハヌカーというユダヤ系のお祝いがありますし、そもそもチャイニーズニューイヤー(中国系の新年)を祝う方にとってはたんなる平日ですし、ようはそういうものをふまえていろいろな祝う方法があるんだから、適応していきましょうよ、という流れでした。

が、これを保守派が「これはクリスマスに対する弾圧だ!(そんなことはない)我々の文化に対する戦争だ!(そんなことはない)」と言い出すようになり、今回の件をむちゃくちゃ利用してきて「そうだそうだ!」と煽ったわけです。

今回の飾りつけも、ようは「尋常じゃないほどに人が静かな住宅地に来てしまうが大丈夫なのか」「安全面は大丈夫なのか」という住民の不安には答えておらず、自分が最優先になってしまっていました。まあ、手紙の対応がマズかったというのは同意はしますが…。

でも、そうでなければ「相手を徹底的につぶしてやる」「徹底的に恥をかかせてやる」とはならないでしょう。やっていることが完全に嫌がらせですし、「俺がクリスマスを守るんだ!」と言っていたのはドン引きものでしたよ。

ただ、どうかしている人がいたとしても、メガホンや広報には責任があるわけでして、彼一人だけだったらここまで大きくならなかっただろうな、と思ってしまうわけです。


悪夢は終わっていなかった

最後は、ジェレミーは裁判で負けました。しかし、彼の野心はそこで止まることはなく、「政治家になる」と言い残します。確かに、彼は野心家でありますし、出馬できるだけの土台も支持層もある。

でも、だからこそ恐ろしいわけですよ。人々の話を聞かず、自分の思った良いことだけを押し付ける。批判をしてきた、敵だと思った人々を徹底的につぶそうとする。敵を作って煽ろうとする。(実際、地元住民に対する理不尽な中傷が多数寄せられたが、これはジェレミーの口がうまいというか、論点のすり替えがうまかったからというのもある)

世界中でこういう人々が喝采を浴びたり、リーダーになってしまったりとするわけで、これはよくない傾向だと思うんですよね。
なぜかというと、それが良い結果をもたらしたことはないから。

クリスマスの飾りつけに関する話だと思ったら、もっと恐ろしい話でした。

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