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受け継がれる思い

僕が店主をしているお店の紹介。
和食島田洋服店は、三軒茶屋にある席数10席の小さな日本料理店です。
『くつろぎ』を大切にお客様の心と身体に心地よい空間であり料理であるよう心がけています。

この店をより楽しんで頂くために知っていて欲しいのが、分かりづらい名の由来です。
ホームページなどに書いているものよりも、もう少し詳しく書きます。

もともとは、昭和8年から80年以上続くフルオーダーの注文紳士服店『島田洋服店』でした。
二代目でもある義理の父親の引退により後継ぎがいなかったお店は幕を下ろし、2年位の間そのまま空いた状態でご近所さんのたまり場のようになっていました。

駅からも近く、誰かに貸せばそれなりの収入になるのに貸さなかったのには、長年やってきた思い入れのある店を誰かに壊されるのが嫌だったのかなと、僕は勝手に思っています。

そんな時に、料理人をやっていた僕に、「ここでお店をやれば」と言って頂きました。
なかなかラッキーな展開です。

僕も義父が引退前に作ってくれたスーツとコートを何着か持っています。
身体を採寸し、生地等いろいろなことを選びながら、フルオーダーで作られ、着心地は最高です。
驚くことに、9割以上の工程が手縫いで、残りの数パーセントを足踏みミシンで仕上げます。
そして出来上がったスーツは、made in 三軒茶屋 。

おしゃれには程遠い僕でも、世界に一つしか無いこれだけ物語のつまった一着には、愛着が湧かずにはいられません。

モットーは「着るほどに愛着の湧く洋服」、
体型の変化に合わせて何度も直しを重ねたり、
父から息子に引き継がれる背広があったり、
時には余った生地でお孫さんの半ズボンを作ってあげたりしたと言う話を聞きました。

売って終わりではなく、売ってからが繋がりの始まり。

そんな話を聞き、素敵な店がなくなるのがとても残念な気持ちと同時に、自分がやるならそんな店にしたいなと思いました。

そして、作るものは変わっても、島田洋服店が培ってきた格式や信頼、思いやこだわり、作りの心と空間を引き継ぎたい! そんな気持ちから、
「和食 島田洋服店」と名付けました。

ミシンの看板や外観、床や棚、作業していた台をテーブルにしたり、当時の多くのものを残し使っています。

最後に二代目の娘、つまり僕の妻が、父が引退時に残した言葉で締めます。

『路地を入ると見えるミシンの看板、レンガ敷きの小さなパティオ、その奥に明かりの灯った店。
父が自分の思いを形にしたこの店を、母が細かい手入れを繰り返しながら30年間保ってきた。ドア越しに店の中をのぞくと、いつもだれかしら座って話をしている姿が見えた。人が集まる場だったと思う。
小さい頃は、仕事場でよく遊んだ。アイロンを水につけると勢いよく上がる蒸気の音、糸をしごく音、足踏みミシンの回る音、羅紗を切る鋏の音・・・ いろいろな心地よい音がしていた。
祖父母の代から、両親の代へと引き継がれた街の洋服店。三代目として店を継ぐことはできなかったが、受け継がれてきた手仕事への思いと人と人とのつながりの大切さは、しっかりと私たちの代も受け継いだと思っている。』


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